そんなわけない。一緒に毎日飯を食って、一緒に大輝たちと馬鹿をやって、一緒に怪異との戦いを乗り越えてきたシオリが、そんな理由でサヨナラなんてあるわけない。
それはわかっているのに胸がどうしてもざわついてしまう。
この不安を百パーセント否定できない自分がいる。
「シオリ……!」
出て来いよ、シオリ。出てきてちゃんと、話をしよう。
「はぁっ、はぁっ……!」
走って。走って。走って。
声が枯れそうになるくらい呼び続けて。
それでもあの可愛い声は、聞こえてこなかった。
「どこに行っちまったんだよ……シオリ……」
気づいたら日は沈みかけていた。
子供たちも既に家に戻っている公園で足を止めた俺は、頼りなく揺れるブランコに一人、腰かける。
どっと押し寄せてくる疲労感に溜め息を吐く。頭がぼうっとする。身体中が汗でびしょびしょだ。
「あれっ? ゆーじろ?」
ふと、名前を呼ばれて顔を上げる。
サッカーボールを抱え、公園の入り口で立ち止まっていたのは、大輝だった。
「こんなところでどしたん? ってか、汗やばっ! 水飲んだほうがいいぞ!」
小走りでこっちに来た大輝は、俺の様子を見て目を丸くしていた。
「そんなん、持ってない……」
「じゃあ俺の飲んでいいから! 顔色も悪いし、大丈夫なのかよお前?」
心配そうに覗き込んでくる大輝に、俺は茹だりそうな頭で頷いた。
水筒の水をがぶ飲みする俺の隣に大輝が座り、訊いてくる。
「何があったんだよ?」
俺はその問いにすぐには答えられなかった。
口にしてしまえば事実だと認めることになる。それが怖かった。
「……っ」
「言いたくないなら、いいけどさ。おれら幼馴染じゃん。今さら隠すことなんてなくない?」
あけっぴろげに言う大輝に、俺は肩の力を緩めた。
こいつはいつもそうだ。無遠慮で、底抜けに明るくて、嘘をつかない。そんなこいつのそばにいる時だけは、そのままの自分でいられた。
「シオリがいなくなった」
端的に告げると大輝は流石に驚いたのか、ガタンッとブランコを揺らして跳ね上がるように立った。
「やっべえじゃん! また怪異!?」
「いや……それは昨日済ませた。今日のはたぶん、別物」
「昨日済ませたって……ええっ? ちょっと待って、理解が追いつかねー」
それは俺も一緒だ。けれど、何となく分かっていることもある。
「……たぶん、俺のせいなんだ」
烏天狗戦の後、シオリの笑顔は普段と違った。
何だか辛そうな、苦しさをこらえるような、そんな感じがした。
「鎧武者の怪異も、昨日の烏天狗も、菅原道真の血を引く俺に執着してた。俺の近くにいる限り、ああいう危険はずっと付き纏うと思う。あいつ、俺を守って死にかけたんだ。だから……」
考えられる理由は、おそらくそれだ。
俺の存在があいつを傷つけてしまったから。あいつは離れていってしまったんだ。
「……お前がシオリのことそんな顔で考えてるの、初めて見た」
ぼそり、と大輝が呟いた。
顔を上げた俺の頬を両手で挟み、大輝が笑う。
「幼馴染のおれだって、そんな辛そうな顔させたことないのに。あーあ、完敗だわ」
「……辛そうな顔は、しないほうがいいんじゃないのか」
「あのねぇ……」
呆れ混じりのジト目で見てくる大輝。
なんか間違えたかな。
「ごほんっ。とにかく、理由がなんであれ聞いてみないと分かんないだろ? もうちょっと探してみようぜ、おれも手伝うからさ!」
「あ、あぁ……そう、だよな」
バシンと背中を叩いてくる大輝に、俺は頷きを返した。
「まだ探してないとこ教えて。手分けして探そうぜ」
俺はとりあえずこれまで当たった場所を挙げていった。
一通り列挙し終えたところで、大輝が「あれ?」と不思議そうな顔をする。
「俺んちは日中誰もいないからないとして、律先輩んちは? 夏休みならたぶん家にいんだろ」
「LI〇E交換してない……家も知らないし」
「ええっー!? 同じクラブなのに!?」
「そんな驚くこと?」
「そういえばそういうやつだったわ、お前……」
ちなみに友達登録してるのは母さんと大輝しかいない。あと適当な企業アカウント。
「はぁー、しょうがねえなー。わかった、おれ連絡するから」
呼び出し音が一ループもしない間に律先輩が電話に出たようだった。
「あ、もしもしおれおれー。律パイ、今そっちにシオリいない?」
オレオレ詐欺みたいだな。LI〇Eは名前が出るから詐欺にはならないか。
「あ、やっぱそう? おけー、んじゃ向かわせるわ!」
ピロンと通話を切り、大輝がにっと笑ってピースサインを作る。
それはわかっているのに胸がどうしてもざわついてしまう。
この不安を百パーセント否定できない自分がいる。
「シオリ……!」
出て来いよ、シオリ。出てきてちゃんと、話をしよう。
「はぁっ、はぁっ……!」
走って。走って。走って。
声が枯れそうになるくらい呼び続けて。
それでもあの可愛い声は、聞こえてこなかった。
「どこに行っちまったんだよ……シオリ……」
気づいたら日は沈みかけていた。
子供たちも既に家に戻っている公園で足を止めた俺は、頼りなく揺れるブランコに一人、腰かける。
どっと押し寄せてくる疲労感に溜め息を吐く。頭がぼうっとする。身体中が汗でびしょびしょだ。
「あれっ? ゆーじろ?」
ふと、名前を呼ばれて顔を上げる。
サッカーボールを抱え、公園の入り口で立ち止まっていたのは、大輝だった。
「こんなところでどしたん? ってか、汗やばっ! 水飲んだほうがいいぞ!」
小走りでこっちに来た大輝は、俺の様子を見て目を丸くしていた。
「そんなん、持ってない……」
「じゃあ俺の飲んでいいから! 顔色も悪いし、大丈夫なのかよお前?」
心配そうに覗き込んでくる大輝に、俺は茹だりそうな頭で頷いた。
水筒の水をがぶ飲みする俺の隣に大輝が座り、訊いてくる。
「何があったんだよ?」
俺はその問いにすぐには答えられなかった。
口にしてしまえば事実だと認めることになる。それが怖かった。
「……っ」
「言いたくないなら、いいけどさ。おれら幼馴染じゃん。今さら隠すことなんてなくない?」
あけっぴろげに言う大輝に、俺は肩の力を緩めた。
こいつはいつもそうだ。無遠慮で、底抜けに明るくて、嘘をつかない。そんなこいつのそばにいる時だけは、そのままの自分でいられた。
「シオリがいなくなった」
端的に告げると大輝は流石に驚いたのか、ガタンッとブランコを揺らして跳ね上がるように立った。
「やっべえじゃん! また怪異!?」
「いや……それは昨日済ませた。今日のはたぶん、別物」
「昨日済ませたって……ええっ? ちょっと待って、理解が追いつかねー」
それは俺も一緒だ。けれど、何となく分かっていることもある。
「……たぶん、俺のせいなんだ」
烏天狗戦の後、シオリの笑顔は普段と違った。
何だか辛そうな、苦しさをこらえるような、そんな感じがした。
「鎧武者の怪異も、昨日の烏天狗も、菅原道真の血を引く俺に執着してた。俺の近くにいる限り、ああいう危険はずっと付き纏うと思う。あいつ、俺を守って死にかけたんだ。だから……」
考えられる理由は、おそらくそれだ。
俺の存在があいつを傷つけてしまったから。あいつは離れていってしまったんだ。
「……お前がシオリのことそんな顔で考えてるの、初めて見た」
ぼそり、と大輝が呟いた。
顔を上げた俺の頬を両手で挟み、大輝が笑う。
「幼馴染のおれだって、そんな辛そうな顔させたことないのに。あーあ、完敗だわ」
「……辛そうな顔は、しないほうがいいんじゃないのか」
「あのねぇ……」
呆れ混じりのジト目で見てくる大輝。
なんか間違えたかな。
「ごほんっ。とにかく、理由がなんであれ聞いてみないと分かんないだろ? もうちょっと探してみようぜ、おれも手伝うからさ!」
「あ、あぁ……そう、だよな」
バシンと背中を叩いてくる大輝に、俺は頷きを返した。
「まだ探してないとこ教えて。手分けして探そうぜ」
俺はとりあえずこれまで当たった場所を挙げていった。
一通り列挙し終えたところで、大輝が「あれ?」と不思議そうな顔をする。
「俺んちは日中誰もいないからないとして、律先輩んちは? 夏休みならたぶん家にいんだろ」
「LI〇E交換してない……家も知らないし」
「ええっー!? 同じクラブなのに!?」
「そんな驚くこと?」
「そういえばそういうやつだったわ、お前……」
ちなみに友達登録してるのは母さんと大輝しかいない。あと適当な企業アカウント。
「はぁー、しょうがねえなー。わかった、おれ連絡するから」
呼び出し音が一ループもしない間に律先輩が電話に出たようだった。
「あ、もしもしおれおれー。律パイ、今そっちにシオリいない?」
オレオレ詐欺みたいだな。LI〇Eは名前が出るから詐欺にはならないか。
「あ、やっぱそう? おけー、んじゃ向かわせるわ!」
ピロンと通話を切り、大輝がにっと笑ってピースサインを作る。
