「あのさ、俺、友達がいるんだ。いつも一緒にいる友達でさ。そいつも虫、大好きなんだよ。だから、そいつも連れて来ていいかな?」
彼の問いに、少年は再び、優しく頷いていた。
そして、少年は静かに巨木の頭上を指さした。
「上? 上の方にも、何かあるの?」
頷くと、少年は着物のまま、すいすいと器用に巨木を登っていく。
あっという間にかなりの高さにまでたどり着いた彼は、誘うように陽道に手招きをした。
見上げる陽道の背丈よりも、ずっとずっと頭上から、少年は静かに陽道が登って来るのを待っている。
少し迷う素振りを見せてから、陽道は好奇心に溢れた顔で巨木を登り始めた。
「陽道!」
咄嗟に、俊樹は叫んでしまったが、当然ながら、その声は届いていないようだった。
樹上では、少年が相変わらず、妖しく微笑んでいる。
行っちゃダメだ、そのまま行けば、あの時の僕のようになってしまう。
木から落ちて、大怪我を負ったら、きっと助からない。
あの少年は大人を呼んで来てくれたり、救急車を呼んだりなんてしてくれない。
ただ落ちた陽道を見て、同じような笑みを浮かべながら、じっくりとその姿を観察するだけに違いない。
僕が風邪なんて引いていなければ、この場にいられたはずなのに。
陽道を止めて、連れて帰ることができたはずなのに。
強い後悔と、申し訳なさが、俊樹の中に溢れた。
ただ進んでいく光景に歯噛みをしながら、俊樹は目を閉じることさえ許されないまま、陽道の無事を祈ることしかできなかった。
……これがおかしなことだとはすぐに気が付いたものの、胸の中に浮かんだ気持ちは、簡単には消すことができなかった。
陽道が僅かに足を踏み外す度、掴む場所を迷う度、俊樹は何度も目を逸らしたくなった。
しかし、視界を変えるようなこともできず、仕方なく、俊樹ははらはらしながら、陽道の木登りを見守った。
少年よりはずっと遅いものの、それでも比較的素早く進んで行った陽道は、ようやく、少年の待つ樹上へとたどり着いた。
そして、そこに待ち受けていたものを見て、彼はさらに嬉しそうに笑った。
太い枝と枝の間に、樹液が溜まった場所があり、そこに虫たちが大量に集まっていた。
いるのはカブトムシだけではなく、クワガタも複数の種類がおり、見たこともないようなカミキリムシや蝶が、数え切れないほどに存在している。
あまりにも美しく、生命力に溢れたその場所に、陽道は言葉を失っていた。
呆然と少年の顔を見ると、彼はにこやかに笑って、お好きにどうぞ、とでも言わんばかりに、虫たちの方を手で指し示した。
彼の問いに、少年は再び、優しく頷いていた。
そして、少年は静かに巨木の頭上を指さした。
「上? 上の方にも、何かあるの?」
頷くと、少年は着物のまま、すいすいと器用に巨木を登っていく。
あっという間にかなりの高さにまでたどり着いた彼は、誘うように陽道に手招きをした。
見上げる陽道の背丈よりも、ずっとずっと頭上から、少年は静かに陽道が登って来るのを待っている。
少し迷う素振りを見せてから、陽道は好奇心に溢れた顔で巨木を登り始めた。
「陽道!」
咄嗟に、俊樹は叫んでしまったが、当然ながら、その声は届いていないようだった。
樹上では、少年が相変わらず、妖しく微笑んでいる。
行っちゃダメだ、そのまま行けば、あの時の僕のようになってしまう。
木から落ちて、大怪我を負ったら、きっと助からない。
あの少年は大人を呼んで来てくれたり、救急車を呼んだりなんてしてくれない。
ただ落ちた陽道を見て、同じような笑みを浮かべながら、じっくりとその姿を観察するだけに違いない。
僕が風邪なんて引いていなければ、この場にいられたはずなのに。
陽道を止めて、連れて帰ることができたはずなのに。
強い後悔と、申し訳なさが、俊樹の中に溢れた。
ただ進んでいく光景に歯噛みをしながら、俊樹は目を閉じることさえ許されないまま、陽道の無事を祈ることしかできなかった。
……これがおかしなことだとはすぐに気が付いたものの、胸の中に浮かんだ気持ちは、簡単には消すことができなかった。
陽道が僅かに足を踏み外す度、掴む場所を迷う度、俊樹は何度も目を逸らしたくなった。
しかし、視界を変えるようなこともできず、仕方なく、俊樹ははらはらしながら、陽道の木登りを見守った。
少年よりはずっと遅いものの、それでも比較的素早く進んで行った陽道は、ようやく、少年の待つ樹上へとたどり着いた。
そして、そこに待ち受けていたものを見て、彼はさらに嬉しそうに笑った。
太い枝と枝の間に、樹液が溜まった場所があり、そこに虫たちが大量に集まっていた。
いるのはカブトムシだけではなく、クワガタも複数の種類がおり、見たこともないようなカミキリムシや蝶が、数え切れないほどに存在している。
あまりにも美しく、生命力に溢れたその場所に、陽道は言葉を失っていた。
呆然と少年の顔を見ると、彼はにこやかに笑って、お好きにどうぞ、とでも言わんばかりに、虫たちの方を手で指し示した。
