確かに怪異を祓ったり服を一瞬で乾かしたり、特別な力は持っているようだけど……。
「鳥がトリカブトを取りに来た!」
撤回。こいつはただのダジャレ好きのオヤジだ。
「何か反応せい、つまらんぞ!」
反応したくてもできないんだよ、こっちは。
と、内心でツッコんだタイミングで、ちょうど昼休みを告げるチャイムが鳴った。
俺は無言で席を立ち、教室を出る。
と、そこで。
「おはよ、勇次郎!!」
無駄にでかい声をかけられて立ち止まる。
中肉中背、高校デビューの茶髪。人懐っこい笑顔が目を引くこいつは、三浦大輝。小学校からの腐れ縁である、俺の幼馴染みだ。
「……はよ」
「お主、馬鹿か? 今は『おはよう』じゃなくて『こんにちは』じゃ」
急に割って入るな。あと何でそんな喧嘩腰なんだ。
俺は視線でシオリに「黙ってろ」と言った。
そんな俺を他所に、大輝がぽりぽりと頭を掻く。
「あーそっか、もう昼だもんな」
……ん?
「そうじゃ、昼飯の時間じゃ。お供え物の一つや二つはあるんじゃろうな?」
「お供え物? 神様じゃあるまいし」
んん……?
「否、ワシこそが正真正銘、神なのじゃ」
えっへんと胸を張って肩書きを名乗るシオリ。
俺と大輝は顔を見合わせ、数秒間固まった後、二人揃って声を上げた。
「み、見えてる……!?」
「神様って、マジ!?」
驚く俺たちにシオリは不敵な笑みを浮かべ、そして言った。
「ふん、当然じゃ」
ひとまず俺たちは場所を移した。
本来なら立ち入り禁止になっているはずの屋上。ここの入り口の鍵が壊れていることに気づいているのは、学内でも俺くらいだろう。
ここならシオリと普通に会話しても問題ない。
「へぇー、屋上って入れたんだな」
「お供え物はまだか! ワシはみたらし団子が食べたい!」
校則違反ではあるし、みたらし団子はたぶん誰も持ってきてない。
俺は屋上の隅に腰かけ、金網に背中を預けた。
「なければよもぎ団子でもいいぞ。あんこが付いていればなお良し。ちなみにワシはこしあん派じゃ」
「わかる、よもぎ団子美味いよな。けど、おれは粒あん派だなー」
「はっ、くだらんな。粒あんなどいちいち舌に触れる小豆の形が鬱陶しいのじゃ。それに比べこしあんののどごしの滑らかさと言ったら! そちらのほうが断然、格別に良い!」
「おっ、やるかやるかー?」
たかがあんこで論争を吹っかけるな。大輝も悪乗りするんじゃない。
俺は無言でシオリの頭をぺちんと叩いた。
不敬じゃぞ! と涙目になるシオリをスルーして、口火を切る。
「……話を戻すぞ」
「なんだっけ、こいつが神様気取りのコスプレイヤーだって話?」
「こす……何じゃ? ワシはシオリじゃぞ!」
コスプレイヤーの意味は教えないほうがよさそうだな。
俺は咳払いして、今度こそ本題に入った。
「こいつは神様なんだ。魔法みたいな不思議な力で、怪異――悪霊みたいなものを祓うことのできる、本物の神」
昨日の夜からのことを俺は包み隠さず大輝に打ち明けた。
突拍子もない話だったけど、大輝は一切茶化すことなく、時おり相槌を打ちながら聞いてくれた。
「うーん……勇次郎のギャグセンスじゃあ到底思いつかないようなことだから、嘘じゃあないんだろうけど……」
一言余計だよ。俺だって頑張れば面白いこと言えるかもしれないぞ。
「シオリが本物の神様なら、その呪文? みたいなので魔法が使えるんだろ? ちょっとやってみせてよ」
「呪文じゃなくて祝詞じゃ。それに、魔法じゃなくて『神力』じゃ。まったく、近頃の若者は信仰心が足らん!」
ぷりぷりと怒りながら大輝の言葉を訂正するシオリ。
俺たちと同い年くらいの見た目のくせして、発言は立派な老害だな。
「……できる、シオリ?」
やってみせれば大輝だって納得するはずだ。
俺が訊くとシオリは勢いよく立ち上がり、張り切った様子で手のひらを正面に突きだした。
「雲よ満ちよ。水よ巡れ。雨となりて、ここに降れ」
ちょっ、いま雨降らすなよ……!
慌てて立ち上がり俺と大輝は避難しようとした。
だが、すぐに違和感に気づいて振り返る。
「……雨よ、降れ! 降れ降れ! 降れったら降れ!」
やけくそみたいに腕を振り回して命じるシオリ。
しかし、天気は雲一つない快晴のまま、風すらも吹くことはなかった。
「……」
「……終わり?」
「おっ、終わりじゃっ! 何か文句あるか!?」
何とも言えず顔を見合わせる俺と大輝。
そんな俺たちにシオリは頬を真っ赤にして、口を尖らせる。
「鳥がトリカブトを取りに来た!」
撤回。こいつはただのダジャレ好きのオヤジだ。
「何か反応せい、つまらんぞ!」
反応したくてもできないんだよ、こっちは。
と、内心でツッコんだタイミングで、ちょうど昼休みを告げるチャイムが鳴った。
俺は無言で席を立ち、教室を出る。
と、そこで。
「おはよ、勇次郎!!」
無駄にでかい声をかけられて立ち止まる。
中肉中背、高校デビューの茶髪。人懐っこい笑顔が目を引くこいつは、三浦大輝。小学校からの腐れ縁である、俺の幼馴染みだ。
「……はよ」
「お主、馬鹿か? 今は『おはよう』じゃなくて『こんにちは』じゃ」
急に割って入るな。あと何でそんな喧嘩腰なんだ。
俺は視線でシオリに「黙ってろ」と言った。
そんな俺を他所に、大輝がぽりぽりと頭を掻く。
「あーそっか、もう昼だもんな」
……ん?
「そうじゃ、昼飯の時間じゃ。お供え物の一つや二つはあるんじゃろうな?」
「お供え物? 神様じゃあるまいし」
んん……?
「否、ワシこそが正真正銘、神なのじゃ」
えっへんと胸を張って肩書きを名乗るシオリ。
俺と大輝は顔を見合わせ、数秒間固まった後、二人揃って声を上げた。
「み、見えてる……!?」
「神様って、マジ!?」
驚く俺たちにシオリは不敵な笑みを浮かべ、そして言った。
「ふん、当然じゃ」
ひとまず俺たちは場所を移した。
本来なら立ち入り禁止になっているはずの屋上。ここの入り口の鍵が壊れていることに気づいているのは、学内でも俺くらいだろう。
ここならシオリと普通に会話しても問題ない。
「へぇー、屋上って入れたんだな」
「お供え物はまだか! ワシはみたらし団子が食べたい!」
校則違反ではあるし、みたらし団子はたぶん誰も持ってきてない。
俺は屋上の隅に腰かけ、金網に背中を預けた。
「なければよもぎ団子でもいいぞ。あんこが付いていればなお良し。ちなみにワシはこしあん派じゃ」
「わかる、よもぎ団子美味いよな。けど、おれは粒あん派だなー」
「はっ、くだらんな。粒あんなどいちいち舌に触れる小豆の形が鬱陶しいのじゃ。それに比べこしあんののどごしの滑らかさと言ったら! そちらのほうが断然、格別に良い!」
「おっ、やるかやるかー?」
たかがあんこで論争を吹っかけるな。大輝も悪乗りするんじゃない。
俺は無言でシオリの頭をぺちんと叩いた。
不敬じゃぞ! と涙目になるシオリをスルーして、口火を切る。
「……話を戻すぞ」
「なんだっけ、こいつが神様気取りのコスプレイヤーだって話?」
「こす……何じゃ? ワシはシオリじゃぞ!」
コスプレイヤーの意味は教えないほうがよさそうだな。
俺は咳払いして、今度こそ本題に入った。
「こいつは神様なんだ。魔法みたいな不思議な力で、怪異――悪霊みたいなものを祓うことのできる、本物の神」
昨日の夜からのことを俺は包み隠さず大輝に打ち明けた。
突拍子もない話だったけど、大輝は一切茶化すことなく、時おり相槌を打ちながら聞いてくれた。
「うーん……勇次郎のギャグセンスじゃあ到底思いつかないようなことだから、嘘じゃあないんだろうけど……」
一言余計だよ。俺だって頑張れば面白いこと言えるかもしれないぞ。
「シオリが本物の神様なら、その呪文? みたいなので魔法が使えるんだろ? ちょっとやってみせてよ」
「呪文じゃなくて祝詞じゃ。それに、魔法じゃなくて『神力』じゃ。まったく、近頃の若者は信仰心が足らん!」
ぷりぷりと怒りながら大輝の言葉を訂正するシオリ。
俺たちと同い年くらいの見た目のくせして、発言は立派な老害だな。
「……できる、シオリ?」
やってみせれば大輝だって納得するはずだ。
俺が訊くとシオリは勢いよく立ち上がり、張り切った様子で手のひらを正面に突きだした。
「雲よ満ちよ。水よ巡れ。雨となりて、ここに降れ」
ちょっ、いま雨降らすなよ……!
慌てて立ち上がり俺と大輝は避難しようとした。
だが、すぐに違和感に気づいて振り返る。
「……雨よ、降れ! 降れ降れ! 降れったら降れ!」
やけくそみたいに腕を振り回して命じるシオリ。
しかし、天気は雲一つない快晴のまま、風すらも吹くことはなかった。
「……」
「……終わり?」
「おっ、終わりじゃっ! 何か文句あるか!?」
何とも言えず顔を見合わせる俺と大輝。
そんな俺たちにシオリは頬を真っ赤にして、口を尖らせる。
