ずっと一緒に

 さっき見せてもらったのだって。小学生の時に作ったものでしかないわけだし、今になっても虫取りがしたいと本気で思っているかは分からないのだ。
 でも、もし、本当に一緒に行けるのだとしたら、こんなに楽しそうなことは――
「……なあ、俊樹、俊樹!」
「えっ、あ、うん、どうしたの?」
 何度も名前を呼ばれていることに気が付いて、俊樹はハッと我に返った。
 慌てて作り笑いを浮かべると、陽道の呆れ顔が目に入る。
「どうしたはこっちの台詞だよ。急にぼーっとして」
「何かあった?」
「あ、いや、ううん、なんでもない。あはは……」
 結局、その後も夕を虫取りに誘ったりはできなかった。
 まだ転校してきた初日であり、クラスメイトになったばかり。
 何より、誰とも気軽に話している様子の彼に、俊樹は少し、気後れを感じていた。
 変に距離を詰めすぎて、引かれてしまったら悲しいし、申し訳ない。
 そのうち、もう少し仲良くなったりしたら、誘ってみよう。
 俊樹は心の内でそんなことを決めながら、残りの弁当を食べ進めるのだった。
 それから、退屈な午後の授業を終え、俊樹と陽道は行きと同じように並んで下校していた。
 午後になっても雨は止まず、夕方近くになった今も、しとしとと世界を濡らし続けている。
 日もある程度落ち、雨雲が空を覆う中、薄暗い住宅街の道を、街灯の頼りない光がところどころ照らしていた。
 他愛もない会話をしながら歩く2人だったが、雨のせいか、暗さのせいか、どことなく、トーンは低めで、やり取りも静かだ。
「俊樹、あの、夕のことだけど」
 歩いて行く中で、不意に、陽道が転校生の名前を出した。
 その声がどこか硬いものであることに俊樹は気付かないまま、明るく返した。
「うん、意外だったよね、あんな虫好きだったなんて」
 昼休みの後、休み時間になっても、夕は俊樹たちのところにやって来た。
 俊樹が虫好きである、という話を陽道がポロっと口にしたのが原因だった。
 何が好きなのか、どんな虫が特に好きなのか、虫以外はどうなのか、とあれやこれやと話を聞かれて、俊樹はすっかり面食らってしまっていた。
「あれだけ詳しい人、同年代では初めて見たよ。たぶん僕よりずっと知識があると思う。すごいよ」
 しかし、驚きや困惑以上に、俊樹は同じ趣味の話ができる相手が現れたことに心底喜びを覚えていた。
 もちろん、陽道と一緒にいることは楽しい。
 他愛もない話だって、彼とならずっとしていられるし、今一緒に帰っている時間も、失われたりしたら悲しいと、本気で思う。