君の世界の話をしよう。第1章

俺の隣に
悠が寝転んでいる。

その重みで
ベッドが沈んでる。

俺は、
それだけで
すごく嬉しいんだ。


「最高だな。」

天井を見ながら呟く。


心臓がトクトクと、
ご機嫌で走っている。


ふぅっ。

呼吸を整える。


顔を横に向け、
悠へ視線を投げる。



2人の瞳が

待っていたかのように

ピタリと合う。


自然に。

引き合う。


「悠、ありがとう。」

「え?」

「俺に会いに来てくれて。」

「――うん。」

「戻ってきてくれて。」


「うん。――それはそうだな。
 一回心臓止まってるしな。」

ガバッ!

半身を起こして
悠の口に手を当てる。

「それ、言うな。
 俺の心臓が止まりそうになる。」


手のひら越しの
悠の唇が
動く。

「あ……悪い。」

熱い息を感じる。


そっと手を離す。


「俺が言いたいのは、
 そういうことじゃなくて。さ。

 いや、そういうことになるのか?

 え?あれ?
 
 ……日本語って難しいな。」



「おい、大学生、しっかりしろ。」

悠が眉を下げて笑う。



優しい顔してる。

くしゃっと笑うのも好きだけど、
この顔も好きだ。

しかめっ面も、
強がってる顔も、

歌ってる顔も――……


全部、好きだ。


俺――完敗だな。





「慎、ごめんな。」

「なにが?」


「俺、普通のことみたいに
 心臓が――とか言っちゃって。
 なんか、その辺、
 デリカシーなかった。

 ――ごめん。」


「謝らないでよ。
 俺がまだ、もう少し、
 受け止めきれてないだけだ。」


「受け止める?お前が?」


「うん。俺が。

 ――俺の中で、
 まだ……どこか不安なんだ。」


目線を天井へ向ける。


「情けないんだけど、

 まだ、
 夢なんじゃないかって、
 ……思ってる。」


もう一度、悠を見る。

俺を見る悠の目が
ふっと和らぐ。

「俺も同じだ。一緒だな。」


「クスッ……そうか、一緒か。」



離れていた年月、
お互い、
別々の時間過ごしてきたけど、


今の歩みは

一緒なんだな。




俺たちは、
同じところに居るんだ。



不思議だ。

中学の頃は、
俺、喧嘩に明け暮れてた。

アザだらけの顔して、

悠の妙な噂が出ると、
突っ走って
蹴散らして
ねじ伏せて――

俺の中の
“不安”を打ちのめすみたいに――

悠は居る!
戻ってくる!
また、会える!

つべこべ言うな!って。

ヘトヘトになりながらも
悪いもの全てに抗ってた。


形は違うけど、

悠も、
闘って抗ってたんだよな。


違うようで同じだ。


同じようで、
……ほんの少しだけ、違う。





ほんの少し、

悠の顔が近づく。

俺の瞳を捉えたまま。



静かに、

だけど、
確かな熱を帯びて

見つめ合う。






「――慎……」

悠が
ほんの少し眉を上げ
俺の名前を呼ぶ。



俺も微かに、眉を上げる。



悠の瞳が、

ゆらゆら

きらきら

俺の目から口元まで

鼻先や頬に着地しながら

トン、トン、と落ちていく。




――また、見てるのか。

近づきすぎたら
顔なんて分からないのに。

お前はいつも、
俺を焼き付けようとするんだな。


俺の目線も
悠の瞳を追いかける。

追いついては

離れ、

また、追いかける。



悠の瞳が

すっ……と、

俺の瞳へと戻ってくる。



「――大好きだよ、慎。」

悠の口から
吐息混じりの低い声。


喉の奥から出すような

こんな
優しい声があるなんて。




―――――


「大好きだよ。」

この言葉を落としただけで

慎の熱がグンと上がる。


忘れられたような

慎の左手に

俺の右手を絡ませていく。


指先と指先が

探り合いながら

ゆっくりと、交差する。


ただ

それだけで

トットットッ……と
心臓は走り出し、


呼吸が
浅く早くなる。


そのくせ、

慎の目は柔らかに
俺を見つめ、

ゆったりとまばたきをする。


そのアンバランスさが

今の、
俺たちの心の熱を

また、上昇させる。


きっと――同じ温度だ。




ゴソ……

身体を少し捻る。

慎に左脚を乗せる。

空いている左手で
慎の右肩をそっと掴む。


慎も応えるように
ゆっくりと、
俺の方へ体を向ける。


言葉なんてない。


呼び合うように、

額と額をくっつけ合う。


慎の息の熱さに驚く。


「慎、――熱いな……」



「お前だって、

 すごく熱い……」





「だな。……分け合お?」


「――うん。」



どちらともなく

熱と熱が――触れ合う。



音すらしない、

ほんの一瞬。


息のかかる距離のまま
また見つめ合う。


「なんか……さ。」

俺が言うと同時に

慎がふっと笑う。

「俺ら、超ピュアじゃね?」



クッ……と俺も笑う。

「それな。」



慎が枕を掴み
自分の顔に当てる。

「だってさぁ――……」


その枕を掴んで引っ張る。

「なんだよ。」


慎の手は
枕を離さない。

代わりに
脚をばたつかせる。

「だってさ……
 距離感っ!
 分かんねぇんだもん!
 仕方ないじゃん!」


激しく同意。

心の中で
大きく頷く。

「お前もか。
 実は、俺も“そこ”なんだよ……」



「マジか。それは……」

枕の端から
慎が顔を出す。


顔を見合わせ、声を揃える。


「それは……困ったなぁ。」




あー、むず痒い。
めちゃくちゃむず痒い。

何だこれ

何だこれ

ナンダコレ。




――ガッカリしてねぇかな……。

チラッと慎を見る。

ばっちり目が合う。


お互いがビクッとする。


あー、もういいや。


「慎、恥ずかしいけど

 俺、――白状する。

 俺、今、すげぇ心配。
 その……
 ガッカリ?とか?
 してねぇかな?……とか。」


慎が俺の顔に
枕を押し付ける。


「先に言うなよーもー。
 たまには俺から、
 潔さ見せたいのにー。
 もー……。」

枕越しに
慎のグダグダが聞こえる。


ギュッと枕を剥がす。


「――はい?



 潔さって……なんだ?それ。」



ムギュゥ……

また顔に押し付けられる。


「ピュアだの何だの言っててもさ、
 大事なとこで照れてもさ、
 俺の気持ち、
 軽くしてくれんの
 いっつも悠じゃん……。」


ムギュゥ。

ムギュゥ。

ムギュ……

ギュギュギュ……


ガシッ!
「ぷはっ……!!」




「いい加減、これ苦しいわ!!」

掴んだ枕をシュッと
明後日の方向に投げ捨てる。



キョトンとする慎。

飛んで行った枕を
じっと見ている。



ぐしゃ。と落っこちてる枕。

『無念じゃ』
とでも言ってるようだ。



「ふぅっ……」

前髪に手ぐしを通す。

ズレたメガネを
キュッと上げる。





「で、いつも俺がなんだって?」



慎が吹き出す。

身体を丸くして
フルフルと震えながら

手だけで『ごめん』の合図。



「なんで笑ってんだ?
 流れ的におかしいだろ。」


「だって……

 ズレメガネをキュッて……

 んで、キリッて、

 『俺がなんだって?』キリッて!」


「――ブハッ!

 もう……笑うなって!」


「悠だって、
 声震えてんじゃん!」


「いろいろ台無しじゃねーか!」



もう、ぜーんぶ台無しだ。

いつもいつも
格好つかないままだ。

今更、しゃーないか。


ベッドから腕をのばし
枕を拾いあげる。

パンパンと整え、
抱えてゴロン!と寝転ぶ。


「おい、慎。

 今日は、
 このくらいにしといてやる。」


「お、おぅ。」


「次、覚えとけよ。

 ――よし、寝るぞ。」


「そうだな。」



「俺ら、なーんも変わってないな。」

天井を見ながら
ボソッと言う。


次の瞬間、

俺の唇に温かい熱が触れる。

さっきよりも

少し深い――。


心臓がキュッと跳ねる。


軽く、
グッ……グッ……と

その温度が俺に触れる。


スッ……

離れる。

「変わってなくねーよ!」

そう言って
慎は、布団に潜った。




おーい。

いつも悠が――……って
さっき拗ねてたのは誰だ?


今、
一番いい感じに
かっさらって行ったくせに。



俺にとってお前は、
最高の親友で、

最高に大切な奴なんだ。

ずっとずっと――。




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