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「あ、おはよう」
「…………おか」
「声ひどいね。水いる?」
「いる……」
丘がのんびりした調子でペットボトルを差し出す。それは八千賀が登校前に購入したもので、丘は八千賀のカバンからそれを出したのだった。
「……病院?」
「保健室だよ」
「………せんせーは?」
「今ちょうど職員室」
「おぉ………」
一気に水を煽り、それから深呼吸をする。どっか痛いなぁとぼんやりしていたらだんだんと痛みが鮮明になってきた。左手がじわじわと痛む!
「いてぇ〜!あー、もー最悪……え、今何時?」
「一時ぐらい」
「遠野は!?」
丘は保健室に備えられているパイプ椅子に座っていた。身じろいだせいで椅子がぎしりと音をたてた。
「わかんない。先生に呼ばれたっぽいけど。ていうか八千賀は大丈夫?みんな心配してるよ。遠野と喧嘩したんだって?」
「ん!?何それ。なんでそんなことになってんの!?」
「他のクラスの人が見たんだって。遠野と予備教室から出てきたら、八千賀が鼻血だして倒れったって。怪我もしてるし、遠野にボコられたんじゃないかって話」
「いやいやいや、んなわけないじゃん」
丘ののんびりした口調が助かる。椎名のように強めに畳み掛けられたら萎縮してしまっただろう。
腕をついて身体を起こす。きちんと踵が揃えられている上履きを見つけ、つま先を入れると丘が少しだけ驚いた。
「帰るの?」
「準備に出るんだよ。寝てたら余計に拗れそうだし……」
「……今日は休んだ方がいいと思うよ」
「元気だから大丈夫」
「そうじゃなくて、……ちょっとクラスがザワついてるから」
「遠野がやったって事になるんだろ?……あ!教室とか廊下、俺の血がベッタベタじゃね?やば。誰掃除してくれたん?」
「え?あ、そういえば綺麗だったよ。それこそ遠野かな」
「そうかも。ごめん、さきに遠野探しに空き教室に……」
カバンを抱えて保健室から出ようとした。出ようとしたのだが、保健室の引き戸を手にかけることが出来なかった。首筋に虫が這ったような感覚と、左手の痛みが同一のおぞましさを与えてくる。種類の違うセミが同じ場所で鳴いて、騒がしさに煩わしさはあるものの違和感はない、あのような感覚だ。
二の足を踏んだのを、丘はしっかりと見ていた。
「八千賀。いいよ。休もう?」
「……ごめん。その、……。………もしかしたら、数日休むかも」
「大丈夫。八千賀が休んだって誰も何も言わないよ」
「……丘、ありがとう」
だから大丈夫だよ、と手をひらひらさせる丘に首を振る。
「いつも皆の間に入ってくれる。ありがと」
「えー。八千賀がいつもやってることだよ」
丘はいたって平和に、とてものんびりと答えた。
「あ、おはよう」
「…………おか」
「声ひどいね。水いる?」
「いる……」
丘がのんびりした調子でペットボトルを差し出す。それは八千賀が登校前に購入したもので、丘は八千賀のカバンからそれを出したのだった。
「……病院?」
「保健室だよ」
「………せんせーは?」
「今ちょうど職員室」
「おぉ………」
一気に水を煽り、それから深呼吸をする。どっか痛いなぁとぼんやりしていたらだんだんと痛みが鮮明になってきた。左手がじわじわと痛む!
「いてぇ〜!あー、もー最悪……え、今何時?」
「一時ぐらい」
「遠野は!?」
丘は保健室に備えられているパイプ椅子に座っていた。身じろいだせいで椅子がぎしりと音をたてた。
「わかんない。先生に呼ばれたっぽいけど。ていうか八千賀は大丈夫?みんな心配してるよ。遠野と喧嘩したんだって?」
「ん!?何それ。なんでそんなことになってんの!?」
「他のクラスの人が見たんだって。遠野と予備教室から出てきたら、八千賀が鼻血だして倒れったって。怪我もしてるし、遠野にボコられたんじゃないかって話」
「いやいやいや、んなわけないじゃん」
丘ののんびりした口調が助かる。椎名のように強めに畳み掛けられたら萎縮してしまっただろう。
腕をついて身体を起こす。きちんと踵が揃えられている上履きを見つけ、つま先を入れると丘が少しだけ驚いた。
「帰るの?」
「準備に出るんだよ。寝てたら余計に拗れそうだし……」
「……今日は休んだ方がいいと思うよ」
「元気だから大丈夫」
「そうじゃなくて、……ちょっとクラスがザワついてるから」
「遠野がやったって事になるんだろ?……あ!教室とか廊下、俺の血がベッタベタじゃね?やば。誰掃除してくれたん?」
「え?あ、そういえば綺麗だったよ。それこそ遠野かな」
「そうかも。ごめん、さきに遠野探しに空き教室に……」
カバンを抱えて保健室から出ようとした。出ようとしたのだが、保健室の引き戸を手にかけることが出来なかった。首筋に虫が這ったような感覚と、左手の痛みが同一のおぞましさを与えてくる。種類の違うセミが同じ場所で鳴いて、騒がしさに煩わしさはあるものの違和感はない、あのような感覚だ。
二の足を踏んだのを、丘はしっかりと見ていた。
「八千賀。いいよ。休もう?」
「……ごめん。その、……。………もしかしたら、数日休むかも」
「大丈夫。八千賀が休んだって誰も何も言わないよ」
「……丘、ありがとう」
だから大丈夫だよ、と手をひらひらさせる丘に首を振る。
「いつも皆の間に入ってくれる。ありがと」
「えー。八千賀がいつもやってることだよ」
丘はいたって平和に、とてものんびりと答えた。
