もうすっかり嗅ぎ慣れてしまった香りに、ここがどこか、俊樹はすぐに理解できた。
夢の中、もう何度も見たかつての秘密基地。
巨木の前の広場に、俊樹は立っている。
目の前にはいつものように、夕によく似た少年がいた。
何かの映像や過去の記憶が流れるわけでもない中、煩いぐらいの蝉の声を聞きながら、俊樹と少年は向かい合ったまま、立ち尽くしていた。
彼は前回の最後のような邪悪な笑みを浮かべるようなこともなく、俯いた様子で、じっと押し黙っている。
いつも喋るようなことはないが、それでも、表情や仕草から、何を考えているのか、何をしようとしているのか、なんとなく分かるものだった。
しかし今日のところは、何も分からない。
「あの、さ」
そんな中、俊樹は彼に声をかけてみた。
これまでの夢の中、自分から話しかけようと思ったのは、今回が初めてだった。
夕によく似ていると気が付いて思わず聞いたことはあったが、それも、会話が続けられると思ってのものではない。
確認をするように、自分の抱いた印象が正しいか、確かめるための言葉でしかなかった。
でも今は、違う。
「君は、夕なの?」
今は、目の前の少年と、話がしてみたかった。
陽道に相談して、ようやく、自分の身に起きたことを、きちんと考えよう、解決に導こう、という気持ちになれた。
何が起きているのか不思議に思うことも、怖く思うことも散々やってきた。
でも、この状況を脱したいのであれば、自分なりに動いてみるしかないのだと、陽道に気付かされた。
夕には直接明日、話を聞く。
でもその前に、夢の中でしか会うことのないこの少年にも、話を聞いてみるべきだと思ったのだ。
俊樹は少しの間、少年の返答を待ったが、彼は何も答えてはくれなかった。
もちろん、そうなることはなんとなく予想していたので、別の質問もぶつけてみる。
「じゃあ、僕にこの夢を見せるのは、どうして?」
少年は、やはり何も答えない。
「僕の腕から木が生えてきたのは、君が何かしたの?」
これにも、彼は何も答えようとはしなかった。
ただ黙って、俯いたまま、静かに立ち尽くしているだけだ。
かつての秘密基地に、2人で向き合ったまま、時間ばかりが過ぎていく。
蝉の声が煩く響き、冷たい空気を乗せた風が、時折通り過ぎて行った。
「……君が望んでいることが、何かあるの?」
俊樹は考えた末、改めてそう聞いた。
何度も夢に現れるのも、ああして挑発的な態度を取ってきたのも、腕に木を生やしてきたことも、全ては、何か目的があって、それを叶えてもらうためなんじゃないか?
