あのとき助けたのって俺じゃないんだけど。

次の日、いつも通りの電車に乗って、20分前には教室に入る。
西原も悠生もまだきていない。

真郷は最寄り駅が同じだが、登下校はほとんど彼女のあきちゃんと一緒だ。
今ごろ、あきちゃんの通う高校まで送っているのだろう。

あきちゃんは俺と真郷と同じ中学で、背が小さくて、いかにも女の子という感じで可愛い。
のほほんとしているが、それでいて姉御肌なのだ。
真郷はけっこうズケズケ言うタイプだから「まーくん、しゃべるときは一回よく考えてからだよ」と、こんこんと諭されている。

俺は……というと、中学のときに告白されて付き合っていた女の子はいるが、2週間くらいで自然消滅した。
俺があまりにも連絡をとらないから呆れられたのだろう。

それ以来、好きな人はいない。
というか、その子のことも好きだったのかどうか……

え?
もしかして俺、だれかを好きになったことない?
ちょっとだけショックを受けていると、西原がやってきた。

「おはよう!走ってきたー!」

そう言って、ドサッと机にカバンを置いた。
どうやら登山部の朝練だったらしい。

「おー、おはよう!おつかれさま!」

そういえば、登山リュックを背負って校庭を走っているのを時々見かけていた。
あの中に西原がいたんだ……

なんとなく感慨にふけっていると、やけに廊下が騒がしくなってきた。
女子の「きゃー」という叫びが聞こえる。
そんな風に騒がれるのは彼らしかいない。

ガラッと教室のうしろのドアを開けて入ってきた人物を見て、俺と西原は目を丸くした。

「ゆ、悠生!」

そこには、肩まであった髪をバッサリと短く切った悠生がいた。
サイドと襟足を刈り上げ、上部と前髪は少し長め。
センターパートにセットされている。

「麻人、おはよ」

「お、おはよ」

悠生が席につくと、クラスの女子たちがあっという間に机を囲み、口々に言う。

「え、なんで切ったの?」

「綺麗な髪だったのに、もったいない!」

「でも私、短いほうがタイプかも!」

みんな自分勝手だ。
悠生はそれらの声を全部無視して、俺のほうに体ごと向いた。

「麻人……どう、かな?」

なんて、心配そうに見上げてくる。
俺はニカッと笑って、思ったことをそのまま言ってやった。

「長いのも似合ってたけど、今のもすげー似合ってるよ!めちゃくちゃかっこいい!」

すると、悠生は心から嬉しそうに笑った。
髪が短くなったからか、その笑顔は幼く見えた。

「え?どういう心境の変化?」

西原は俺をちらちら見ながら、悠生に問いかける。
ん?なんなんだ?
変な視線をよこすな!

「別に……かっこいいと思われたかっただけ」

え?だれに?
もしかして、好きな子がいるのか?