ひとりぼっちのヒーローと、星になった宇宙人

「僕ね、もう少ししたら、宇宙に還るんだ」

 ふと夜空を見上げて、流星は言った。
 だから、わたしは聞いてみた。
 宇宙って、どんなところって。そしたら、彼は、

「広くて自由なところ。学校も仕事もないし、何も考えなくていい」

 そんな場所があったなら、魅力的だと思った。

「だったらさ、わたしも連れてってよ、宇宙」

 すると、流星は驚いたような、困ったような表情を浮かべて、首を横に振った。
 当然の反応だ。しょせん、全ては、わたし達の空想話なのだから。

「そっか、それは残念だなぁ」

 わざとらしいリアクション。
 でも、ほんの一瞬だけ、彼なら、いいよって言ってくれるんじゃないかって、期待してしまった自分がいた。

「ならさ、代わりに、これ持って行ってくれない? 地球のお土産ってことで」
「バッジ?」
「うん」

 あの日、和葉がいなくなった後、一人で結星のバッジを探した。
 もしかしたら、運良く浅瀬の岩や海藻に引っ掛かっているんじゃないかって。

 でも、結局、砂まみれになっただけで諦めた。
 今となってはもう、わたしの知らない、遥か遠くの地に流れ着いているかもしれない。

「わたしには、もう必要ない物だから」

 ずっと、わたしだけが、ヒーローを卒業できずにいた。
 あの日、和葉にやめにしようと言われても。未練がましく囚われていた。
 でも、もういい加減、決別するべきなんだろう。

「可愛いお星様の形だね」

「一応、ヒトデなんだけどね、それ」
「えっ、そうなの? 言われなきゃ、分からなかったなぁ」

 受け取ったバッジを、流星は月の光にかざした。
 すると、ちょうど、バッジの周りを縁取るように青いシルエットが浮かんできて、確かに本物の星みたいに見えた。

「ねぇ、せなちゃん」
「なに?」
 
 波風の音が静かになる。
 まるで、わたしと流星のいる空間だけが、世界から別離されているみたいだった。

「君のことが好きです」
「……へ?」

 波間を縫って出てきたのは、素っ頓狂な声だった。
 何度も何度も、彼の言葉を脳内で反芻してしまう。

「それは、likeとlove、どっち??」 
「loveの方」

 小声だったのに、彼の答えは、はっきりと鼓膜に届いた。

「……ごめん。わたし、好きな人がいるんだ」
 
 流星のことは、嫌いじゃない。
 むしろ、ここ最近のわたしは、彼と過ごす時間に心を癒やされていた。
 でも、それは、あくまでも。

「そう、だよね」

 流星が顔を上げる。

「謝るのは、僕の方だ。いきなり変なことを言って、ごめんね」

 そう言って、流星は笑った。
 けれど、その瞬間、彼の瞳は、この世で一番、儚い青を映していた。

 そして、それが、流星と交わした最後の会話になった。

 次の日も、そのまた次の日も、彼が夜の海に現れることはなくなった。
 
 そもそもわたしは、彼の素性をよく知らない。
 名前の通り流れ星と共にやってきて、突然、消え去った少年。
 まさか、本当に宇宙人だったとでもいうんだろうか。

 彼に好きだと告げられた時、結星の顔が頭に浮かんだ。
 わたしは、今でも彼を愛している。
 なんて言ったら、未練がましい女みたいだけれど。
 彼を裏切るようなことなんて、できなかったよ。

 流星と会わなくなってから夜が長くなった。
 孤独というのは、時の流れまでもを鈍化させるらしい。