陽が傾き、子供たちがいなくなったグラウンドはゆっくりと色彩を失い始めていた。
佐久良と並んで鉄棒に軽く背中を預け、恐る恐る木製の小箱を開ける秦の手元に視線を注ぐ。名残陽が、彼女の横顔を淡く照らしていた。
やはり元はアクセサリーケースだったのか、箱は二段になっていて、蓋を開いた真下が一段目、その下の二段目は引き出し式になっていた。中の仕切りはないが、蓋の内側にはネックレスやブレスレットを引っかけるような小さなフックがいくつかついている。
一段目にあったのは、女子が好きそうなゆるキャラのレターセットとメッセージブック。それに、いわゆる『夢の国』のキャラクターの描かれた細長い封筒。それらを見るなり、秦がぷっと噴き出した。
「ヤダッ。そうだ。こんなん入れてたわ」
開けたままの小箱を片腕に抱え、『夢の国』キャラクターの封筒を手に取る。封筒の中身も、「こんなん」と言う理由もわからず、佐久良と顔を見合わせる。
「パパがゴルフのコンペでもらった有効期限なしのペアチケットよ。『18歳の私は彼氏ができているだろうから、彼氏と使ってね』って、自分への手紙に書いたの思い出したわ」
口元に手を当て肩を震わせる姿は、心底おかしそうでもあり、どこか苦しげでもあった。
まさか教師と付き合っていた上、フラれて相手が犯罪者になっているなんて、小学生の秦は思いもしなかっただろう。
「メッセージブックも懐かしい」
次に拾い上げたメッセージブックをパラパラと捲り始める。友達からのメッセージ以外に、たくさんのシールが貼られたページなどもあった。
その様子に、本気で懐かしんでいるというより、どこか本題を避けているような白々しさを感じ、紫己は控えめに声をかけた。
「薫子さんの引き出しも、見てもいいですか?」
秦は腕の中の小箱に一度視線を落とし、メッセージブックと封筒を戻して蓋を閉じた。
覚悟を決めた表情で、小箱を差し出してくる。
「薫子が、見たがっているのなら……」
紫己は佐久良に目配せし、彼の側の右手をお腹の高さまで上げる。同じように佐久良の左手が上がってきて、上から重ねられた。
秦の隣に立っていたスリガラス状の人影が鮮明になり、同じ髪型の、制服姿の女子になる。
何度も同調したからか、今は霊体に触れなくても、彼女の感情が読み取れた。
「薫子さんは……見たがっているというより、秦先輩に見せたがっています」
「私に?」
秦が小首を傾げる。
紫己は佐久良から手を離し、その手を小箱の引き出しへと伸ばした。
二段目の中身は、一段目よりもシンプルだった。
秦のものと同じキャラで、デザイン違いのレターセット。それに、ショップのロゴらしきマークの入った、レターセットよりも小さなクラフト紙袋が二つ。レターセットを拾い上げ、裏返して、軽く息を呑んだ。封筒の表に書かれていたのは、秦と同じ「18才の自分へ」ではなく、「18才のマリちゃんへ」だった。
「えっと……」
秦と佐久良を順に見やり、最後はスリガラスに戻った薫子へと視線を移す。佐久良に触れていない今は彼女の顔がはっきりとは見えないのに、なんとなく彼女が頷いたように思えた。
「僕に……読んでほしいみたいだから、僕が読んでいいですか?」
唇を噛みしめ、秦が小さく頷く。
封筒から取り出した便箋には、女子らしい丸みを帯びた字が並んでいた。
佐久良と並んで鉄棒に軽く背中を預け、恐る恐る木製の小箱を開ける秦の手元に視線を注ぐ。名残陽が、彼女の横顔を淡く照らしていた。
やはり元はアクセサリーケースだったのか、箱は二段になっていて、蓋を開いた真下が一段目、その下の二段目は引き出し式になっていた。中の仕切りはないが、蓋の内側にはネックレスやブレスレットを引っかけるような小さなフックがいくつかついている。
一段目にあったのは、女子が好きそうなゆるキャラのレターセットとメッセージブック。それに、いわゆる『夢の国』のキャラクターの描かれた細長い封筒。それらを見るなり、秦がぷっと噴き出した。
「ヤダッ。そうだ。こんなん入れてたわ」
開けたままの小箱を片腕に抱え、『夢の国』キャラクターの封筒を手に取る。封筒の中身も、「こんなん」と言う理由もわからず、佐久良と顔を見合わせる。
「パパがゴルフのコンペでもらった有効期限なしのペアチケットよ。『18歳の私は彼氏ができているだろうから、彼氏と使ってね』って、自分への手紙に書いたの思い出したわ」
口元に手を当て肩を震わせる姿は、心底おかしそうでもあり、どこか苦しげでもあった。
まさか教師と付き合っていた上、フラれて相手が犯罪者になっているなんて、小学生の秦は思いもしなかっただろう。
「メッセージブックも懐かしい」
次に拾い上げたメッセージブックをパラパラと捲り始める。友達からのメッセージ以外に、たくさんのシールが貼られたページなどもあった。
その様子に、本気で懐かしんでいるというより、どこか本題を避けているような白々しさを感じ、紫己は控えめに声をかけた。
「薫子さんの引き出しも、見てもいいですか?」
秦は腕の中の小箱に一度視線を落とし、メッセージブックと封筒を戻して蓋を閉じた。
覚悟を決めた表情で、小箱を差し出してくる。
「薫子が、見たがっているのなら……」
紫己は佐久良に目配せし、彼の側の右手をお腹の高さまで上げる。同じように佐久良の左手が上がってきて、上から重ねられた。
秦の隣に立っていたスリガラス状の人影が鮮明になり、同じ髪型の、制服姿の女子になる。
何度も同調したからか、今は霊体に触れなくても、彼女の感情が読み取れた。
「薫子さんは……見たがっているというより、秦先輩に見せたがっています」
「私に?」
秦が小首を傾げる。
紫己は佐久良から手を離し、その手を小箱の引き出しへと伸ばした。
二段目の中身は、一段目よりもシンプルだった。
秦のものと同じキャラで、デザイン違いのレターセット。それに、ショップのロゴらしきマークの入った、レターセットよりも小さなクラフト紙袋が二つ。レターセットを拾い上げ、裏返して、軽く息を呑んだ。封筒の表に書かれていたのは、秦と同じ「18才の自分へ」ではなく、「18才のマリちゃんへ」だった。
「えっと……」
秦と佐久良を順に見やり、最後はスリガラスに戻った薫子へと視線を移す。佐久良に触れていない今は彼女の顔がはっきりとは見えないのに、なんとなく彼女が頷いたように思えた。
「僕に……読んでほしいみたいだから、僕が読んでいいですか?」
唇を噛みしめ、秦が小さく頷く。
封筒から取り出した便箋には、女子らしい丸みを帯びた字が並んでいた。


