「――慎。
お前が“悠”を探してた5年、
マスターはどうしてたと思う?」
兄貴の言葉に、
――ハッとした。
俺は今、
深く反省している。
昨日、
バイトの帰り際、
ベルが鳴る扉を出る時、
俺、悠に八つ当たりした。
嫌な言い方した。
あの時の悠の顔が

俺の心に
深く刺さってる。
「強烈にダサいな。」
恥ずかしくて
頭を抱えたくなる。
覚えてる覚えてない、とか。
もっとあるじゃん、とか。
寂しい、とか。
俺、自分ばっかで。
勝手に
期待押し付けて
幻滅して
八つ当たりして
最悪だ――。
俺が5年という年月に
擦り切れていたように、
悠もまた
俺とは別の5年を、生きてきた。
そこは間違えちゃいけない。
ヒュウッ……!
強い風が吹く。
「ぅわ!いてっ……」
目をこすり、空を見上げる。
雲の流れが速い。
ゴォォ……
遠くから、
風の音がこだまする。

「気圧乱れてんなぁ……。
――夏はすぐそこか。」
低く速く流れていく雲を
じっと見つめる。
「さて、バイト行くか。」
―――――
カラン……
珈琲館の扉を開ける。
「ちーっす!」
もうちょい
マシな挨拶があるだろうよ。
変に普通を装いすぎた。
結果、
とてもアホそうな登場である。
リュックを背中から降ろし、
顔を上げる。
うっ……
またカウンターに……
伸びてる高校生。
「なぁ、悠、
……ギャップありすぎだろ。」
笑いながら、近づく。
しん……。
「――おい?」
手を出す。
指が躊躇う。
ギュッと握りしめ、
また手を出す。
悠の肩に、
そっと乗せる。
悠がピクッと動く。
頭を上げ、
ゆっくりと
こっちを見あげる。
ボサボサの前髪。
その奥に見える
丸メガネ越しの瞳が
虚ろにゆらめき、
やっと、
俺を確認する。

「――あれ?……慎。
もうそんな時間か……。」
「ひどい顔だな……
なんだ?睡眠不足か?」
それは俺なのだが。
どうしたものか、
他にいい言葉が見つからない。
「……頭と身体が痛くてね。
今日みたいな日は、
苦手なんだ。」
「うん。風が強くて
ひと降りしそうではあるな。」
あ、そうか。
低気圧か。
古傷が痛むとか言うよな。
――もしかして。
目線を
2度、3度、
泳がせ、
言葉を絞り出す。
「怪我が疼く……とか?」
悠が、パッと俺を見る。
一瞬、驚いたような目をして。
「あぁ……うん。そうなんだ。
これからも度々あるから、
話しておこうかな。
――いい機会だ。」
ドクッ。
みぞおちが跳ねる。
ゴクッと喉が動く。
でも普通に。
通常の俺で居たい。
「何だよ、改まって。」
ヘラッと笑う。
悠も
キュッと口角を上げる。
「これ……昔の怪我の名残りなんだ。
ちょっと大きな怪我してさ。」
「大きな怪我?」
我ながら、うまい。
知らないフリが
上出来だ。
―――――
5年前のある日、
悠は学校に来なくなった。
忘れもしない中二の夏。
あの――胸のざわつき。
ザワザワと痛くて
俺は戸惑ったっけ。
朝のHR。
担任が深刻な面持ちで
教壇に立ってた。
『――悠くんだが、
夏休みに事故に遭って、
全身の怪我と、
頭部外傷が重くて、
しばらく学校には来られない。』
――え。
目の前が暗くなった。
ガーンって音を
初めて聞いた。
夏休みに入る少し前に
俺は、
路上で歌うクラスメイトに会った。
塾の帰り道、
なんとなく遠回りした日。
兄貴が、
――家を出て行った日。
どんな顔して見送ったらいいか
わからなさすぎて
家に帰りたくなくて……。
ぼんやり歩く俺の耳に、
まるで侵入するかのように、
するりと入ってきた
その――歌声。
誘われるままに
その声の元へ、
足が向かう。
まばらに囲む
大人たちの層を、
そっとすり抜ける。
真正面から
目に飛び込んできたのは、
ギターを抱えた悠の姿。
ずっとそこに居たように
座っていた。
その存在感に、息を飲む。
『アイツ……同じクラスの。』
うわ……めちゃいい声じゃん。
なんだろう。
耳から入って、
腹の中に溜まってく。
飢えてる俺が、
満たされていく。
気づいたらスマホの
録音ボタンを押してた。
塾の帰り道、
そこへ通うようになった。
少しずつ、悠と
言葉を交わすことも増えていった。
いつしか、
悠の傍の片隅に
俺の居場所が出来たんだ。

俺はそこに座って、
ただ、耳を傾け、
乾いた心が潤うのを待った。
悠の形のいい唇が動く。
『お前、大変だなぁ。』
『何が大変なんだよ。普通だよ。』
『だって、無自覚の
感情ジェットコースターじゃん。』
『なんだそれ。』
悠の口元がニッと笑う。
『感受性が強すぎるんだよ、お前は。』
そう言うと、
またギターの弦を
指先で弾き始めた。
優しく、弦を弾く。
滑らせるように
コードを辿る。
その指先に、
時折、目線を投げる悠。
すぐに、
ふっ……と
宙を射るように、目線を流す。
悠の指、
眼差し、
声、
飾らない佇まい、
全てを
――目に焼き付けた。
それこそ無自覚に。
「夏休みも今週で終わりだな。」
「あー、つまんねぇな。
毎日路上ライブ出来るの
気持ちよかったのに。」
「俺もだ。ちょっと寂しい。」
「ちょっと?
俺様の声が聴けなくて
――すげぇ寂しい。
って言えよ!」
「うっわ!
お前、恥ずかしくね?」
「うるっせぇ!」
顔を見合わせて
ゲラゲラと笑う。
悠の屈託のない笑顔が
凄く嬉しかった。
「もっと笑え!」
悠の脇腹をくすぐる。
「ちょ、やめろって!
くすぐったい!
やめ……アハハハ!」
いつものように、
別れたはずなんだけど、
その日を境に、
パタリと
悠を見かけなくなった。
どうしたんだろう。
いつもの場所に通う。
でも、
――そこはただの路上だった。
目の前に在るこの場所は、
ふわっと人が集まってて、
その正面に、
ギターを抱えた悠がいて、
その空間にいる人たち
みんなが
悠の声に心を預けてて、
お互い知らないのに
心だけはひとつって感じで、
それから、
――それから……
――しばらく来れない?
後悔した。
すげぇ寂しい。
ちょっと。
なんて言って
照れて濁した俺に、腹が立つ。
俺、絶対、
『すげぇ寂しい』って
ちゃんと、
悠に伝えたい。
待てども待てども
悠は、学校には来なかった。
担任は「まだ来れない」の一点張り。
クラスメイトの中には
夜遊びでパクられた、とか
悪い付き合いでトラブった、とか
揶揄する奴が出てきた。
『悠みたいになるぞ』って
ネタにする奴もいた。
そいつらと
掴み合いの喧嘩もした。
――悠の何を知ってんだよ。
苛立ちの日々だった。
どれだけ荒れても
俺の心の中は
立ち止まったまま。
悠の最高の笑顔を見たあの日。
あれが最後になるのか?
そんなの、
俺、
――すげぇ寂しいよ。
―――――
その悠が、
今ここで、
すぐ目の前で、
俺の瞳に映ってる。
人に囲まれてた悠は、
今、
コーヒーに囲まれてる。
うん。
――うん、知ってるよ。
大変な怪我だったんだよな。
細かいこと分かんないけど。
あんまり思い出すな、悠。
「あ、話せる範囲でいいんだ。」
悠の逃げ道、必要だろ?
「うーん。まぁまぁ大きな怪我。
こういうのが必要なくらいかな。」
そう言うと、悠は
小さな錠剤を口に入れた。
カサッ……
素早くポケットに突っ込んだ物。
ピルケースだ。
カラフルな錠剤が入ってた。
多分、
見ちゃいけない瞬間だった。
だから俺、
見なかったことにする。
「あ!そうだ。
これ見せたら話が早いな。」
ゴソッ……
悠がさっきのピルケースを
ひょいと出す。
えーーーー!
それ、お前、俺、今、
見なかったことにするっつって
賢者モードになってたやつ!
悠が首を傾げながら、
指先で掴んで振って見せる。
カシャカシャッ!
乾いたポップな音が響く。
「クスッ……マラカスみてぇ。」
いやいや、
何ポップにしてんの!?
見開いた目が戻らない。
言葉も出ない。
――賢者モード、失敗。
「色、綺麗だろ?
痛い時のやつ。
落ち着きたい時のやつ。
ひどくならないようにするやつ。
たくさんの助けを得てる。
――カラフルなのが救いだよ。」

明るく微笑む悠。
心がギュッとなる。
「――うん、綺麗だな。」
その言葉が精一杯だ。
悠の目が俺を見つめている。
優しいけど、
何か考えてそうな目だ。
「――慎。」
「なに。」
「俺とお前は同じ歳だ。
タメって言うの?」
「え。」
「リハビリが長引いて。
本当なら、
俺も大学生やってる。」
そんなに長く……。
俺の事覚えてないとか、
ちっせぇこと、
もういいよ。
俺はバカだ。
「マジ?
タメとして、よろしくな。」
「おぅ!よろしくな。
あ、それでさ、
指先が少し、駄々っ子なんだよな。
そこ、サポートして欲しい。」
「わかった。任せろ!」
指先が駄々っ子……か。
ギターは――弾いてない、か。
悠と顔を見合わせ
笑ってる俺。
心の中は――
まだ地熱がこもる、
あの路上。
悠の指先に、
目線に、
口元に、
声色に、
酔いしれてた、俺のままだ。
お前が“悠”を探してた5年、
マスターはどうしてたと思う?」
兄貴の言葉に、
――ハッとした。
俺は今、
深く反省している。
昨日、
バイトの帰り際、
ベルが鳴る扉を出る時、
俺、悠に八つ当たりした。
嫌な言い方した。
あの時の悠の顔が

俺の心に
深く刺さってる。
「強烈にダサいな。」
恥ずかしくて
頭を抱えたくなる。
覚えてる覚えてない、とか。
もっとあるじゃん、とか。
寂しい、とか。
俺、自分ばっかで。
勝手に
期待押し付けて
幻滅して
八つ当たりして
最悪だ――。
俺が5年という年月に
擦り切れていたように、
悠もまた
俺とは別の5年を、生きてきた。
そこは間違えちゃいけない。
ヒュウッ……!
強い風が吹く。
「ぅわ!いてっ……」
目をこすり、空を見上げる。
雲の流れが速い。
ゴォォ……
遠くから、
風の音がこだまする。

「気圧乱れてんなぁ……。
――夏はすぐそこか。」
低く速く流れていく雲を
じっと見つめる。
「さて、バイト行くか。」
―――――
カラン……
珈琲館の扉を開ける。
「ちーっす!」
もうちょい
マシな挨拶があるだろうよ。
変に普通を装いすぎた。
結果、
とてもアホそうな登場である。
リュックを背中から降ろし、
顔を上げる。
うっ……
またカウンターに……
伸びてる高校生。
「なぁ、悠、
……ギャップありすぎだろ。」
笑いながら、近づく。
しん……。
「――おい?」
手を出す。
指が躊躇う。
ギュッと握りしめ、
また手を出す。
悠の肩に、
そっと乗せる。
悠がピクッと動く。
頭を上げ、
ゆっくりと
こっちを見あげる。
ボサボサの前髪。
その奥に見える
丸メガネ越しの瞳が
虚ろにゆらめき、
やっと、
俺を確認する。

「――あれ?……慎。
もうそんな時間か……。」
「ひどい顔だな……
なんだ?睡眠不足か?」
それは俺なのだが。
どうしたものか、
他にいい言葉が見つからない。
「……頭と身体が痛くてね。
今日みたいな日は、
苦手なんだ。」
「うん。風が強くて
ひと降りしそうではあるな。」
あ、そうか。
低気圧か。
古傷が痛むとか言うよな。
――もしかして。
目線を
2度、3度、
泳がせ、
言葉を絞り出す。
「怪我が疼く……とか?」
悠が、パッと俺を見る。
一瞬、驚いたような目をして。
「あぁ……うん。そうなんだ。
これからも度々あるから、
話しておこうかな。
――いい機会だ。」
ドクッ。
みぞおちが跳ねる。
ゴクッと喉が動く。
でも普通に。
通常の俺で居たい。
「何だよ、改まって。」
ヘラッと笑う。
悠も
キュッと口角を上げる。
「これ……昔の怪我の名残りなんだ。
ちょっと大きな怪我してさ。」
「大きな怪我?」
我ながら、うまい。
知らないフリが
上出来だ。
―――――
5年前のある日、
悠は学校に来なくなった。
忘れもしない中二の夏。
あの――胸のざわつき。
ザワザワと痛くて
俺は戸惑ったっけ。
朝のHR。
担任が深刻な面持ちで
教壇に立ってた。
『――悠くんだが、
夏休みに事故に遭って、
全身の怪我と、
頭部外傷が重くて、
しばらく学校には来られない。』
――え。
目の前が暗くなった。
ガーンって音を
初めて聞いた。
夏休みに入る少し前に
俺は、
路上で歌うクラスメイトに会った。
塾の帰り道、
なんとなく遠回りした日。
兄貴が、
――家を出て行った日。
どんな顔して見送ったらいいか
わからなさすぎて
家に帰りたくなくて……。
ぼんやり歩く俺の耳に、
まるで侵入するかのように、
するりと入ってきた
その――歌声。
誘われるままに
その声の元へ、
足が向かう。
まばらに囲む
大人たちの層を、
そっとすり抜ける。
真正面から
目に飛び込んできたのは、
ギターを抱えた悠の姿。
ずっとそこに居たように
座っていた。
その存在感に、息を飲む。
『アイツ……同じクラスの。』
うわ……めちゃいい声じゃん。
なんだろう。
耳から入って、
腹の中に溜まってく。
飢えてる俺が、
満たされていく。
気づいたらスマホの
録音ボタンを押してた。
塾の帰り道、
そこへ通うようになった。
少しずつ、悠と
言葉を交わすことも増えていった。
いつしか、
悠の傍の片隅に
俺の居場所が出来たんだ。

俺はそこに座って、
ただ、耳を傾け、
乾いた心が潤うのを待った。
悠の形のいい唇が動く。
『お前、大変だなぁ。』
『何が大変なんだよ。普通だよ。』
『だって、無自覚の
感情ジェットコースターじゃん。』
『なんだそれ。』
悠の口元がニッと笑う。
『感受性が強すぎるんだよ、お前は。』
そう言うと、
またギターの弦を
指先で弾き始めた。
優しく、弦を弾く。
滑らせるように
コードを辿る。
その指先に、
時折、目線を投げる悠。
すぐに、
ふっ……と
宙を射るように、目線を流す。
悠の指、
眼差し、
声、
飾らない佇まい、
全てを
――目に焼き付けた。
それこそ無自覚に。
「夏休みも今週で終わりだな。」
「あー、つまんねぇな。
毎日路上ライブ出来るの
気持ちよかったのに。」
「俺もだ。ちょっと寂しい。」
「ちょっと?
俺様の声が聴けなくて
――すげぇ寂しい。
って言えよ!」
「うっわ!
お前、恥ずかしくね?」
「うるっせぇ!」
顔を見合わせて
ゲラゲラと笑う。
悠の屈託のない笑顔が
凄く嬉しかった。
「もっと笑え!」
悠の脇腹をくすぐる。
「ちょ、やめろって!
くすぐったい!
やめ……アハハハ!」
いつものように、
別れたはずなんだけど、
その日を境に、
パタリと
悠を見かけなくなった。
どうしたんだろう。
いつもの場所に通う。
でも、
――そこはただの路上だった。
目の前に在るこの場所は、
ふわっと人が集まってて、
その正面に、
ギターを抱えた悠がいて、
その空間にいる人たち
みんなが
悠の声に心を預けてて、
お互い知らないのに
心だけはひとつって感じで、
それから、
――それから……
――しばらく来れない?
後悔した。
すげぇ寂しい。
ちょっと。
なんて言って
照れて濁した俺に、腹が立つ。
俺、絶対、
『すげぇ寂しい』って
ちゃんと、
悠に伝えたい。
待てども待てども
悠は、学校には来なかった。
担任は「まだ来れない」の一点張り。
クラスメイトの中には
夜遊びでパクられた、とか
悪い付き合いでトラブった、とか
揶揄する奴が出てきた。
『悠みたいになるぞ』って
ネタにする奴もいた。
そいつらと
掴み合いの喧嘩もした。
――悠の何を知ってんだよ。
苛立ちの日々だった。
どれだけ荒れても
俺の心の中は
立ち止まったまま。
悠の最高の笑顔を見たあの日。
あれが最後になるのか?
そんなの、
俺、
――すげぇ寂しいよ。
―――――
その悠が、
今ここで、
すぐ目の前で、
俺の瞳に映ってる。
人に囲まれてた悠は、
今、
コーヒーに囲まれてる。
うん。
――うん、知ってるよ。
大変な怪我だったんだよな。
細かいこと分かんないけど。
あんまり思い出すな、悠。
「あ、話せる範囲でいいんだ。」
悠の逃げ道、必要だろ?
「うーん。まぁまぁ大きな怪我。
こういうのが必要なくらいかな。」
そう言うと、悠は
小さな錠剤を口に入れた。
カサッ……
素早くポケットに突っ込んだ物。
ピルケースだ。
カラフルな錠剤が入ってた。
多分、
見ちゃいけない瞬間だった。
だから俺、
見なかったことにする。
「あ!そうだ。
これ見せたら話が早いな。」
ゴソッ……
悠がさっきのピルケースを
ひょいと出す。
えーーーー!
それ、お前、俺、今、
見なかったことにするっつって
賢者モードになってたやつ!
悠が首を傾げながら、
指先で掴んで振って見せる。
カシャカシャッ!
乾いたポップな音が響く。
「クスッ……マラカスみてぇ。」
いやいや、
何ポップにしてんの!?
見開いた目が戻らない。
言葉も出ない。
――賢者モード、失敗。
「色、綺麗だろ?
痛い時のやつ。
落ち着きたい時のやつ。
ひどくならないようにするやつ。
たくさんの助けを得てる。
――カラフルなのが救いだよ。」

明るく微笑む悠。
心がギュッとなる。
「――うん、綺麗だな。」
その言葉が精一杯だ。
悠の目が俺を見つめている。
優しいけど、
何か考えてそうな目だ。
「――慎。」
「なに。」
「俺とお前は同じ歳だ。
タメって言うの?」
「え。」
「リハビリが長引いて。
本当なら、
俺も大学生やってる。」
そんなに長く……。
俺の事覚えてないとか、
ちっせぇこと、
もういいよ。
俺はバカだ。
「マジ?
タメとして、よろしくな。」
「おぅ!よろしくな。
あ、それでさ、
指先が少し、駄々っ子なんだよな。
そこ、サポートして欲しい。」
「わかった。任せろ!」
指先が駄々っ子……か。
ギターは――弾いてない、か。
悠と顔を見合わせ
笑ってる俺。
心の中は――
まだ地熱がこもる、
あの路上。
悠の指先に、
目線に、
口元に、
声色に、
酔いしれてた、俺のままだ。



