神様、その契約、命がけで守ります

あのー、シオリさん? 喋ってる間に大輝がめちゃめちゃ食べ進めてるんですけど大丈夫ですかね。


「いよっしゃあ! 勝利ぃ!」
「は、はぁーっ!? 認めんぞ、ワシの勝ちじゃ!」


食べ終えた串を高々と掲げてみせる大輝にぶちギレるシオリ。
見苦しくも敗北を認めないシオリは、俺と律先輩に詰め寄った。


「喋ってさえいなければ事実上の勝利じゃったのじゃ! ジャッジせい審判!」
「お前の負けだ」「文句なしの負けですね」
「クソ審判どもがぁあああああ!」


叫び、撃沈するシオリ。
俺はそんなこいつの首根っこを掴んで引っ張っていくのだった。




城址公園の石畳を、俺たちはゆっくり進んでいった。
出店の灯りが石垣に揺れて、歩くたびに影の形が変わる。広場の人だかりは暗くなるほどに増えているようだった。家族連れに浴衣姿のカップル、子供のはしゃぐ声。
そういえば、小さい頃に母さんとこの祭りに来たことがあったっけ。
その時は確か、りんご飴を買って……地面に落っことしちゃって、大泣きした気がする。
たぶん、物心ついてから俺が泣いたのはそれが最後だったと思う。
大輝と律先輩の後ろを歩きながら、俺は物思いにふけった。


「しっかし、たまにはこういうのもいいもんだな」
「僕は部活柄、怪異がいないか気にしちゃいますけどね」
「えーっ、こういう時くらい忘れたらいいのに。楽しまなきゃ損でしょー」
「あはは……じゃあ、お言葉に甘えようかな……」


律先輩が向かっていったのは射的の屋台だった。
ちらっとこっちを振り返った先輩は、わくわくした面持ちで手招きしてくる。


「勇次郎くん、勝負しましょう!」
「先輩の頼みなら……」


初登場が偽花子さんだった律先輩がいつの間にか常識人枠になっている事実が怖い。
俺は先輩の隣に立ち、エアガンを構えた。銃はFPSゲームくらいでしかやったことないけど、いけるか……?


「じゃあ僕からいきますね」


律先輩が撃つが、弾は惜しくも外れてしまった。
まあこんなもんだよな。続いて俺も、とりあえず当てやすそうな三等を狙って撃ってみる。
パンッと軽快な音と共にBB弾が飛んでいく。あー外したか、と思った瞬間――弾がいきなり軌道を曲げて、俺は目を剥いた。


「当たり! 兄ちゃんすごいねぇー」
「まだまだ負けませんよ!」


だが次も、その次も、律先輩は外してるのに俺の弾は百発百中だった。
周囲のギャラリーがパチパチと拍手を送ってくれるなか、俺は後ろを振り返ってシオリをジト目で見た。
いくら何でもやりすぎだぞ、お前。


「一等ニンテ〇ドースイ〇チ、二等ワイヤレスイヤホン、三等アクリルキーホルダー、四等駄菓子詰め合わせ! 全部持ってけドロボー!」


店主のおじさんに豪華景品の数々を押し付けられ、俺はげんなりした。
駄菓子とかはともかく、イカサマで何万もするゲーム機とかイヤホンなんてもらえねえよ。


「あの……二等以上は辞退します」
「ええっ!? いいのかい!?」
「良くないわ! ワシが獲った一等じゃぞ!」
「スイ〇チもイヤホンも俺はもう持ってますから」


叫ぶシオリを無視して、俺は店主に景品のうち高価なものを返した。

「馬鹿者っ! 売ればそれなりの額になったものを……!」
「銭ゲバ神め……。お前の目当てはこれだろ」


本気で悔しがっているシオリに駄菓子の詰め合わせを投げ渡す。
まだ不満そうな顔のシオリだったけど、駄菓子とお金とを天秤にかけ、どうにか納得してくれたようだった。こいつが食い意地の張った神でよかった。


「あ、おれちょっとトイレ」
「僕も行こうかな……」


大輝と律先輩が人混みの中に消えていき、俺はシオリと二人きりになった。
といっても、傍目から見れば一人だけど。
俺はシオリに目配せして、公園の隅のほうまで移動した。
石垣に背中を預け、溜め息を吐く。


「なんじゃ、溜め息などついて。疲れたのか?」
「……まあな」


祭りも人混みも久々すぎて酔いそうだった。
若干グロッキーになる俺をシオリは心配そうに見つめ、バッグからゼリー飲料を差し出してくる。


「飲め。熱中症かもしれんからな」
「……今日は大丈夫だって」


まあ暑いのは事実なのでもらっておく。
俺がゼリー飲料をチューチューしている間、シオリは無言だった。
夜の風が火照った体を少しずつ、冷ましていく。

「……あ」


やがて、日が完全に沈んで周囲が暗くなった頃。
ドン、と大砲を撃つような音がして顔を上げると、夜空に大輪の花火が咲いていた。