ずっと一緒に

 世の中は理不尽にできている。
 そんな、誰もがいつか知るような当たり前のことを、まだ幼い俊樹は理解しきれなかった。
 受け入れがたいこの世の醜さのようなものを、受け入れることができずにいたのだ。
 この時、俊樹はようやく、認めがたい世界の真実を1つ、心から理解することができた。理解できてしまった、と言うべきかもしれない出来事だった。
 しかし同時に、もう1つ、分かったこともあった。
 陽道を見る。
 彼は理由も理屈もなしに、俊樹を助けてくれた。
 俊樹の大切なカブトムシを取り戻してくれて、誰かが泣くことも、結果として暴力が振るわれてしまうようなことも起こさずに、平和的に解決してくれた。
 世の中は理不尽だ。
 でも、それは嫌なものばかりではなく、こうやって、意味も理由もなく助けてくれるような、理不尽な善意もあるのだと、俊樹は初めて知った。
「ね、ねえ」
「うん?」
 夢中な様子でカブトムシを眺める陽道に、俊樹はおずおずと声をかけた。
 視線だけを返してきた彼に、もう1度服の裾を強く握って、俊樹は勇気を振り絞って言った。
「このカブトムシを取ったところがあるんだけど、今度、一緒に行かない?」
 それは俊樹にとって、初めて、誰かを遊びに誘った記憶でもあった。
 あの日から、陽道との日々が始まった。
 毎日遊んで、一緒に過ごして、楽しくしているうちに、彼の良いところも悪いところもずいぶんと見てきた気がするけれど、彼と出会えたことは間違いなく、俊樹の人生における最大の幸運だったと、胸を張って言えることだった。
「……昔からそうだけどさ」
「ん?」
 懐かしい出来事を思い出して、俊樹は小さく笑いながら、陽道を見上げた。
 机の上に座る彼は記憶よりもずいぶん大きくて、でも、何かを見つめている時の横顔と、声をかけた時に向けてくる視線は、ずっと変わっていなかった。
「陽道は、意外と前に出たがらないよね」
「なんだそれ」
 人に何かを言われた時、苦笑を浮かべるのも、ずっと一緒。
 そうして笑っている間に、どうしてそう言われたのかを考えているのだって、俊樹にはとっくに分かっていた。
 でも、それこそが彼の良さなのだと、自分は誰より知っている。