俺は園芸部の水やり当番のため、いつもより30分早く登校した。花柄の農家ルックの帽子が活動の目印だ。ちょっと恥ずかしいけど、この帽子がうまいこと顔を隠してくれるし、もう慣れた。季節外れの暖かさで、重いジョウロを運んでいるとじんわり汗をかいてきた。
思いのほか時間がかかってしまい、教室に入ったのは始業5分前。西原と挨拶を交わして席につく。額の汗をぬぐっていると
「麻人、おはよう。寝坊?」
悠生が話しかけてきた。やけに優しげな声だ。それに柔らかく目元を細めている。
「あ、おはよう。いや、園芸部の水やり当番だった。今日暑いから、たっぷり水あげてきた」
昨日とはうってかわった態度に心臓がはねる。すると西原が振り返って、俺にずいっと顔を近づけた。
「ほんと花好きなんだなー!オレも山登ってるとき山の花見つけたりするから、自然と覚えるよな!」
「うん、山の花って素朴でいいんだよな。俺も好き」
答えた瞬間、悠生が俺の右肩に手を置いて、グッと後ろに引いた、気がした。ん?とちょっと驚いていると
「麻人、園芸部なの?」
俺の顔を覗き込んで聞いてくる。ち、近い!それに、なぜか急に不機嫌そうだ。
西原も目を見開いている。
「う、うん」
「ふーん。…ん?なんか麻人、いいにおいする」
そのまま俺の首元にくっつきそうなくらい鼻を近づけてくる。俺はとっさに肩にのった手を振り落とした。
「いやいやいや!汗かいてるから汗臭いでしょ!」
顔に熱が集まっているのが分かる。イケメンは自分の顔の破壊力を自覚してほしい。
黙ってやりとりを聞いていた西原が
「2人ってもともと知り合いなの?」
と聞いてきた。俺は首を横に振って
「いや、昨日が初めてだけど」
と答える。西原は俺と悠生の顔を交互に見て、何かひらめいたようにニヤッとしながら「ふーん」と言った。
なんだその顔は。なんか知らないけど無茶苦茶恥ずかしい!
チャイムが鳴り、西原は前を向いた。俺はなんだか悔しくて、仕返しとばかりに悠生の肩を掴み、顔を近づけた。
「ていうか、悠生のほうがいいにおいするじゃん」
悠生だけに聞こえるように小声で言うと、悠生はいきなり顔を両手で覆った。そして、くぐもった声で
「やばー!ダブルでくらったー!」
と小さく叫んだ。どうやら仕返しが成功したっぽくて、俺は「ふふん」と得意げに笑った。でも、だいぶ恥ずかしくて、きっと顔が赤くなってるから、俺もくらってるんだけど。
4時間目終了と同時に、悠生が「麻人」と話しかけてきた。
「昼飯、一緒に食おう」
「おう」
早速机をくっつけてくる。悠生のうしろには昼飯に誘おうとしたであろう女子たちが、ランチバッグを胸に抱えて立ちすくんでいる。悠生はわざと見ないようにしているようだ。う…いたたまれない…でも、女子苦手っぽいし、男同士のほうが気楽だろう。今日は諦めてくれ。
それから、西原がさっと振り向いた。
「オレも一緒に食っていい?」
「おう、いいよ」
俺が当たり前のように返事をすると、悠生が顔を顰めた。西原はその顔を見て、ニヤニヤしている。
「まぁまぁ悠生さん!いいじゃんか。俺とも《友情》を深めようよ!」
悠生の肩を叩きながら、やけに強調して言った。悠生ははぁっと息を吐いて、諦めたように俺の隣に座った。
もしかして悠生、西原のこと苦手なのかな。西原、陽キャだしな。
3人とも弁当持ちだった。西原も悠生も、俺の倍はありそうな大きな弁当箱だ。西原は運動部でガタイがいいし、悠生はすらっと細身だけど高身長だからたくさん食べるんだろう。ふと、悠生が俺の手元を覗き込んでいる。
「ん?悠生、食べる?」
卵焼きを箸でつかんで持ち上げる。隣の弁当箱に入れてやろうとしたら、悠生は「あーん」と口を開けた。え!と思ったが、反射的に口のなかに入れてしまった。悠生はもぐもぐと形のいい唇を動かし、俺はなんとなくその口の動きをずっと見つめてしまった。目が離せない。
「甘い!俺の好きな甘さ」
「そうか?良かったな」
俺たちの様子をじっと見ていた西原が、
「うーん、忠犬と飼い主って感じ!」
と、からかってきた。悠生は目を瞬いていたが、実は俺も、悠生の頭に耳が見えてしまった。ついでにしっぽも。そっか、犬がごはん食べてるとこって、ずっと見ちゃうもんな。納得した俺は、やけに早い心臓のあたりをぎゅっと手で押さえた。
思いのほか時間がかかってしまい、教室に入ったのは始業5分前。西原と挨拶を交わして席につく。額の汗をぬぐっていると
「麻人、おはよう。寝坊?」
悠生が話しかけてきた。やけに優しげな声だ。それに柔らかく目元を細めている。
「あ、おはよう。いや、園芸部の水やり当番だった。今日暑いから、たっぷり水あげてきた」
昨日とはうってかわった態度に心臓がはねる。すると西原が振り返って、俺にずいっと顔を近づけた。
「ほんと花好きなんだなー!オレも山登ってるとき山の花見つけたりするから、自然と覚えるよな!」
「うん、山の花って素朴でいいんだよな。俺も好き」
答えた瞬間、悠生が俺の右肩に手を置いて、グッと後ろに引いた、気がした。ん?とちょっと驚いていると
「麻人、園芸部なの?」
俺の顔を覗き込んで聞いてくる。ち、近い!それに、なぜか急に不機嫌そうだ。
西原も目を見開いている。
「う、うん」
「ふーん。…ん?なんか麻人、いいにおいする」
そのまま俺の首元にくっつきそうなくらい鼻を近づけてくる。俺はとっさに肩にのった手を振り落とした。
「いやいやいや!汗かいてるから汗臭いでしょ!」
顔に熱が集まっているのが分かる。イケメンは自分の顔の破壊力を自覚してほしい。
黙ってやりとりを聞いていた西原が
「2人ってもともと知り合いなの?」
と聞いてきた。俺は首を横に振って
「いや、昨日が初めてだけど」
と答える。西原は俺と悠生の顔を交互に見て、何かひらめいたようにニヤッとしながら「ふーん」と言った。
なんだその顔は。なんか知らないけど無茶苦茶恥ずかしい!
チャイムが鳴り、西原は前を向いた。俺はなんだか悔しくて、仕返しとばかりに悠生の肩を掴み、顔を近づけた。
「ていうか、悠生のほうがいいにおいするじゃん」
悠生だけに聞こえるように小声で言うと、悠生はいきなり顔を両手で覆った。そして、くぐもった声で
「やばー!ダブルでくらったー!」
と小さく叫んだ。どうやら仕返しが成功したっぽくて、俺は「ふふん」と得意げに笑った。でも、だいぶ恥ずかしくて、きっと顔が赤くなってるから、俺もくらってるんだけど。
4時間目終了と同時に、悠生が「麻人」と話しかけてきた。
「昼飯、一緒に食おう」
「おう」
早速机をくっつけてくる。悠生のうしろには昼飯に誘おうとしたであろう女子たちが、ランチバッグを胸に抱えて立ちすくんでいる。悠生はわざと見ないようにしているようだ。う…いたたまれない…でも、女子苦手っぽいし、男同士のほうが気楽だろう。今日は諦めてくれ。
それから、西原がさっと振り向いた。
「オレも一緒に食っていい?」
「おう、いいよ」
俺が当たり前のように返事をすると、悠生が顔を顰めた。西原はその顔を見て、ニヤニヤしている。
「まぁまぁ悠生さん!いいじゃんか。俺とも《友情》を深めようよ!」
悠生の肩を叩きながら、やけに強調して言った。悠生ははぁっと息を吐いて、諦めたように俺の隣に座った。
もしかして悠生、西原のこと苦手なのかな。西原、陽キャだしな。
3人とも弁当持ちだった。西原も悠生も、俺の倍はありそうな大きな弁当箱だ。西原は運動部でガタイがいいし、悠生はすらっと細身だけど高身長だからたくさん食べるんだろう。ふと、悠生が俺の手元を覗き込んでいる。
「ん?悠生、食べる?」
卵焼きを箸でつかんで持ち上げる。隣の弁当箱に入れてやろうとしたら、悠生は「あーん」と口を開けた。え!と思ったが、反射的に口のなかに入れてしまった。悠生はもぐもぐと形のいい唇を動かし、俺はなんとなくその口の動きをずっと見つめてしまった。目が離せない。
「甘い!俺の好きな甘さ」
「そうか?良かったな」
俺たちの様子をじっと見ていた西原が、
「うーん、忠犬と飼い主って感じ!」
と、からかってきた。悠生は目を瞬いていたが、実は俺も、悠生の頭に耳が見えてしまった。ついでにしっぽも。そっか、犬がごはん食べてるとこって、ずっと見ちゃうもんな。納得した俺は、やけに早い心臓のあたりをぎゅっと手で押さえた。
