桜舞う4月。
玄関前に張り出されたクラス割り表の前には人だかりができていた。
だれもが自分のクラスを見つけようと頭をぴょこぴょこ上下させている。
俺も例にもれず、集団から頭を一段上げる。
身長は173センチだから、見つけるのはそんなに難しくないはず。
2組から6組に名前がないということは、必然的に1組だと思うんだけど……
なぜか1組の掲示板前には、すらりと背の高い男子が立っていた。
肩まで伸ばしたゆるい癖のある黒髪をハーフアップにしている。
うわ!オシャレだし大人っぽい。
不思議と目を引かれてしまう。
同級生にあんな男子いたんだ……
俺の周りにはいないタイプだ。
麻人はというと、襟足は短いが、前髪は目にかかるくらい長い。
子供のころはよく女の子に間違えられていたが、成長するにつれてどんどん顔の印象は薄くなった。
ちょっと見かけたくらいではすぐに忘れられてしまう、どこにでもいるような平凡な男子。
麻人も別に、誰かの印象に残りたいとは思っていない。
……うーん、ちょっとどいてくれないかな。
でも、彼をそこに留めているのは周りをがっちりと固める女子たちのようだ。
「ゆうせ〜、クラス別れちゃったね」
「やった!ゆうせい、同じクラスだよ!」
「休み時間、遊びに行ってもいいよね?」
「ゆうせい」と呼ばれた彼は、さかんに女子たちに話しかけられているが、返事をしているのかは分からない。
右腕には金髪に近い、明るい髪を巻いた女子。
左腕にはストレートの茶髪を高い位置で結んだ女子。
それぞれに腕を絡め、前へ前へと彼を押している。
……どっちが彼女なんだろう。
どっちも?いや、どっちでもない?
俺からは、彫刻のような彼の整った横顔しか見えないが、どちらとも目を合わせる様子はない。
そのとき
「おーい!麻人ー!」
よく響く、明るい大きな声で呼ばれる。
ぎょっとして振り向くと、集団の上から手だけを出して、大きく振りながら近づいてくる姿があった。
「おー、真郷」
俺の隣までくると、とんと軽く肩をぶつけてくる。
昔から変わらない、いつもの挨拶。
幼なじみの真郷だ。
俺より低い、169センチの身長で、目がぱっちりと大きい。
可愛い顔をしているが、彼女のあきちゃん以外に「可愛い」と言われると、とてつもなく嫌な顔をする。
真郷はこの春休みに、髪を「ミルクティー色」に染めた。
「茶髪にしたの?」と聞いたら「ミルクティー色!」と言われたので、間違えてはいけない。
短めに切った髪。可愛いらしい顔を惜しみなく出している。
「麻人、1組だろ?オレは2組。また同じになれなかったな〜」
たいして残念そうに聞こえない声音で言ってくる。
俺はほっと息を吐いて、真郷とともにうしろへ下がった。
やっぱり1組だったな……
「隣のクラスならそんなに離れてないだろ」
「なんだよ、お前。そんなに俺と離れたくないか?可愛いやつめ!」
真郷はセットした俺の髪を、遠慮なくわしゃわしゃと掻き回した。
「ちょ、ちょっと!」
「はははっ!この野暮ったい前髪、いいかげんやめろよ」
「これは俺のアイデンティティなのっ!」
「ただの昔の名残りだろーが」
「女の子みたい」と言われてから伸ばしはじめた前髪。
顔を隠しているほうが居心地がいいことに気づいてからは、ずっとそれをキープしている。
目に入らない程度にはしているが、クセがあるため、縮みやすいのが悩みだ。
今朝まで降り続いた雨で湿度が高いから、今日は入念にセットしたのに……
真郷に乱された前髪を手のひらでなでつけて、小さくため息をついた。
もうここいても仕方ない。
知ってるやつがいるか確認したかったけど、あの集団はまだ動きそうにない。
ふと見ると「ゆうせい」が、キョロキョロと周りを見回している。
誰か探しているみたいだけど、やけに慌てているようだ。
一見冷たそうに見える、切れ長の二重を見開いていて、
その目には焦りの色が浮かんでいる。
両隣の女子が、不思議そうに彼の顔を見上げている。
……やっぱり綺麗な顔してる。
気になって彼を見るが、平凡な自分と目が合うことはなく、俺は真郷とともに自分のクラスへ足を向けた。
玄関前に張り出されたクラス割り表の前には人だかりができていた。
だれもが自分のクラスを見つけようと頭をぴょこぴょこ上下させている。
俺も例にもれず、集団から頭を一段上げる。
身長は173センチだから、見つけるのはそんなに難しくないはず。
2組から6組に名前がないということは、必然的に1組だと思うんだけど……
なぜか1組の掲示板前には、すらりと背の高い男子が立っていた。
肩まで伸ばしたゆるい癖のある黒髪をハーフアップにしている。
うわ!オシャレだし大人っぽい。
不思議と目を引かれてしまう。
同級生にあんな男子いたんだ……
俺の周りにはいないタイプだ。
麻人はというと、襟足は短いが、前髪は目にかかるくらい長い。
子供のころはよく女の子に間違えられていたが、成長するにつれてどんどん顔の印象は薄くなった。
ちょっと見かけたくらいではすぐに忘れられてしまう、どこにでもいるような平凡な男子。
麻人も別に、誰かの印象に残りたいとは思っていない。
……うーん、ちょっとどいてくれないかな。
でも、彼をそこに留めているのは周りをがっちりと固める女子たちのようだ。
「ゆうせ〜、クラス別れちゃったね」
「やった!ゆうせい、同じクラスだよ!」
「休み時間、遊びに行ってもいいよね?」
「ゆうせい」と呼ばれた彼は、さかんに女子たちに話しかけられているが、返事をしているのかは分からない。
右腕には金髪に近い、明るい髪を巻いた女子。
左腕にはストレートの茶髪を高い位置で結んだ女子。
それぞれに腕を絡め、前へ前へと彼を押している。
……どっちが彼女なんだろう。
どっちも?いや、どっちでもない?
俺からは、彫刻のような彼の整った横顔しか見えないが、どちらとも目を合わせる様子はない。
そのとき
「おーい!麻人ー!」
よく響く、明るい大きな声で呼ばれる。
ぎょっとして振り向くと、集団の上から手だけを出して、大きく振りながら近づいてくる姿があった。
「おー、真郷」
俺の隣までくると、とんと軽く肩をぶつけてくる。
昔から変わらない、いつもの挨拶。
幼なじみの真郷だ。
俺より低い、169センチの身長で、目がぱっちりと大きい。
可愛い顔をしているが、彼女のあきちゃん以外に「可愛い」と言われると、とてつもなく嫌な顔をする。
真郷はこの春休みに、髪を「ミルクティー色」に染めた。
「茶髪にしたの?」と聞いたら「ミルクティー色!」と言われたので、間違えてはいけない。
短めに切った髪。可愛いらしい顔を惜しみなく出している。
「麻人、1組だろ?オレは2組。また同じになれなかったな〜」
たいして残念そうに聞こえない声音で言ってくる。
俺はほっと息を吐いて、真郷とともにうしろへ下がった。
やっぱり1組だったな……
「隣のクラスならそんなに離れてないだろ」
「なんだよ、お前。そんなに俺と離れたくないか?可愛いやつめ!」
真郷はセットした俺の髪を、遠慮なくわしゃわしゃと掻き回した。
「ちょ、ちょっと!」
「はははっ!この野暮ったい前髪、いいかげんやめろよ」
「これは俺のアイデンティティなのっ!」
「ただの昔の名残りだろーが」
「女の子みたい」と言われてから伸ばしはじめた前髪。
顔を隠しているほうが居心地がいいことに気づいてからは、ずっとそれをキープしている。
目に入らない程度にはしているが、クセがあるため、縮みやすいのが悩みだ。
今朝まで降り続いた雨で湿度が高いから、今日は入念にセットしたのに……
真郷に乱された前髪を手のひらでなでつけて、小さくため息をついた。
もうここいても仕方ない。
知ってるやつがいるか確認したかったけど、あの集団はまだ動きそうにない。
ふと見ると「ゆうせい」が、キョロキョロと周りを見回している。
誰か探しているみたいだけど、やけに慌てているようだ。
一見冷たそうに見える、切れ長の二重を見開いていて、
その目には焦りの色が浮かんでいる。
両隣の女子が、不思議そうに彼の顔を見上げている。
……やっぱり綺麗な顔してる。
気になって彼を見るが、平凡な自分と目が合うことはなく、俺は真郷とともに自分のクラスへ足を向けた。


