君の世界の話をしよう。



「相変わらずの節操なし!」

悠が
怒声をあげた。

淹れたてのカップを
持って立っている。

立ちのぼる湯気は
コーヒーからか、
悠からなのか――。

そのカップを
恒の頬に、
また、近づける。


「うわ、やめろ。」

恒が怯む。

「ひっでぇなー……あちち……」

頬を押さえ、
恨めしそうに悠を見る。





「――悠、さすがにそれは。」

俺も悠の手を遮り
たしなめる。


悠が恒を
冷ややかに見下ろす。

「ふん、コイツは
 これくらいやんないと
 分かんねぇよ。」

言い捨てる。

俺の口から
ため息がこぼれる。

「まったく……もう。

 ――恒くん、
 大丈夫?冷やす?」



「慎さんっ……。優しい……。

 兄ちゃんとは大違いだな!」


悠は腕組みをして
そっぽを向いている。

恒も背を向ける。

「あーあ、
 慎さんが俺の兄ちゃんだったらな!



 ――いや、違うな……」


「ん?」


恒の目がキラッと輝く。


「慎さん、恋人いる?

 えっと……
 
 付き合ってる人、いる?」



「はぁ!?」

俺と悠、

声がハモる。


―――――



悠は――


恋人、

じゃない。


付き合って、

ない。



自分の気持ちは、
自覚してる。



だけど俺、

まだ、

悠に気持ち伝えてないや。



うっかりしてた。



「今は――、

 まだ、いないな。」


「マジっすか!?」


「コラ、恒。
 そういう質問やめろ。」

悠が
眉をひそめる。


懲りずに

恒が、
身を乗り出す。

「じゃぁさ、

 俺の恋人になりません?」


瞳が
キラキラしてる。


うっ……
曇りなき眼っ……



「いや、恒くん、
 それはちょっと……アハハ」


「なんで?
 フリーなら
 真面目に考えてみてよ。」





「――ダメだ。」

悠の低い声が
割って入る。


ぅわ……
こんな声初めて聞いた――。



ゾクッとする。



「なんで?

 俺、慎さんの恋人になりたい。

 超、大切にするよ?」


さすが弟。

何処吹く風といった
全スルー。


「恒!いい加減にしろ!」



「兄ちゃんに聞いてない。
 ちょっと、黙っててよ。」


「黙らない!」


「なんでだよ!」


「俺の、だからだよ!」


しん……





「――あ。」

悠が口に手を当て
ソファに座り込む。


え。今なんて言った?


“オレノ、ダカラ”


んんっ??


俺の思考も
追いつかない。

悠に、恒に、

キョロキョロと
目線を走らせる。




俺の話をしてるくせに

2人とも、
俺なんか眼中になさそうだ。


バチバチに
――睨み合ってる。


「……えっと、あの……
 
 恒くん――。」


恒がパッと俺を見る。

その目を
しっかりと見返す。

「俺、好きな人はいるから。」


「えぇぇぇー……
 でも、付き合ってないんでしょ?」

口を尖らせている。


「うん。付き合ってない。
 だけど――、

 すごく大切なんだ。」


「ちぇ、つまんねー。」


「ごめんね、恒くん。

 でも、ありがとう。嬉しいよ。」

恒がチラッと
上目遣いで俺を見る。

眉が下がっている。


まるで
大型犬のようだ……。


「恒くん……。」

俺も
眉が下がってしまった。



「……振られてやんの。ざまぁ。」

そっぽを向く悠から、
悪魔のような声。

「チッ……!」
舌打ちをした恒が
俺を真っ直ぐ見る。

「慎さん、付き合ってないなら
 俺にもまだチャンスありっす!

 ひねくれ眼鏡には
 絶対、負けねぇ!」


「えっ!……いや、チャンスは……」


「今日は門限あるんで!じゃ!」

立ち上がると、
バタバタと出ていった。



しん……

部屋が静まり返る。

「まるで嵐だな。」

悠が呆れ顔をしている。


――あ。

“ひねくれ眼鏡”

ジワジワくる。


「プッ……」
ちょっと笑う。

俯いて、隠す。


「何、笑ってんだよ。」

あ。バレてる。

そっと目線を向ける。

眉間を寄せた
悠がいる。



“ひねくれ眼鏡”



ダメだ。
頭の中から離れない。

笑わないように
唇を噛む。

キュッと
一文字にする。


「――おい。」

「なに。」

「こっち見ろ。」

「なんで。」

勘弁して。

今見たら、
絶対吹き出す!

「俺から言うって決めてんだよ。」


「――え。何を?」

顔を上げる。


あ。しまった。




でも

笑うことなんて

出来なかった。



悠の真剣な眼差しに

一瞬にして
吸い込まれてしまったから。