深い土の香りに、俊樹は起き上がり、周囲を見回した。
昨日も見た、懐かしい光景。
巨木と広場、土と朽ち木、手入れのされていない雑木林に取り囲まれた、薄暗く湿った場所に、俊樹は立っていた。
しかし、昨日の夢と明らかに違う点に気が付いて、俊樹は困惑する。
目線が高い。
高いと言っても、あくまで昨日の夢の中よりは、という話で、どうやら今の自分――高校生の姿のまま、俊樹は秘密基地に立っているらしかった。
不思議な感覚だった。
俊樹は今の歳になって、秘密基地に出向いた覚えがない。
というより、小学生の頃、大怪我を負って以来、あの場所には行っていないのだ。
だからこれは、昨日見た夢とはまた少し違う内容になるのだろう。
その違和感にすぐ気が付いたと同時、俊樹は自分に対してため息を吐いた。
あの日のことを、どうして最近、こんなに考えてしまっているのやら。
時期が近いから、というのもあるかもしれないが、連日夢に見るのはどうかと思うし、何より、こうして高校生の今、あの場所に立っている想像をしてしまうというのも、いかがなものかと思う。
確かにあの日、俊樹と陽道の関係性は、大きく変わった。
表面上には大して変わっていないようでも、歪に、本人たちにしか分からない形で、確かに変わっていた。
でも結果として、あの日があったからこそ、今も変わらず、俊樹は彼と一緒にいられている。
良かったとは思うべきではないし、思ってもいないが、あの出来事のおかげ、と思う部分が、ないとは言い切れないのも、また事実だった。
今日も同じように、かつての出来事が再生されるのだろうか。
そう思って巨木の根本に目をやると、そこにはすでに、幼い頃の自分が倒れていた。
強く頭を打って、気絶している。
激しい痛みを覚えたのは目を覚ましてからで、落ちてから病院に運ばれる途中まで、俊樹は何も覚えていない。
だから、樹上で唖然としている陽道の姿も、ピクリとも動かない自分の腕に深々と廃材の破片が刺さっているのも、全て、後から陽道に教えてもらった内容に過ぎなかった。
だというのに、目の前に広がっている光景は、どれもやたらと鮮明で、まるでちょうど、その現場に居合わせたかのように、はっきりと各々の姿が見えていた。
カメラでも構えて、当時の状況を撮影していたかのような、やたらと生々しい映像に、思わず首を傾げる。
夢だとしても、こんな状況を、ここまではっきり、見ることができるものだろうか?
想像力豊か、なんて言葉では片付かない程に、肌に纏わりつくような湿気も、あちこちから聞こえる煩いぐらいの蝉の声も、冷たいこの場の空気も、何もかもが、鮮やかだ。
夢そのものに対する奇妙さを認識し始めたその時、俊樹が一瞬、まばたきをしてしまった間に、彼は目の前に立っていた。
ちょうど、倒れている俊樹の目の前を隠すかのように、小柄な少年が現れたのだ。
昨日の夢にも出てきた、何者かも分からない少年。
幼い頃に一緒に遊んだような記憶もない、どこからやって来たのかも分からない、そして、どうして夢の中に現れるのかも不明の、謎の少年。
同じ場所の夢、同じ出来事の夢に、2度も現れた以上、何かしらの関係があるはずだが、俊樹には全く心当たりがなかった。
……ない、はずだった。
