氷の花嫁は愛を知らない

 人の足音に張り詰めた声。

 そして一瞬遅れて、耳をつんざくような鋭い悲鳴が夜へ響いた。

 しずくが息を呑む。


「っ……!」


 白夜が舌打ちする。


「正門側か……」


 離れからは遠いが、結界が破られた以上、安心はできなかった。

 濁った妖気が、ゆっくりと屋敷の中へ広がっていくのが分かる。

 ゆきが冬乃の側へ跪いた。


「主様。どうか私たちの側を離れませんよう」

「うん」


 冬乃は静かに頷き、再び目を閉じる。

 鈴の音が、静かな部屋へ響いた。

 しずくが小さな手で鈴を鳴らし、ゆきが護符へ霊力を流し込む。

 白夜は鋭い目を外へ向けたまま、結界の気配を探っていた。

 外では、何かが起きている。

 けれど離れの中だけは、まだ奇妙な静けさに包まれていた。


 ──それが、嵐の前の静寂だとも知らずに。