適当にくつろいでてと、流星に声をかけ、コンロの火をかける。
点火つまみの部分が錆で固くなっていて、なかなか動かなかった。
家が古いのもあるけど、それくらい使っていなかったんだろう。
おばあちゃんがいた頃は、そんなこともなかったのだけれど。
焦げ付かないように、鍋の中のルーをかき混ぜる。
鼻を刺激するスパイスの香ばしい匂いに、おばあちゃんのカレーを思い出した。
昔、辛い物が苦手だったわたしに、おばあちゃんは、食べやすいようにりんごとはちみつを入れてくれた。わたしは、その味が大好きだった。
レンジの音にハッとする。
パックのご飯を温めていたのを、すっかり忘れていた。
「僕にも何か、手伝えることあるかな?」
和室の襖から流星が顔を出す。
そわそわした様子を見るに、あんまり人の家に行ったことがないのかもしれない。とか言って、わたしも行ったことがあるのは、それこそ和葉と、結星の二人の家くらいだったけれど。
「じゃあ、そこの棚から、お皿取ってくれる?」
「うん、わかった」
にこやかに返事をする。
彼の笑顔には、時々、ちょっと幼さを感じる。
ひょっとしたら、わたしが思っているより年が下なのかもしれない。
いただきますと、マナーよく手を合わせてから、流星はスプーンを口に運んだ。
そのスプーンを持つ手が、ぴたりと止まる。
「ごめん、もしかして、焦げてた?」
「ううん」
慌てて聞くと、彼は首を横に振り、頬筋を緩ませた。
「すごく美味しい」
お口に召したようで、ほっとした。
いや、まぁ、作ってくれたのは和葉であって、わたしは出来合いの物を温めただけなんだけれど。
「宇宙人も、カレー食べるんだね」
「僕らはみんな雑食なんだ。でも、このカレーは特別かな。せなちゃんが、作ったの?」
「まさか。お節介な友達が、お昼に持ってきたの」
「友達……。そっか。良いお友達さんがいるんだね」
そうこぼした彼の瞳には、哀愁が垣間見えた。
あんまり触れない方がいい話題かもしれない。
「いっぱい食べて。まだおかわりもあるから」
そう言って、席を立つ。
再び台所に移動して、自分用とは別に棚から小皿を取り出した。
それにご飯とルーをよそって、仏壇の前に置く。
となりに飾ってある写真には、生きていた頃のおばあちゃんとおじいちゃんが仲良さそうに映っている。
「お線香、僕もあげていい?」
「えっ」
「ダメ、かな?」
「いや、全然、ダメってことはないけど」
まだ食べている途中の彼が、後ろに立っていた。
こうして、見下ろされると、改めて身長差を実感する。
結星も背は高い方だったけれど、当時は中学生で、まだ成長期に差し掛かったばかりだったから。
「せなちゃんは、僕の恩人だから。ご先祖様にも挨拶しておこうと思って」
仏壇の前に正座すると、流星は合唱して、恭しく頭を下げた。
それもそこそこ長い時間、目を瞑っていたように思う。
自称宇宙人のわりに、すごく真摯的だ。
「せなちゃんは、今日が何の日か知ってる?」
聞かれた時、ちょうど、タイミングを見計らったかのように、後ろで大きな音がした。
この音は……花火?
壁にかけてあったカレンダーの日付を確認する。
そうか、今日は七月七日。
七夕祭の日だった。
七夕祭は、この地域伝統のお祭りだ。
年に一回、毎年、七夕の日に開催される。
そして、お祭りの最後には、打ち上げ花火が上がる。
最後にみんなで行ったのは、いつだっけ。
確か、中学二年の夏だったはず。
でも、あの時は、花火が上がる直前になって、和葉がどっか行っちゃったんだっけ。
でも、今になって思えば、あれは和葉の作戦だったのかもしれない。
あの頃、わたしと結星は付き合って間もなかったから。
彼女なりに機転を利かせてくれたのかも、なんて。
ほんと、いつになっても、お節介が過ぎるよ。
* * *
ヒーローズを結成したその年、三人で七夕祭に行った。
親睦会だと称していたけれど、当時、小学三年生にしては難しいその単語の意味を、正しく理解していたのは、結星だけだったように思う。彼は、わたし達の中で一番頭が良かったから。
和葉はなんとなく、楽しいお祝い事——あながち間違ってもないけど——のように思っていたし、わたしはわたしで、外国の言葉かな、なんて認識だった。
家柄がよく、小さい頃から英才教育を受けていた結星は、成績優秀で、中学生にもなると、学年トップのエリートなんて呼ばれていた。
逆に勉強が苦手な和葉は、運動神経がズバ抜けて良かった。
考えるより先に体が動くタイプ。けれど、意外にも家庭的な一面があった和葉に好意を寄せていた男子も少なくない。もっとも、当の本人は、そういう色恋沙汰 には、まるで無頓着だったけれど。
比べて、何をとっても平均的だったわたし。
本音を言えば、ちょっと気後れしていた。
自分にはない、圧倒的な輝きを持っている二人に。
三人で七夕祭に行くことを話したら、おばあちゃんがお小遣いを持たせてくれた。
お祭りは、夕方からなのに、待ち切れなくて、一時間も前から、家に迎えにきた和葉と、それに付き合わされた結星を見て、おばあちゃんは嬉しそうに笑っていた。
七夕祭には、それ以前に何回か、おばあちゃんと行ったことがあった。
でも、小学生になった頃くらいから、それもぱったりと行かなくなってしまった。
というのも、その頃から、おばあちゃんは足腰が弱り始めていて、近所のスーパーへ買い物へ行くのにも、杖を持っていくようになっていた。
そんなおばあちゃんを外へ連れ回すわけにはいかなくて。
だからといって、一人でお祭りに行く理由も見つからなかった。
二人と見たお祭りの夜の景色は、すごく賑やかだった。
街を練り歩くお神輿に、楽しげな祭囃子の音、屋台に立ちこめるソースの匂い。
道行く人々の顔は、みんな笑顔であふれていた。
みんなが最後まで、お祭りを楽しめるように、人々の笑顔を守ること。
それが今日の自分達の任務だ。
なんて、自分から見栄を切ったくせして、一番はしゃいでいたのは、やっぱり、和葉だった。
ヒーローといえど、悪の組織と戦ったり、迫りくる危機から地球を救ったりだとかは、テレビの中の話であって。わたし達の活動のほとんどは、迷い猫探しだったり、砂浜のゴミ拾いだったりと、一言で言えば、地味なものだった。
けれど、わたしは和葉や結星と過ごす、取るに足らない日々が、心地良いと感じた。
なにより、ありがとうと感謝されることが嬉しかったんだ。
散々、人を不幸にしてきたわたしでも、誰かを笑顔にできるんだって。
それまで知らなかった温かい感情に、心が満たされていった。
お腹が空いたという和葉に付き合い、三人でたこ焼きを分けっこした後、みんなで射的に挑戦した。運動神経だけじゃなく、感覚もいい和葉は、二発も命中させていた。
対するわたしは、ピストルの撃ち方はおろか、弾の詰め方すら、ろくにわからなくて、結星に教えてもらった。それでも上手く的に当てられなくて、落こんでいたら、「初めは誰でも簡単にできるわけじゃない。また挑戦しに来よう」なんて、励ましてくれた。
結果は、和葉の二発と、後、一発は結星が当てた。
和葉は、「二発かぁ」と、終わった後も、まだちょっと物足りなさそうだった。
一発も当てられなかったわたしからしたら、十分、すごいのに。
的の景品は、三つとも同じヒトデのバッジだった。
ただ、それぞれの色が違って、赤青緑の三色に分かれていた。
「これって、あたし達の色と一緒じゃない?」
バッジを見比べて、和葉が言った。
「これ、あたし達のヒーローバッジにしようよ!」
「ヒトデのバッジを?」
「そう! 付けたら、星みたいで、カッコイイと思うんだ」
「いや、まぁ、確かに形は似てるかもしれないけど」
カッコイイかと聞かれれば、うなずきかねる。
わたしと結星は、顔を見合わせた。結星も反応に困っているようだった。
「うん、いい感じ!」
けれど、和葉は、たいそう気に入ったようで、結局、三人でつけるはめになった。
* * *
「花火、綺麗だね」
おかわりのカレーを食べ終え、流星は、家の縁側からじっと空を見上げていた。
大きな音が、鼓膜を揺らす。
彼の青い瞳の水面に、有彩色の花びらが散った。
「花火ってさ、人間の一生に似てると思わない?」
「急に道徳的だね。でも、それ、宇宙人の流星が言っちゃっていいの?」
指摘すると、彼は誤魔化すように笑って、頭の後ろをかいた。
「輝いてる時間なんて、ほんの一瞬でさ。最期なんか、あっけなく消えちゃうんだ」
花びらの色を映していた水面が、ふと曇る。
触れたら壊れてしまいそうなくらい儚い横顔。
気の利いた言葉なんて見つからなくて。
わたしは黙って彼のとなりに座った。
* * *
「和葉はどうして、ヒーローになろうと思ったの?」
それは、和葉の家でのこと。
三人で集まって、お菓子を食べていた時、わたしは、ふと気になって聞いてみた。
「それ、おれも知りたい」
意外にも、結星は、和葉がヒーローになろうと思った理由を知らなかった。
いつの日か、ヒーローズは和葉の提案で始めたと言っていたから、てっきり、知らないのは、わたしだけだと思っていた。
「強くなりたかったから」
「ざっくりだね」
すかさず入った結星のツッコミに、和葉が唇を尖らせる。
夫婦漫才みたいで、ちょっと笑ってしまった。
「昔、あたしの弟がいじわるされてね。あたし、弟をいじめたそのガキ大将に怒ったの。でも、そしたら、ケンカになっちゃって」
男の子とケンカするなんて。
大した度胸だと思った。ある意味、和葉らしくはあるけれど。
「その時は、たまたま近所のおじさんが止めてくれたんだけど、弟が全然、泣き止まなくてね。もっと、あたしが強くならなきゃって思ったんだ。弟を守れるくらいに」
自分が強くなれば、守ってあげられる人だって増える。
だから、和葉は、いつだって強く正しいテレビの中のヒーローに憧れたのだと。
思いの外、ちゃんとした理由があって、感心した。
わたしは一人っ子だけれど、和葉のようなお姉ちゃんがいたら、頼もしいだろうなとも。
でも、結星だけは、
「和葉の言うことも、立派な理由だと思うよ。でも、おれは、守ることだけが、ヒーローの役目じゃないと思うんだ」
当時、わたしと和葉は、目をあわせてきょとんとしていた。
彼の言葉の真理を理解するには、わたし達は幼すぎたのだ。
点火つまみの部分が錆で固くなっていて、なかなか動かなかった。
家が古いのもあるけど、それくらい使っていなかったんだろう。
おばあちゃんがいた頃は、そんなこともなかったのだけれど。
焦げ付かないように、鍋の中のルーをかき混ぜる。
鼻を刺激するスパイスの香ばしい匂いに、おばあちゃんのカレーを思い出した。
昔、辛い物が苦手だったわたしに、おばあちゃんは、食べやすいようにりんごとはちみつを入れてくれた。わたしは、その味が大好きだった。
レンジの音にハッとする。
パックのご飯を温めていたのを、すっかり忘れていた。
「僕にも何か、手伝えることあるかな?」
和室の襖から流星が顔を出す。
そわそわした様子を見るに、あんまり人の家に行ったことがないのかもしれない。とか言って、わたしも行ったことがあるのは、それこそ和葉と、結星の二人の家くらいだったけれど。
「じゃあ、そこの棚から、お皿取ってくれる?」
「うん、わかった」
にこやかに返事をする。
彼の笑顔には、時々、ちょっと幼さを感じる。
ひょっとしたら、わたしが思っているより年が下なのかもしれない。
いただきますと、マナーよく手を合わせてから、流星はスプーンを口に運んだ。
そのスプーンを持つ手が、ぴたりと止まる。
「ごめん、もしかして、焦げてた?」
「ううん」
慌てて聞くと、彼は首を横に振り、頬筋を緩ませた。
「すごく美味しい」
お口に召したようで、ほっとした。
いや、まぁ、作ってくれたのは和葉であって、わたしは出来合いの物を温めただけなんだけれど。
「宇宙人も、カレー食べるんだね」
「僕らはみんな雑食なんだ。でも、このカレーは特別かな。せなちゃんが、作ったの?」
「まさか。お節介な友達が、お昼に持ってきたの」
「友達……。そっか。良いお友達さんがいるんだね」
そうこぼした彼の瞳には、哀愁が垣間見えた。
あんまり触れない方がいい話題かもしれない。
「いっぱい食べて。まだおかわりもあるから」
そう言って、席を立つ。
再び台所に移動して、自分用とは別に棚から小皿を取り出した。
それにご飯とルーをよそって、仏壇の前に置く。
となりに飾ってある写真には、生きていた頃のおばあちゃんとおじいちゃんが仲良さそうに映っている。
「お線香、僕もあげていい?」
「えっ」
「ダメ、かな?」
「いや、全然、ダメってことはないけど」
まだ食べている途中の彼が、後ろに立っていた。
こうして、見下ろされると、改めて身長差を実感する。
結星も背は高い方だったけれど、当時は中学生で、まだ成長期に差し掛かったばかりだったから。
「せなちゃんは、僕の恩人だから。ご先祖様にも挨拶しておこうと思って」
仏壇の前に正座すると、流星は合唱して、恭しく頭を下げた。
それもそこそこ長い時間、目を瞑っていたように思う。
自称宇宙人のわりに、すごく真摯的だ。
「せなちゃんは、今日が何の日か知ってる?」
聞かれた時、ちょうど、タイミングを見計らったかのように、後ろで大きな音がした。
この音は……花火?
壁にかけてあったカレンダーの日付を確認する。
そうか、今日は七月七日。
七夕祭の日だった。
七夕祭は、この地域伝統のお祭りだ。
年に一回、毎年、七夕の日に開催される。
そして、お祭りの最後には、打ち上げ花火が上がる。
最後にみんなで行ったのは、いつだっけ。
確か、中学二年の夏だったはず。
でも、あの時は、花火が上がる直前になって、和葉がどっか行っちゃったんだっけ。
でも、今になって思えば、あれは和葉の作戦だったのかもしれない。
あの頃、わたしと結星は付き合って間もなかったから。
彼女なりに機転を利かせてくれたのかも、なんて。
ほんと、いつになっても、お節介が過ぎるよ。
* * *
ヒーローズを結成したその年、三人で七夕祭に行った。
親睦会だと称していたけれど、当時、小学三年生にしては難しいその単語の意味を、正しく理解していたのは、結星だけだったように思う。彼は、わたし達の中で一番頭が良かったから。
和葉はなんとなく、楽しいお祝い事——あながち間違ってもないけど——のように思っていたし、わたしはわたしで、外国の言葉かな、なんて認識だった。
家柄がよく、小さい頃から英才教育を受けていた結星は、成績優秀で、中学生にもなると、学年トップのエリートなんて呼ばれていた。
逆に勉強が苦手な和葉は、運動神経がズバ抜けて良かった。
考えるより先に体が動くタイプ。けれど、意外にも家庭的な一面があった和葉に好意を寄せていた男子も少なくない。もっとも、当の本人は、そういう色恋沙汰 には、まるで無頓着だったけれど。
比べて、何をとっても平均的だったわたし。
本音を言えば、ちょっと気後れしていた。
自分にはない、圧倒的な輝きを持っている二人に。
三人で七夕祭に行くことを話したら、おばあちゃんがお小遣いを持たせてくれた。
お祭りは、夕方からなのに、待ち切れなくて、一時間も前から、家に迎えにきた和葉と、それに付き合わされた結星を見て、おばあちゃんは嬉しそうに笑っていた。
七夕祭には、それ以前に何回か、おばあちゃんと行ったことがあった。
でも、小学生になった頃くらいから、それもぱったりと行かなくなってしまった。
というのも、その頃から、おばあちゃんは足腰が弱り始めていて、近所のスーパーへ買い物へ行くのにも、杖を持っていくようになっていた。
そんなおばあちゃんを外へ連れ回すわけにはいかなくて。
だからといって、一人でお祭りに行く理由も見つからなかった。
二人と見たお祭りの夜の景色は、すごく賑やかだった。
街を練り歩くお神輿に、楽しげな祭囃子の音、屋台に立ちこめるソースの匂い。
道行く人々の顔は、みんな笑顔であふれていた。
みんなが最後まで、お祭りを楽しめるように、人々の笑顔を守ること。
それが今日の自分達の任務だ。
なんて、自分から見栄を切ったくせして、一番はしゃいでいたのは、やっぱり、和葉だった。
ヒーローといえど、悪の組織と戦ったり、迫りくる危機から地球を救ったりだとかは、テレビの中の話であって。わたし達の活動のほとんどは、迷い猫探しだったり、砂浜のゴミ拾いだったりと、一言で言えば、地味なものだった。
けれど、わたしは和葉や結星と過ごす、取るに足らない日々が、心地良いと感じた。
なにより、ありがとうと感謝されることが嬉しかったんだ。
散々、人を不幸にしてきたわたしでも、誰かを笑顔にできるんだって。
それまで知らなかった温かい感情に、心が満たされていった。
お腹が空いたという和葉に付き合い、三人でたこ焼きを分けっこした後、みんなで射的に挑戦した。運動神経だけじゃなく、感覚もいい和葉は、二発も命中させていた。
対するわたしは、ピストルの撃ち方はおろか、弾の詰め方すら、ろくにわからなくて、結星に教えてもらった。それでも上手く的に当てられなくて、落こんでいたら、「初めは誰でも簡単にできるわけじゃない。また挑戦しに来よう」なんて、励ましてくれた。
結果は、和葉の二発と、後、一発は結星が当てた。
和葉は、「二発かぁ」と、終わった後も、まだちょっと物足りなさそうだった。
一発も当てられなかったわたしからしたら、十分、すごいのに。
的の景品は、三つとも同じヒトデのバッジだった。
ただ、それぞれの色が違って、赤青緑の三色に分かれていた。
「これって、あたし達の色と一緒じゃない?」
バッジを見比べて、和葉が言った。
「これ、あたし達のヒーローバッジにしようよ!」
「ヒトデのバッジを?」
「そう! 付けたら、星みたいで、カッコイイと思うんだ」
「いや、まぁ、確かに形は似てるかもしれないけど」
カッコイイかと聞かれれば、うなずきかねる。
わたしと結星は、顔を見合わせた。結星も反応に困っているようだった。
「うん、いい感じ!」
けれど、和葉は、たいそう気に入ったようで、結局、三人でつけるはめになった。
* * *
「花火、綺麗だね」
おかわりのカレーを食べ終え、流星は、家の縁側からじっと空を見上げていた。
大きな音が、鼓膜を揺らす。
彼の青い瞳の水面に、有彩色の花びらが散った。
「花火ってさ、人間の一生に似てると思わない?」
「急に道徳的だね。でも、それ、宇宙人の流星が言っちゃっていいの?」
指摘すると、彼は誤魔化すように笑って、頭の後ろをかいた。
「輝いてる時間なんて、ほんの一瞬でさ。最期なんか、あっけなく消えちゃうんだ」
花びらの色を映していた水面が、ふと曇る。
触れたら壊れてしまいそうなくらい儚い横顔。
気の利いた言葉なんて見つからなくて。
わたしは黙って彼のとなりに座った。
* * *
「和葉はどうして、ヒーローになろうと思ったの?」
それは、和葉の家でのこと。
三人で集まって、お菓子を食べていた時、わたしは、ふと気になって聞いてみた。
「それ、おれも知りたい」
意外にも、結星は、和葉がヒーローになろうと思った理由を知らなかった。
いつの日か、ヒーローズは和葉の提案で始めたと言っていたから、てっきり、知らないのは、わたしだけだと思っていた。
「強くなりたかったから」
「ざっくりだね」
すかさず入った結星のツッコミに、和葉が唇を尖らせる。
夫婦漫才みたいで、ちょっと笑ってしまった。
「昔、あたしの弟がいじわるされてね。あたし、弟をいじめたそのガキ大将に怒ったの。でも、そしたら、ケンカになっちゃって」
男の子とケンカするなんて。
大した度胸だと思った。ある意味、和葉らしくはあるけれど。
「その時は、たまたま近所のおじさんが止めてくれたんだけど、弟が全然、泣き止まなくてね。もっと、あたしが強くならなきゃって思ったんだ。弟を守れるくらいに」
自分が強くなれば、守ってあげられる人だって増える。
だから、和葉は、いつだって強く正しいテレビの中のヒーローに憧れたのだと。
思いの外、ちゃんとした理由があって、感心した。
わたしは一人っ子だけれど、和葉のようなお姉ちゃんがいたら、頼もしいだろうなとも。
でも、結星だけは、
「和葉の言うことも、立派な理由だと思うよ。でも、おれは、守ることだけが、ヒーローの役目じゃないと思うんだ」
当時、わたしと和葉は、目をあわせてきょとんとしていた。
彼の言葉の真理を理解するには、わたし達は幼すぎたのだ。



