「っ、はっ……はっ……!」
ベッドの上に勢い良く起き上がり、俊樹は荒れた息を何度も吐き出した。
体中に不快な汗がびっしりと浮いていて、額を拭うと、掌にぬるりとした脂汗が大量にこびりついていた。
「悪夢、にも程があるでしょ……」
思わず吐き出した言葉で、ようやく俊樹は現実に戻ってきた実感を味わった。
大きく息を吹いて、時計を見る。
5時を少し過ぎた程度で、カーテン越しに差し込む日差しはまだまだ薄暗い。
このまま2度寝をしても良いぐらいの時間ではあるものの、とても寝付く気にはなれそうになかった。
妙にリアルだった木肌の感触と、湿ったあの場所の空気感が、やたらと脳裏にこびりついている。
なんであんな夢を見たのだろうか。
夏がすぐそこにまで迫っているとはいえ、まだまだ夏休みには程遠い時期だというのに。
「っ、痛っ……」
夢の中身を反芻していると、左の二の腕に、引き攣るような痛みが走った。
そこでようやく、俊樹は窓の外から差し込む光がやけに少ないことに思い至った。
5時とはいえ、6月の朝日がこんなに弱々しいはずがない。
ベッドから降り、カーテンを開くと、空には灰色の雲が広がっていて、周囲の家々の屋根や道路はすっかり水浸しになっていた。
静かに降る雨の音は集中しないと気付かない程で、各所の雨どいから落ちる水音の方がよほど分かりやすいぐらいだった。
やっぱり、と思いながら、ため息をついて俊樹はカーテンを閉めた。
雨が降る日は、どうしても、古傷が痛む。
湿ったTシャツの袖をまくり、俊樹は自分の左腕を見た。
二の腕に広がる、ミミズが皮膚下で這い回ったかのような跡。
巨大な傷の痕は分かりやすく二の腕の悉くを覆っていて、露骨に違う皮膚の色は、たいていの人が不快感を示すグロテスクな様相をしていた。
今も雨の日が来ると、この傷に突っ張るような痛みが走る。
普通に生活している中でも、時折、動かし過ぎると痛みが出てくる。
すっかり長い付き合いになった傷痕だが、引き攣ることそのものには慣れてしまったものの、痛みにはどうにも、慣れることができないままだった。
今日はあまり、動かないようにしよう。
時間割を見て、体育がないことに安堵しながら、俊樹はもう1度ため息をつき、汗を流すべくシャワーを浴びに向かうのだった。
