ずっと一緒に

「……俺はさ、ずっと、俊樹の隣にいただろ。あれだって、傷の事があるからだって、俊樹はたぶん思ってたよな。それも、実際にはちょっと違ってさ」
 照れ臭そうにしながら、陽道は優しく続けた。
「逆、っていうかさ。俺が、口実にしてたんだよ。俊樹と一緒にいるのは、あの傷を俺がつけちまったから、って。俊樹のために、って言いながら、俺がそうしたかっただけなんだ」
 陽道の口から告げられるのは衝撃的なことばかりで、俊樹は目が回りそうだった。
 急になんでそんな話を、という気持ちと、そうだったの? という驚きと、何より、陽道も自分と同じようなことを考えていたというのがあまりにも予想外で、俊樹は目の前の陽道が本物かどうか怪しくさえ思えてきた。
 これは、死の間際に見えている、都合のいい幻覚や幻聴なのではなかろうか?
 そう考えると、なるほど、ずいぶんと自分に都合が良いのも納得できる。
 妙な納得をしてしまいそうになる俊樹だったが、陽道がそっと俊樹の頬に触れてきたことで、そうではないのだと理解した。
「なあ、俊樹」
 とても優しい声で、陽道は言う。
「昨日、言ったよな。ずっと俺が、一緒にいるって。なんでもしてやる、ってさ」
 その時、ふと、気になったことがあった。
 陽道は確かに走ってここに来たようだったが、彼は俊樹なんかより、ずっと足が速い。
 体力だって、彼の方がずっとある。
 ただでさえ、痛みと木の重さの分、走りにくかった自分より、遅れてやってきたのは、どういうことだったのだろうか。
 今になって急に不思議に思えてきた答えが、陽道の手には握られていた。
「こんなのはさ、俺にもどうにもできない」
 彼は伸び続ける木を見て、諦観を滲ませた笑みで首を横に振った。
「だからさ、せめて、隣にいることだけは、諦めないことにしたんだ」
 そう言って、陽道は持っていた枝――昨日の夜まで、俊樹の腕から生えていたものを、自らの足先に容赦なく突き刺した。
 いきなりのことだった。
 見た目には大した堅さもなさそうな枝は、あっさりと俊樹の足の甲を貫通して、地面へとめり込んでいる。
 開いた穴の隙間から血が滲んでいて、陽道は痛みに大きく顔をしかめていた。
 何を、と俊樹が思うよりも早く、陽道の足に突き刺さった枝は血を吸ったからか、そのまま根を伸ばし出したようだった。
 あっという間に枝は成長を始め、陽道の首や腕に、俊樹の体と同じように、皮膚の下を這う根らしきものが浮き上がり始めた。
「は、はは、こりゃ痛ぇ、な……」
 脂汗をかいて、苦笑を浮かべる陽道に、俊樹は叫び声をあげようとした。
 ひゅーっ、と乾いた空気が漏れ出るばかりで、大きく開いた口からは、どんな声も発することができない。
 頬を伝って流れた涙を、陽道の手が拭ってくれた。
 まるで昨日の夜の、鏡写しのようだった。
「これで、俺も、同じだ。俊樹、お前を、1人になんかしないからな……ずっと、一緒だ」
 木に飲まれながら、陽道は笑う。
 痛みできっと、それどころではないはずなのに。
 体を蝕んでいく根の感触に、気が触れてしまいそうなはずなのに。
 それでも彼は、俊樹のために、笑ってくれた。
 だからこそ、俊樹も、笑った。
 陽道の気持ちに応えるように、彼がずっと一緒にいるという約束を守ってくれた事実を、嬉しく思って、薄れかける意識の中で、どうにか、笑って見せた。
 2つの笑顔が向き合う中、朽ち木が2人を飲み込むようにして、成長していく。
 その光景を眺める少年は、とても、満足そうだった。