神様、その契約、命がけで守ります

「花火か。……文彦ともこの城跡で、何度も花火を見た」


そう呟いたシオリの横顔はどこか懐かしげで、寂しげで、痛ましくて。
今にも泣き出しそうに見えた。


「なあ、シオリ……」

もし、俺がいなくなったとして。
その時こいつは、今みたいな顔をしてくれるのだろうか?


「もし、俺がいなくなったら……お前、どうすんの」


無意識に、問いかけが口からこぼれ出していた。
シオリは一瞬目を見開き、すぐにうつむいて唇を噛む。


「ユウちゃん。……いや、勇次郎」


胸に手を当て、顔を上げてシオリは俺のことをまっすぐ見据えた。
上目遣いの睫毛が揺れて、瞳が微かに潤んでいる。
縋るような目。俺が手を伸ばしかけた瞬間、シオリが口を開き、そして――。


ドン、と。

花火が言葉をかき消した。

「シオリ……」
「……何でもない。花火はまだ始まったばかりじゃ! そんな辛気臭い顔しとらんで楽しもうぞ!」


嘘だ。何でもなくなんてない。だったらどうして、そんな辛そうな顔をしてるんだよ。

「ゆーじろー、シオリー、おまた~~」


大輝の呑気な声も今は右から左へ流れていくばかりだった。
シオリ。シオリ。シオリ。
お前は俺のことをどう思ってるんだ? 俺は文彦とは違うのか?
わからない。人の気持ちなんて、言ってくれないと分からないじゃないか。
頭上で花火が次々と咲いては散っていく。それでも俺は、シオリの横顔から最後まで目が離せずにいた。






「いや~、すごかったな~花火。なっ、勇次郎?」


花火大会も終了し、夏祭りはこれにて閉幕となった。
居並ぶ屋台が続々と片づけをはじめ、集まった人たちも坂道を下りて帰路を辿っていく。


「……おーい。聞いてんのかー」


小突かれてようやく、俺は大輝に話しかけられていることに気づいた。
ジト目でこちらを睨んでくる大輝に、俺は正直に答える。


「ごめん。聞いてなかった」
「なんだよもぉー。楽しかったかって聞いてんの! おれさぁ、お前がここ最近なんか悩んでそうな顔してたから、心配だったんだぜ?」


俺は言葉に詰まった。楽しかったのは間違いない。大輝とシオリの早食い対決を眺めたり、射的でインチキしたり、みんなで馬鹿なことやってる時間は嫌いではない。
けれど、いま頭の中を占領しているのは花火に遮られたシオリの言葉だ。
シオリはきっと本音を言った。もう一度言い直したくはない本音だ。
それが一体なんなのか、知るのが怖いと思うのに、知りたいとも思ってしまう。


「……楽しかった。ホントだよ」
「お前さ、ポーカーフェイスのくせに嘘下手すぎ」


一瞬で見抜かれ、俺は今度こそ返す言葉を失った。
律先輩が心配そうに俺たちの様子をちらちらと窺っている。
そしてシオリは珍しく一言も喋らず、坂道から見下ろせる街並みを眺めているようだった。


「勇次郎くん、神様と何かあったんですか……?」


俺は無言で首を横に振った。
喧嘩したわけじゃない。ただ俺が一方的にシオリのことを考えてモヤモヤしてるだけだ。
坂道を下りきったところで俺たちは足を止めた。
お互いになんとも言えない雰囲気のなか、律先輩が最初に口を開く。


「夏休みになってもオカルト研究クラブは活動する予定ですから! ではまた来週、土曜日に学校で!」
「お、おうっ! そうだなっ! ゆーじろ、シオリも必ず連れて来いよ!」


頑張って明るい声で言う二人に俺は頷きを返した。
俺たちは駅前の大通りに続く丁字路の前で解散となった。
大輝と律先輩がいなくなり、周囲の人通りもまばらになってくると、俺とシオリの間には気まずい沈黙が降りた。


「……あのさ」


ちょっとの間を置いて、俺は言った。


「……なんじゃ」
「いや……」
「……はっきり言えばいいじゃろう」
「あのさ、俺……とっ、トイレに行きたいな」


何を言ってるんだ俺は。だけど祭りの最中一度もトイレに行ってなかったので、催してきていることは確かだった。


「勝手に行ってくるが良い。そのへんのコンビニならトイレくらい借りれるじゃろう」
「でも最近のコンビニってトイレなくない?」
「あるかもしれんじゃろう! なければ最悪、そのへんで立ちションすればよい!」