あのとき助けたのって俺じゃないんだけど。

放課後は悠生と帰るようになった。火、金は園芸部に顔を出すから、悠生は俺の部活が終わるのを図書室で待っていてくれる。たまには真郷と帰ることもあるけど、ほとんどは別の高校に通う彼女のあきちゃんと帰っている。 

悠生は学校が休みの日は、あの一軍三人衆で同じファミレスでバイトをしているらしい。あのファミレスは制服がかっこいいから似合いそうだと言うと、女性客が殺到して大変だから、3人とも裏方の仕事なのだと、こともなげに言った。


今日は部活がなく、まだまだ明るい道を悠生と駅まで歩く。5月に入り、日がどんどん延びた。暑いと思うと急に寒くなったりと安定しないが、晴れの日が続いている。

「悠生のばあちゃん、俺んちの近所だったんだな」

悠生は俺にぴったりと肩をつけて歩き、時々、手の甲同士が触れる。そのたびに俺の心臓がはねる。隣にいる悠生を見上げると、平然とした顔をしている。耳の先が赤いような気がしなくもないけど。

「うん、小さいころはよく遊びに行ったよ」

そう言って俺の目を見ながら、懐かしそうにふんわりと笑った。俺は無意識のうちにぎゅっと心臓を手で押さえる。

「じゃあ俺たち、どこかで会ってるかもなー」
「うん、そうだと思う。たぶん。絶対」

どこか確信めいた表情で言い、「ふふ」と柔らかく笑う。どこが《氷の王子》だ、と思う。相変わらず西原のことは苦手みたいで、俺と西原が喋ってると顰め面をしている。でも西原のほうはそんな悠生が面白いようで、ニコニコ?ニヤニヤ?と笑顔を向けている。

「あ、麻人。葉っぱついてる」
「ん?あぁ、とって」

悠生に頭を傾けると、そっととってくれる。俺はどうにもくすぐったくて、ぴゃっと首をすくめた。

「麻人…可愛い」
「か、かわ?!もーそれ言うなよー!」
「あはは!ほんと可愛い」

と言って、ふざけて抱きしめてきた。俺の顔は悠生の胸に埋もれて息が苦しい。悠生は何かにつけて俺のことを可愛いと言う。そう言われて、少し喜んでしまう俺。
真郷もよく可愛いと言われて怒っているが、彼女のあきちゃんにだけは言われると嬉しいんだそう。
んん?真郷は彼女に言われると嬉しい。じゃあ、悠生に言われて喜んでる俺は?なんなんだ?

「麻人!電車行っちゃいそう。俺は次の電車でもいいけど」

はっと我に返って走り出した。一旦、思考は頭の片隅に追いやっておく。

電車に間に合い、ふうと息をつく。俺はここから3駅、悠生は5駅だ。ゴールデンウィークの間の平日だからか、いつもより電車が混んでいる。次の駅でもどっと人が乗ってきて、俺たちは奥のドア側へ押しやられた。いつの間にか、俺と悠生は向かい合わせになり、俺の額は悠生の首元につきそうになっている。

「すげー人だな。ちょうど新幹線が着く時間だったんだな」
「うん…」

急に口数が少なくなった悠生が気になり、なんとか首を動かして見上げる。悠生はやけに真剣な目で俺を見ていた。その目の奥に熱を感じて、俺の心臓はドクドクと強くうつ。

「悠生…」
「でも、この電車に乗って良かった。上目遣いやばい…」

最後の方は声が小さくて、なんて言ってるのか分からなかった。でも、俺の顔は確実に赤くなっている。