ずっと一緒に



 長袖のYシャツに袖を通し、軽く捲る。
 肘から少し先にまで及ぶ傷痕が、ギリギリ見えないぐらいまでの丈にして、俊樹はスマートフォンを手に取った。
 天気予報を確認して、今日は1日ずっと雨が降ることを知り、少しばかり気落ちする。
 午後にでも晴れてくれれば、傷の痛みも多少マシになるというのに。
 そんなことを考えていると、玄関のチャイムがなった。
 スクールバッグを肩にかけ、部屋を出る。
「よ、おはよう」
「おはよ」
 扉を開くと、爽やかに手を上げて挨拶をしてくる友人、須賀陽道の姿があった。
 半袖のYシャツから伸びたしっかりした腕は浅く日焼けしており、短く刈った黒髪も相まって、部活をしていないのが嘘のようだった。
「この時期は雨が多くて嫌んなるな」
「しょうがないよ、梅雨だし」
 話しながら傘をさし、2人は並んで歩き出す。
 いつものように学校を目指しながら、陽道は雨粒を落とす曇り空を見上げた。
「花粉症が落ち着いてきたと思ったらこれだもんなぁ」
 口では散々困ったようなことを言っている陽道だが、俊樹はそれが嘘だと分かっていた。
 彼は、雨の日になると憂鬱になりがちな俊樹のために、率先して憂鬱そうにしているだけだ。
 陽道はこう見えて、わりとインドア派であり、静かに過ごすことを好む。
 小さい頃はそうでもなかったのだが、気付けば、意外にも外に出るより室内で過ごすこととを好むようになっていた。
 彼が今、日焼けしているのは、近所の草刈りを手伝っていたせいである。
 父子家庭の陽道の家では基本的な家事は彼の担当であり、その流れで町内会に顔を出しているのも基本的には陽道だった。
 そんなわけで、先日の日曜日、彼は1日かけて大量の雑草を処分したのだった。
 いくつものゴミ袋を前に得意げにする彼の写真が送られてきて、俊樹は彼の働き者ぶりに感心していた。
 俊樹も、小さい頃はああいった集まりにもよく出ていたが、最近はすっかり、共働きの両親共々、ご無沙汰になってしまっている。
 そんな陽道が、実は雨の日を好んでいることを俊樹は知っていた。
 静かに雨音が響く中、読書をするのが好きなのだ。
 しかしそれを指摘すると彼は気恥ずかしそうにして否定するので、あえて何も言わない。
「まあまあ、明日は晴れるっぽいからさ。今日のところは我慢しようよ」
 俊樹としては、この言葉は本心だった。
 ここ最近はすっかり気温も上がって、すでに晴れた日に外を出歩くのがしんどくなりつつあった。
 しかし、俊樹は、夏の晴れた日が好きだった。
 遠くに見える入道雲や、あちこちから聞こえる蝉の声、どこかの家から流れてくる風鈴の音、焼けたアスファルトが見せる揺らいだ景色、青々とした夏草が太陽光を反射する姿――そのどれもが、好ましく見えた。
 もちろん、そういった景色以外にも、俊樹が夏の晴れ間を好む理由はある。
 1番は、この時期になると、すっかり趣味の一環となった昆虫観察が捗るからだ。
「俊樹は今度の休みもどっか見に行くのか?」