氷の花嫁は愛を知らない



「来るぞ!」


 白夜が低く唸るように言った瞬間だった。

 ばたばたと、離れの廊下を駆ける足音が響く。

 次いで、障子の向こうから切羽詰まった声が飛んだ。


「冬乃様っ!!」


 ゆきがすぐに障子を開けると、そこには数人の使用人たちが青ざめた顔で立っていた。


「妖魔が……っ、屋敷の中へ……!」

「本邸は?」


 白夜が鋭く問いかける。


「九条家の陰陽師様方が応戦してくださっています! ですが、一部がこちら側へ……!」


 使用人の肩が恐怖で震えている中、冬乃は静かに立ち上がった。


「主様」


 ゆきが止めるように名を呼ぶが、冬乃は小さく首を横に振る。


「みんな、怪我してる」


 使用人の腕には複数の浅い傷が見えていた。

 白夜が苛立たしげに舌打ちする。


「離れへ近づくとは……」


 廊下の奥から、低く濁った唸り声が響く。

 闇の奥に、黒い影。

 人の形を歪に引き伸ばしたような妖魔が、濁った目をゆっくりとこちらを向ける。

 白夜が前へ出た。


「下がれ」


 その瞬間、妖魔が飛びかかってくる。

 だが瞬きをしたときには、白夜の放った氷槍が妖魔の身体を貫いていた。