ひとりぼっちのヒーローと、星になった宇宙人

 数週間後。
 今日は、流星の四十九日だった。
 その間、世間は夏休みを迎え、朝も昼も晩も夏虫の声で賑わっている。

 押し入れにしまってあった制服は、着ていなかった割に綺麗だった。
 生前、おばあちゃんがお手入れしてくれていたおかげだろう。
 おばあちゃんには、本当に感謝しかない。

「あんたほど、制服が似合わない女子高校生って、そうそういないわよね」

 納骨が終わった後も、まだ墓地に残っていたわたし達。
 今日の和葉は、ポニーテールをきちっと結んでいた。
「いつものパーカーは?」
「こんな真夏日に着てたら、熱中症になるよ」
「そのくせ、この前は家でも着てたじゃない。後、暑いから学校は行かないんだっけ?」
「まぁ、夏休みが終わったら本気出すよ。九月になれば、少しは涼しくなってるだろうし」
「ふーん」
 
 ここ最近で、和葉の顔を見ない日は、ほぼない。
 放課後、学校のプリントやら、ノートやらを持ってきては、どさくさに紛れて、わたしの家でくつろいでいたりする。まぁ、でも、そういう時は、いつも夕飯まで作っていってくれるから、結果的には、ウィンウィンなのかもしれないけれど。

「ねぇ、せな」
「なに? あー、もしかして、ぶったこと、まだ根に持ってる……?」

 でも、先にぶってきたのは和葉の方だし。
 あれで、おあいこだと思ったんだけどな。

 なんて言い訳を考えていると、和葉は肩をすくめた。

「違うわよ」

 はっきり否定される。

「これを、あんたに渡そうと思って」

 そして、和葉がスカートのポケットから取り出したのは、

「ヒーローバッジ……。もしかして、結星の?」

 和葉は、うなずいた。

「なんで、ここに。だって、あの時、海に……」
「捨てようとしたよ。でも、できなかった」
「じゃあ、ずっと持ってたの? わたしに内緒で」
「うん」

 バツが悪そうに目を背けた和葉。
 わかりやすい態度に、つい笑いがこらえられなかった。

「よかった」
 
 心音(こころね)がこぼれる

「和葉だって、本気でやめようとしたわけじゃなかったんだね」
「ま、まぁね。だって、あたし、リーダーだし」

 なんて見栄を張っている。

 ちょっと強引なところはあるけれど。
 それでこそ、わたしの知っている本来の和葉だ。

「ねぇ、和葉、知ってる? 人は死んだらどうなるか」
「知らない。ていうか、死後の世界のことなんて、生きてるあたし達にわかりっこないじゃない」
「確かにそうだね。でも、わたし思うんだ。人は死んだら星になるんじゃないかって」

 眉間にしわを寄せ、和葉は首をもたげた。

「せなって、意外に迷信とか信じるタイプだよね」
「さぁ、どうだろう。わたしは自分が信じたものを信じたいだけ」
「なによ、それ」
 
 くっきりしたアイラインが弛緩する。

「でも、そうね。それなら、少しは気が晴れたかも」

 和葉が握りしめていたのは、流星の遺書だった。

 彼は合計で、遺書を三つも書き残していた。
 その内、一つはわたしに、残る二つは、流星の家族と、和葉宛てだったらしい。
 
 つまり流星は、わざわざ和葉には、家族のと別で用意していたことになる。
 わたしは、その内容を知らないけれど。
 手紙にはきっと、姉弟だけの絆が綴られているのだろう。

「あの子、ずっと宇宙飛行士になるのが夢だったから。今頃、広い宇宙のどこかで、のびのび過ごしてくれてたらいいなぁ」

 空を見上げながら、和葉はつぶやく。

 青い風が、夏の匂いを運んだ。
 
 それは優しくて、温かいのに。
 ほんの少しだけ、鼻の奥がツンとする。

 わたし達は、これからもきっと、いくつもの悲しみに遭遇するのだろう。
 そして、それは生きている限り、避けては通れない。

 時に現実は、ものすごく理不尽で残酷だ。
 光なんて見たくもないと感じる時があるかもしれない。
 世界に見捨てられたように思えて、死にたくなる時があるかもしれない。

 疲れた時は、一度、立ち止まっていい。
 だけど、変えられるはずの未来までもを、自分で断ち切ったら駄目なんだ。
 
 たとえ、弱くて、かっこ悪くても。
 みんなの憧れになんてなれなくても。

 わたしは、わたしの信じたヒーローでいたい。