神様、その契約、命がけで守ります

いつも騒がしい野球部の奴らがいないせいで、クラスは異常に静まり返っていた。


「今日の始業式は中止だ。ホームルームが終わったら今日はすぐに解散すること」


チャイムが鳴り、担任が教室に入ってきて開口一番にそう言った。
始業式の中止。明らかに異常事態だったが、担任は詳細に踏み込んだ話はしなかった。
一五分ほどのホームルームを終えた後、教師に追い立てられるように俺たちは教室を後にする。


「二人とも! ちょっといいですか!?」


廊下で俺たちを呼び止めたのは、律先輩だった。
息を切らしながら駆け寄ってくる先輩の肩に手を置き、大輝が訊く。


「もしかして、先輩のクラスも?」
「うちだけじゃありません、他のクラスも何人か休んでいて……全員が、男子生徒のようでした」


長めの前髪の下で律先輩が眉根を寄せる。
不自然に休んでいる生徒。理由も告げられず中止となった始業式。インフルでの学校閉鎖とはわけが違う。これは、明らかに――


「怪異だ」


俺は、ぼそりと一言呟いた。


「怪異がいる。それも、生徒を何人も消し去るような強力なやつが」
「まだ確定したわけじゃ……!」
「でも、先輩も確信しているから俺たちに声をかけたんですよね?」


握った拳を小刻みに震わせ、律先輩が微かに頷く。
こんな時にシオリがいてくれれば。
あいつさえいれば、悪さをしている怪異を祓えたかもしれないのに。
なんでこんな時に限って、いなくなっちまうんだよ、あいつ……!


「だとしても、どーすんだよ。シオリはいないんだぞ。おれたちがどうにかできる問題なのか……?」


神じゃないと怪異は祓えない。俺たちにできることは何もないのかもしれない。とりあえず学校から離れていれば無事でいられるのかもしれない。……でも、そんな確証はどこにもない。


「……シオリは」


最後にあった日、菅原文彦について語っていたあいつの顔を俺は思い返した。

「一〇〇年以上も昔から、この街を大切に思っていたはずだ。そんなあいつが学校に現れた怪異を、放置し続けるわけがない」
「じゃあ、シオリは……?」


俺の知っているシオリという神が、まだ何も変わっていなかったとしたら。
あいつはきっと、今も――。


「怪異のところにいるはずだ。捕まって身動きが取れないのか、結界か何かに閉じ込められて出られないのか分からないけど……あいつは絶対、怪異からは逃げない」


確信があった。
俺の言葉に大輝と律先輩は目を見開き、それから顔を見合わせた。
やることは決まっている。


「俺たちでシオリのところに行こう。それで……あいつを、助けるんだ」


反論はなかった。俺たちはそれぞれに頷きを交わし合い、シオリを救うために意志を一つにするのだった。





それからの俺たちの行動は早かった。
まず取りかかったのは怪異の出現場所の特定だった。
律先輩が主導で俺たちは欠席していた生徒たちと仲の良い生徒や教師への聞き取り調査を進めていった。
帰ろうとしていた生徒たちを捕まえて調査すること、三時間。
近所のファミレスに集まった俺たちは、判明した情報をさっそく洗い出した。


「行方不明になった生徒は全員が男子生徒。学年は一、二年が中心で、三年はほとんどいませんでした。連絡が付かなくなったのはここ一週間くらいみたいですね」


律先輩がプリントの裏紙に箇条書きで列挙していく。
三年がほとんどいない、というのが気になるところだ。


「他に、いなくなった生徒の共通点は?」
「いや、気づかなかったん、ゆーじろ? いなくなったのは全員、運動部のやつらだよ。それも野球部にサッカー部、バスケ部、バレー部って強豪揃いだ」


ああ、と俺は納得がいった。運動部なら三年はほぼ引退しているはずだから、ターゲットになってなくても自然だ。

「でも、サッカー部のやつらがいなくなったんなら、なんで大輝は無事なんだ……?」
「サッカー部の一、二年生が姿を見せなくなったのは、ちょうど二日前だそうです。大輝くん、心当たりは?」
「あー……二日前はおれ、お腹が痛くて休んでたんだ」


だから偶然にも助かった。不幸中の幸いだったなー、と苦笑いする大輝に頷き、俺はアイスコーヒーで渇いた喉を湿らせる。


「グラウンドに出る怪異……ってわけでもないよな。バスケ部とバレー部は体育館だし」
「共通点は運動部の男子、ってだけだもんなー。鎧武者がシオリにこだわってたみたいに、運動部男子に何かしらの恨みがあったとか……?」


うーん、と俺たちは唸った。
現状の情報では怪異の尻尾さえ掴めていないのだ。せめて居場所さえ暴ければ、コンタクトの目処も立つんだが……。