ずっと一緒に



 ――蹲ったまま、どれぐらいの時間が経っただろうか?
 もう、俊樹は立ち上がるどころか、動くことすらままならなかった。
 腕から生えた木は俊樹の体中を覆い尽くし、地面に根を下ろし始めていた。
 大きな樹木でありながら、不思議なことにその枝先には葉もなければ芽すらも出ておらず、少しずつ成長しているかのように見えて、ただひたすらに、枯れ木が広がり続けているだけのようだった。
 もはや生命の気配もない、すでに朽ち切った木でありながら、それは確かに俊樹の命を吸い、少しずつ、その体を広げ続けていた。
 傍らには、夕によく似た少年が、とても嬉しそうに笑みを浮かべながら佇んでいた。
 まるで夕飯が出来上がるのを待つ子供のように、あるいは、楽しみにしていた遊びにこれから興じられるかのように、彼は楽しげに俊樹の様子を眺めていた。
 朦朧とした意識の中、俊樹は蹲ったまま、少年を見た。
 自分が今、こうして木に飲まれようとしているのは、間違いなくこの子のせいだ。
 この子はこうして、この場所に自分がやって来るように、仕向けていた。
 嫉妬を煽り、感情を揺さぶって、体の内側から、蝕み、食らい尽くそうとしている。
 彼の思惑通り、まんまと自分は踊らされてしまっていたわけだ。
 短絡的な己が酷く滑稽に見えて、思わず笑ってしまった。
 そもそも、彼が夕に似ているというのも、おかしな話だった。
 ずっと前に、陽道が会っていたのだとしても、その結果として、俊樹を連れてここに来ていたのだとしても、その時点では、夕のような姿である必要はないのだ。
 少年を改めて見てみると、なんてことはない、その姿は揺らいでいた。
 子供らしき存在。
 少年のような背丈の何か。
 顔の細かな部分は認識できず、着ている衣服でさえも、曖昧だ。
 もはや姿を保つ必要がなくなったからか、あるいは、最初から実際には似ても似つかない存在だったのか、理由は定かではないが、この異形は、夕との出会いを利用したのだ。
 夕のような姿だと思い込ませ、その姿に嫉妬を募らせ、暗い感情を育てることで、俊樹の体を養分にすることに成功した。
 もう、どうすることもできない。
 誰の手も入らないこの場所で、後はゆっくりと、木に飲まれていくだけだ。
 このまま、誰にも見つかることもなく、静かにこの地に立つ木々の1つとなって、全ては終わってしまうのだろう。
 抵抗する気力もないまま、俊樹は早く気絶することを願っていた。
 体が限界を迎えて、何も感じられなくなるのが、今では唯一の救いに思えていた。
 とっくに痛みは限界を超えていて、もはやわずかに感じる程度になっていた。
 何かを奪われている感覚、体の中を何かが蠢き、さらに奥へと侵入してくる感触にも、すっかり慣れ切ってしまった。
 不快感はあるが、それらを感じる心がもう、麻痺してしまったらしい。
 もしくは、そうでもしなければ正気を保てないと、無意識に判断してしまったのだろうか。
 そうなのだとしたら、余計なことをしてくれた、と俊樹は苛立ちを覚えた。
 いっそのこと、痛みのあまりに気を失っていれば、ずっと楽だったのに。
 生きたまま根が張っていき、養分へとされる悍ましさに、発狂できてしまえば良かったというのに。
 どちらも果たされないまま、薄れかけの意識だけが残って、永久の様に長い時間をかけて、ゆっくりと、消化されていく。
 生き地獄とはこのことだと、もはや何も考えたくもない頭で、俊樹はぼんやりと思っていた。
 これが、君の望んだことかい?
 目だけで問いかけてみても、少年は何も答えたりはしない。
 ただ静かに佇んでいるだけだったが、その姿に、俊樹はどこか、見覚えがあった。
 外見の話ではない。
 どこかで見た、そう、まさしくデジャブのような感覚。
 そう思った瞬間、聞こえてきた声で、全てを理解した。
「……俊樹」
 この立ち姿。
 わずかにズレた視線。