「えっと……信じてもらえないかもしれないんですけど、僕、最近になって怪異が見えるようになったんです。だから、花子さんも怪談なんかじゃなくて、本当に実在するんじゃないかと思って、確かめたくて……」
「それで、トイレで待ち構えてたってわけ? でも、だとしたら花子さんの格好までする必要はなくね?」
パチンと照明を点けながら大輝が指摘する。
確かにその通りだ。偽花子さんも同じことを思ったのか、あぁー、と微妙な顔になった。
「それに、花子さんの本来のポジションを奪うのもどうなん? おれらみたいに花子さんをちゃんとノックして呼んだほうがよかったんじゃないの」
大輝からの容赦ないマジレスにがくんとうなだれる偽花子。もういい、これ以上言うのは止めてやれ。
「お前の動機は分かった。そうなると……一つはっきりしたことがある」
俺は偽花子を指差して、きっぱりと言い放った。
「噂されていた花子さんの正体はこいつだったんだ。こういうことするの、今日が初めてじゃないんだろ?」
「は、はい……何度か」
正体見たり。まったく人騒がせなやつだ。
「これにて一見落着、ってことだな! 出番なくて残念だったな、シオリ?」
「別に構わぬ。ワシの出番などないほうが平和で良い」
ぽんぽんと肩を叩いてくる大輝に、シオリが心底安心した顔で言う。
俺もすっかり重くなった肩を揉みながら、ようやくほっと一息つくのだった。
「じゃ、帰るか」
俺の言葉に全員が頷き、トイレを出た、その直後。
ジジッ、と照明がちらついてから、完全に消えた。
同時に非常灯も完全に死に、周囲は一切の闇に包まれる。
「ひぃぃっ!?」
「黙ってろ! この感じ――」
悲鳴を上げた偽花子を怒鳴りつけ、俺はポケットの中をまさぐった。
首筋を這うような冷たさ。音も光もない世界。この感覚を俺は知っている。
あの日あの時、現れた、怪異――。
『ナニシテアソブ??』
スマホのライトに照らされて浮かび上がったのは、黒髪おかっぱの女の子の霊。
花子さんだ。紛れもない本物の!
「シオリ!」
俺は叫び、大輝と偽花子の腕を掴んで出入り口へと全力で駆け出した。
逃げなきゃ死ぬ! 後ろを振り向かずに、走れ!
「うわっっ!?」
偽花子が盛大にずっこけて、俺もバランスを崩して共倒れになる。
ポケットから転がり落ちたスマホの光が床から天井へと軌跡を描く。
瞬間、俺は目にした。
床から生えてきた真っ白い大きな手が、偽花子の足を掴んでいる光景を。
『ワタシノイバショォォォォォ!!』
巨大な腕が伸び上がり、偽花子を宙吊りにする。
悲鳴を上げることもできず凍りつく偽花子を、俺は唇を噛んで見上げるしかできなかった。
いま逃げれば俺と大輝だけでも助かるかもしれない。
けれど。そんなこと――できない。
「シオリ、早くッ!」
「『汝、ここに』――」
唱えかけた束の間、現れたもう一本の腕がシオリを横から薙ぎ払った。
壁際まで吹き飛ばされ、ぐしゃりと床に崩れ落ちるシオリ。
いてもたってもいられず、俺はあいつのもとへ飛び出した。
「シオリっ……!」
薄闇に浮かぶ二本の腕と、赤いスカートの女の子。
その瞳が確かに俺を捉えたのが、はっきりと分かった。
どうする。どうする。どうすればいい。
このままでは偽花子もシオリもやられてしまう。
ただ霊が見えるだけで何の力も持たない俺に、何ができる――?
「首絞めごっこ!!」
脳裏によぎったその単語を、俺は咄嗟に叫んでいた。
「何して遊ぶ?」の返しにそう答えると本当に首を絞められて殺される。
都市伝説が真実なら、花子さんは俺のほうに食いつくはずだ。
「来る――!」
狙い通りシオリを殴打したほうの腕が俺へと急迫する。
これで俺は死ぬ。けどこの作った一瞬の隙でシオリが動いてくれさえすれば、残りの二人は生き残れる。
それでいい。俺なんて、どうせ――。
「バカヤロー、勇次郎!!」
大輝の叫びが轟いた刹那、白い手のもとへ光る何かが飛んでいく。
スマホだ。そんなもんでどうにかなるとは思えない。
だが、その時――
『~~~~~~~♪』
アラームの音が爆音で響き、驚いたのか花子さんの腕が一瞬動きを止めた。
「『顕現せよ、光の刃よ』!」
すかさずシオリが身を起こし、鋭く唱える。
空中を走る光の斬撃が二本の腕をたちまち切断し、いくつもの腕の輪切りを量産した。
「ぐえっっ!?」
「うおっ!!」
落下する偽花子の着地点へと滑り込み、大輝は身体で受け止める。
受け止めきれずに一緒に床に倒れ込む二人。
「それで、トイレで待ち構えてたってわけ? でも、だとしたら花子さんの格好までする必要はなくね?」
パチンと照明を点けながら大輝が指摘する。
確かにその通りだ。偽花子さんも同じことを思ったのか、あぁー、と微妙な顔になった。
「それに、花子さんの本来のポジションを奪うのもどうなん? おれらみたいに花子さんをちゃんとノックして呼んだほうがよかったんじゃないの」
大輝からの容赦ないマジレスにがくんとうなだれる偽花子。もういい、これ以上言うのは止めてやれ。
「お前の動機は分かった。そうなると……一つはっきりしたことがある」
俺は偽花子を指差して、きっぱりと言い放った。
「噂されていた花子さんの正体はこいつだったんだ。こういうことするの、今日が初めてじゃないんだろ?」
「は、はい……何度か」
正体見たり。まったく人騒がせなやつだ。
「これにて一見落着、ってことだな! 出番なくて残念だったな、シオリ?」
「別に構わぬ。ワシの出番などないほうが平和で良い」
ぽんぽんと肩を叩いてくる大輝に、シオリが心底安心した顔で言う。
俺もすっかり重くなった肩を揉みながら、ようやくほっと一息つくのだった。
「じゃ、帰るか」
俺の言葉に全員が頷き、トイレを出た、その直後。
ジジッ、と照明がちらついてから、完全に消えた。
同時に非常灯も完全に死に、周囲は一切の闇に包まれる。
「ひぃぃっ!?」
「黙ってろ! この感じ――」
悲鳴を上げた偽花子を怒鳴りつけ、俺はポケットの中をまさぐった。
首筋を這うような冷たさ。音も光もない世界。この感覚を俺は知っている。
あの日あの時、現れた、怪異――。
『ナニシテアソブ??』
スマホのライトに照らされて浮かび上がったのは、黒髪おかっぱの女の子の霊。
花子さんだ。紛れもない本物の!
「シオリ!」
俺は叫び、大輝と偽花子の腕を掴んで出入り口へと全力で駆け出した。
逃げなきゃ死ぬ! 後ろを振り向かずに、走れ!
「うわっっ!?」
偽花子が盛大にずっこけて、俺もバランスを崩して共倒れになる。
ポケットから転がり落ちたスマホの光が床から天井へと軌跡を描く。
瞬間、俺は目にした。
床から生えてきた真っ白い大きな手が、偽花子の足を掴んでいる光景を。
『ワタシノイバショォォォォォ!!』
巨大な腕が伸び上がり、偽花子を宙吊りにする。
悲鳴を上げることもできず凍りつく偽花子を、俺は唇を噛んで見上げるしかできなかった。
いま逃げれば俺と大輝だけでも助かるかもしれない。
けれど。そんなこと――できない。
「シオリ、早くッ!」
「『汝、ここに』――」
唱えかけた束の間、現れたもう一本の腕がシオリを横から薙ぎ払った。
壁際まで吹き飛ばされ、ぐしゃりと床に崩れ落ちるシオリ。
いてもたってもいられず、俺はあいつのもとへ飛び出した。
「シオリっ……!」
薄闇に浮かぶ二本の腕と、赤いスカートの女の子。
その瞳が確かに俺を捉えたのが、はっきりと分かった。
どうする。どうする。どうすればいい。
このままでは偽花子もシオリもやられてしまう。
ただ霊が見えるだけで何の力も持たない俺に、何ができる――?
「首絞めごっこ!!」
脳裏によぎったその単語を、俺は咄嗟に叫んでいた。
「何して遊ぶ?」の返しにそう答えると本当に首を絞められて殺される。
都市伝説が真実なら、花子さんは俺のほうに食いつくはずだ。
「来る――!」
狙い通りシオリを殴打したほうの腕が俺へと急迫する。
これで俺は死ぬ。けどこの作った一瞬の隙でシオリが動いてくれさえすれば、残りの二人は生き残れる。
それでいい。俺なんて、どうせ――。
「バカヤロー、勇次郎!!」
大輝の叫びが轟いた刹那、白い手のもとへ光る何かが飛んでいく。
スマホだ。そんなもんでどうにかなるとは思えない。
だが、その時――
『~~~~~~~♪』
アラームの音が爆音で響き、驚いたのか花子さんの腕が一瞬動きを止めた。
「『顕現せよ、光の刃よ』!」
すかさずシオリが身を起こし、鋭く唱える。
空中を走る光の斬撃が二本の腕をたちまち切断し、いくつもの腕の輪切りを量産した。
「ぐえっっ!?」
「うおっ!!」
落下する偽花子の着地点へと滑り込み、大輝は身体で受け止める。
受け止めきれずに一緒に床に倒れ込む二人。
