「いるってさ! エアコンの効いた部屋でゴロゴロマンガ読んでるんだと」
「あ、あいつ……!」
怒りと心配と呆れが同時に湧き上がってきて、俺は何とも言えない変な顔になった。
まあでも、無事だったのならよかった。
「じゃ、先輩んちまでおれが案内するよ」
「いや……いい。場所さえ教えてもらえれば、一人で行ける」
いいのか? という顔で見つめてくる大輝に、俺は深く頷いてみせた。
逃げずに聞くんだ。どんな理由を抱えているにしても、話してみないと何も分からない。
「わかった。……じゃあ、頑張れよユウちゃん!」
「その名前で呼ぶな」
「いってぇ」
からかってくる大輝の背中を思い切り叩き、俺はブランコから立ち上がった。
送ってもらった地図アプリの場所を参考に、住宅街を足早に歩く。
律先輩の家までは十五分くらいだった。
小さい庭のある普通の一戸建て。玄関のインターホン前に立った俺は、それを押す前に何度か深呼吸をした。
……大丈夫だ。シオリが何を言おうと、受け入れる覚悟はできている。
ピンポーン。意を決して呼び出すとすぐに、ドアが遠慮がちに開いた。
「あ、勇次郎くん。……なんか汗臭くないですか?」
「すんません。シオリは?」
「二階の僕の部屋に。飲み物いります?」
「いいです。すぐに帰るので」
中にお邪魔させてもらい、律先輩の後について階段を上る。
部屋の前まで案内してくれた律先輩が「じゃあごゆっくり」と一階まで降りていった後、俺は思い切ってドアを勢いよく開いた。
「シオリ!」
呼びながら部屋に立ち入った瞬間、どすんと白い何かがベッドから転がり落ちるのが見えた。
「ゆ、ユウちゃん……?」
散らばった漫画本を拾い上げることも忘れて、起き上がったシオリは慌ててドアの方へ向かう。
俺は両手を広げて立ち塞がり、奴の逃走を阻止した。
「こっ、こらっ、離すのじゃ!?」
「離さない。お前とまだ、ちゃんと喋れてない」
バタバタと暴れるシオリを押さえつけ、俺はこいつの目をまっすぐ見て言った。
シオリは金色の瞳を泳がせ、しばらく口ごもっていたが、やがて観念したのか両手を上げる。
「……仕方あるまい」
ベッドの上に腰かけるシオリと向き合うように、俺はキャスター付きの椅子に座った。
「なぁ、シオリ」
「……」
「なんでいきなり、俺んちから出ていったんだ?」
シオリは視線を膝の上に釘付けにしたまま、唇を噛んでいた。
長い沈黙だった。
俺はじれったさを感じながらも、シオリが自分から話してくれるのを待っていた。
やがて。覚悟を決めたのか、シオリは俺のほうをまっすぐ見つめ、口を開いた。
「……菅原文彦という契約者がおったことは、前に話したな」
ああ、と俺は首を縦に振った。
大正時代、神と怪異の居場所を守るためにこの街の文化財を守った人物だ。
「そいつはワシにとってかけがえのない友であった。ワシはそいつに支えられ、そいつはワシを支えた」
淡々とした口調でシオリは語る。
声音は落ち着いていながらも、その語り口から俺はシオリにとって文彦という人間がどういう存在なのか悟った。
「あの頃のワシは、文彦との関係が永遠に続くものだと思っていた。人には不可避の寿命があるというにもかかわらずじゃ。じゃが……文彦との別れは、思ってもみないほどに早く、あっけなかった」
掠れたシオリの声が若干、震えたように聞こえた。
「怪異からワシを守って、そいつは死んだ。ワシは不死身の神だというのに、ワシの言うことを聞かず、身を挺して……」
シオリの声が湿度を纏う。一拍の間を置いて、シオリは言葉を継いだ。
「ワシの存在が怪異を引きつけてしまう。ゆえにお主もきっと、文彦と同じような運命を迎えるかもしれぬ。じゃから……」
「だから、俺から離れようっていうのかよ」
俺は拳を握り締めた。
そんな勝手なこと言うなよ。俺たちは一心同体だって、言ったのはお前じゃないか。
「すまぬ。……お主と過ごした時間、楽しかったぞ」
下を向いたまま立ち上がり、シオリはすれ違いざまにそう呟いた。
「っ、おい!」
「あ、あいつ……!」
怒りと心配と呆れが同時に湧き上がってきて、俺は何とも言えない変な顔になった。
まあでも、無事だったのならよかった。
「じゃ、先輩んちまでおれが案内するよ」
「いや……いい。場所さえ教えてもらえれば、一人で行ける」
いいのか? という顔で見つめてくる大輝に、俺は深く頷いてみせた。
逃げずに聞くんだ。どんな理由を抱えているにしても、話してみないと何も分からない。
「わかった。……じゃあ、頑張れよユウちゃん!」
「その名前で呼ぶな」
「いってぇ」
からかってくる大輝の背中を思い切り叩き、俺はブランコから立ち上がった。
送ってもらった地図アプリの場所を参考に、住宅街を足早に歩く。
律先輩の家までは十五分くらいだった。
小さい庭のある普通の一戸建て。玄関のインターホン前に立った俺は、それを押す前に何度か深呼吸をした。
……大丈夫だ。シオリが何を言おうと、受け入れる覚悟はできている。
ピンポーン。意を決して呼び出すとすぐに、ドアが遠慮がちに開いた。
「あ、勇次郎くん。……なんか汗臭くないですか?」
「すんません。シオリは?」
「二階の僕の部屋に。飲み物いります?」
「いいです。すぐに帰るので」
中にお邪魔させてもらい、律先輩の後について階段を上る。
部屋の前まで案内してくれた律先輩が「じゃあごゆっくり」と一階まで降りていった後、俺は思い切ってドアを勢いよく開いた。
「シオリ!」
呼びながら部屋に立ち入った瞬間、どすんと白い何かがベッドから転がり落ちるのが見えた。
「ゆ、ユウちゃん……?」
散らばった漫画本を拾い上げることも忘れて、起き上がったシオリは慌ててドアの方へ向かう。
俺は両手を広げて立ち塞がり、奴の逃走を阻止した。
「こっ、こらっ、離すのじゃ!?」
「離さない。お前とまだ、ちゃんと喋れてない」
バタバタと暴れるシオリを押さえつけ、俺はこいつの目をまっすぐ見て言った。
シオリは金色の瞳を泳がせ、しばらく口ごもっていたが、やがて観念したのか両手を上げる。
「……仕方あるまい」
ベッドの上に腰かけるシオリと向き合うように、俺はキャスター付きの椅子に座った。
「なぁ、シオリ」
「……」
「なんでいきなり、俺んちから出ていったんだ?」
シオリは視線を膝の上に釘付けにしたまま、唇を噛んでいた。
長い沈黙だった。
俺はじれったさを感じながらも、シオリが自分から話してくれるのを待っていた。
やがて。覚悟を決めたのか、シオリは俺のほうをまっすぐ見つめ、口を開いた。
「……菅原文彦という契約者がおったことは、前に話したな」
ああ、と俺は首を縦に振った。
大正時代、神と怪異の居場所を守るためにこの街の文化財を守った人物だ。
「そいつはワシにとってかけがえのない友であった。ワシはそいつに支えられ、そいつはワシを支えた」
淡々とした口調でシオリは語る。
声音は落ち着いていながらも、その語り口から俺はシオリにとって文彦という人間がどういう存在なのか悟った。
「あの頃のワシは、文彦との関係が永遠に続くものだと思っていた。人には不可避の寿命があるというにもかかわらずじゃ。じゃが……文彦との別れは、思ってもみないほどに早く、あっけなかった」
掠れたシオリの声が若干、震えたように聞こえた。
「怪異からワシを守って、そいつは死んだ。ワシは不死身の神だというのに、ワシの言うことを聞かず、身を挺して……」
シオリの声が湿度を纏う。一拍の間を置いて、シオリは言葉を継いだ。
「ワシの存在が怪異を引きつけてしまう。ゆえにお主もきっと、文彦と同じような運命を迎えるかもしれぬ。じゃから……」
「だから、俺から離れようっていうのかよ」
俺は拳を握り締めた。
そんな勝手なこと言うなよ。俺たちは一心同体だって、言ったのはお前じゃないか。
「すまぬ。……お主と過ごした時間、楽しかったぞ」
下を向いたまま立ち上がり、シオリはすれ違いざまにそう呟いた。
「っ、おい!」
