「……」
俊樹は、自身の左腕を見た。
二の腕の辺りに常にある違和感。
圧迫感のような傷の引き攣り、雨の度に鋭い痛みが走る、大きな傷痕。
痛みに顔を歪めたり、突っ張る感覚から腕を上手くあげられない姿を見せると、陽道はいつも、助けに入ろうとしてくれる。
毎日の生活の中で、少しでも問題が起きないようにと、気を使ってくれる。
こうなったのは自分のせいだと、彼は自身の罪と向き合うように、毎日、こちらをしっかりと見てくれている。
そんな生活を、俊樹は嬉しく思っていた。
陽道が隣にいない生活なんて、考えられない。
便利だからだとか、助けてもらえるからだとか、そんなことはどうでもいい。
隣に、彼がいる。
特別なことがなければきっと、切れてしまっていたであろう縁を、あの日の傷が、不幸な事故が、繋ぎ止めてくれている。
その事実がある以上、自分はきっと、過去を変えられるのだとしても、目の前で起きている光景を止めたり、防いだりは決してしないのだろうな、と思った。
それはそのまま、陽道を手放すようなことなのだから。
知らないかつての出来事が進む中、そんなことを考える俊樹の目の前で、夕に似た少年が不意に、腕を持ち上げた。
また、昨日のように木に飲まれるのだろうかと身構えるも、何も起こらない。
不思議に思いながら改めて少年を見ると、彼は俊樹に向けて、人差し指を突き付けていた。
しかし微妙に、真っ直ぐ俊樹を指しているようではない。
わずかなズレを目で追っていくと、彼の指は、俊樹の左腕、それも二の腕の辺りに向けられていた。
はっきりと今も傷の残る場所を、白く細い指が、確かに指し示している。
なぜ、と疑問を浮かべるのも束の間、突然、俊樹の腕に激痛が走った。
「っ、な、え?」
痛みの元に目を向けて、俊樹は顔を歪めながら、大いに困惑した。
腕から、木が生えていた。
二の腕の辺りから、皮膚を貫き、服を突き破って、葉のない枯れ枝のような細木がゆっくりと成長していく。
木がその背を伸ばす度、俊樹の腕に、凄まじい痛みが走った。
根が肉を掻き分けて、体の中を進む感触がした。
筋線維が押しつぶされ、血が吸われ、体と命がどんどんと、生えてきた木に変換されていくのが分かって、俊樹は思わず、恐ろしさに悲鳴をあげようとした。
「……! っ……!」
しかしすでに、喉も肺も、突き刺さる根や枝によって貫かれ、出そうとした声は虚しい空気の通る音にしかならなかった。
抵抗しようにも、体は相変わらず動こうとせず、残った右腕でどうにかすることも、顔を逸らすようなこともできやしない。
次々に成長していく木に飲まれながら、俊樹の目が最後に見たのは、にたにたと嬉しそうに笑う、夕によく似た少年の姿だった。
俊樹は、自身の左腕を見た。
二の腕の辺りに常にある違和感。
圧迫感のような傷の引き攣り、雨の度に鋭い痛みが走る、大きな傷痕。
痛みに顔を歪めたり、突っ張る感覚から腕を上手くあげられない姿を見せると、陽道はいつも、助けに入ろうとしてくれる。
毎日の生活の中で、少しでも問題が起きないようにと、気を使ってくれる。
こうなったのは自分のせいだと、彼は自身の罪と向き合うように、毎日、こちらをしっかりと見てくれている。
そんな生活を、俊樹は嬉しく思っていた。
陽道が隣にいない生活なんて、考えられない。
便利だからだとか、助けてもらえるからだとか、そんなことはどうでもいい。
隣に、彼がいる。
特別なことがなければきっと、切れてしまっていたであろう縁を、あの日の傷が、不幸な事故が、繋ぎ止めてくれている。
その事実がある以上、自分はきっと、過去を変えられるのだとしても、目の前で起きている光景を止めたり、防いだりは決してしないのだろうな、と思った。
それはそのまま、陽道を手放すようなことなのだから。
知らないかつての出来事が進む中、そんなことを考える俊樹の目の前で、夕に似た少年が不意に、腕を持ち上げた。
また、昨日のように木に飲まれるのだろうかと身構えるも、何も起こらない。
不思議に思いながら改めて少年を見ると、彼は俊樹に向けて、人差し指を突き付けていた。
しかし微妙に、真っ直ぐ俊樹を指しているようではない。
わずかなズレを目で追っていくと、彼の指は、俊樹の左腕、それも二の腕の辺りに向けられていた。
はっきりと今も傷の残る場所を、白く細い指が、確かに指し示している。
なぜ、と疑問を浮かべるのも束の間、突然、俊樹の腕に激痛が走った。
「っ、な、え?」
痛みの元に目を向けて、俊樹は顔を歪めながら、大いに困惑した。
腕から、木が生えていた。
二の腕の辺りから、皮膚を貫き、服を突き破って、葉のない枯れ枝のような細木がゆっくりと成長していく。
木がその背を伸ばす度、俊樹の腕に、凄まじい痛みが走った。
根が肉を掻き分けて、体の中を進む感触がした。
筋線維が押しつぶされ、血が吸われ、体と命がどんどんと、生えてきた木に変換されていくのが分かって、俊樹は思わず、恐ろしさに悲鳴をあげようとした。
「……! っ……!」
しかしすでに、喉も肺も、突き刺さる根や枝によって貫かれ、出そうとした声は虚しい空気の通る音にしかならなかった。
抵抗しようにも、体は相変わらず動こうとせず、残った右腕でどうにかすることも、顔を逸らすようなこともできやしない。
次々に成長していく木に飲まれながら、俊樹の目が最後に見たのは、にたにたと嬉しそうに笑う、夕によく似た少年の姿だった。
