ずっと一緒に

 生徒たちの中から聞き慣れた声が響いてきて、そちらを見ると、彼らの間から掲げられた手にカブトムシが握られていた。
 そのまま、高く掲げたままで他の生徒たちを掻き分け、俊樹の隣に立つと、陽道は呑気にカブトムシを見ながら言った。
「村田の背中に引っ付いてたんだ。茶色い服着てたから木と間違えたのかな?」
 ほら、と優しく笑いながら、彼はカブトムシを俊樹に手渡してくれた。
 何事もないように手の中で動く姿を見て、俊樹は安堵し、大きく息を吐いた。
 と、同時に、俊樹を取り囲んでいた生徒たちはつまらなそうに自分の教室へと戻って行き、野次馬をしていた生徒たちも、それぞれの教室に戻って行った。
 2人とカブトムシだけが残されて、俊樹は慎重に籠にカブトムシを戻し、もう1度ため息を吐いて、陽道を見た。
「あ、あの、ありがとう……」
 お礼を言っていなかったことを思い出し、俊樹は慌てて陽道の方に頭を下げた。
 すると、陽道はからからと笑い、頭を上げさせた。
「誰かが勝手に蓋を開けちゃったんだろうな。あんまり持ってこない方がいいぜ、酷いと皆のものにされちまう」
「皆の、って、こいつは僕のだよ」
「そうだけど、それが通らないこともあるのさ。さっきだって、誰も通しちゃくれなかっただろ?」
 言われて、つい先程感じた無力感が、俊樹の中で思い起こされた。
 誰も、自分の言ったことを聞いてはくれなかった。
 それどころか、かえって邪魔ばかりをしてきたのだ。
 言えば言う程、俊樹が泣きそうになればなる程、彼らはエスカレートしていった。
 また同じようなことになったら、と思うだけで、俊樹はあまりにも悲しくなってしまった。
「……カブトムシ、かっこいいな」
 ぎゅっと服の裾を握る俊樹に、陽道は唐突に、カブトムシを眺めながら言った。
 眩しいものを見つめる時のように目を少し細めて、陽道は土の上を歩くカブトムシを静かに見つめていた。
 皆も、彼と同じように、夢中になって見てくれるものだと思っていた。
 実際、大半の生徒たちは想像通り、カブトムシを見て目を輝かせていたが、実際のところは、それだけでは済まなかった。
 良かれと思ってやったことが良くない方向に転がった時の悲しみは、まだ幼い俊樹にとって、初めてに近い体験であり、どう受け止めたらいいのか、分からないものだった。
 理不尽に襲われたり、不可抗力による結果だったり、災難に遭ってしまったり、この世にはいくつもの、どうにもならない出来事がある。
 自分に非がない、あるいは、誰かの悪意によってそれらが引き起こされた時、当時の俊樹は、どうしたらいいのか分からなかった。