神様、その契約、命がけで守ります

老害みたいな文句をまくし立てるシオリ。
腕組みして「ふんっ」と頬を膨らませているその様子を見て、俺ははぁと溜め息をついた。
絶対振り回されるし面倒くさくなりそうなのは見え透いてるけど。
それでも、何故だかこいつを放ってはおけなかった。


「……わかった。行くよ。行けばいいんだろ」
「その意気じゃ! で、その祭りとはいつなのじゃ! 今から準備するぞ!」


鼻息荒く張り切るシオリ。
夏祭りが始まる一週間後まで、こんな調子がずっと続くのであった。





そして迎えた、夏祭り当日。
夕暮れ時だというのに、外気はまだ昼間の熱を色濃く残していた。
じっとりとした風が肌にまとわりつき、駅前から続く通りには、祭りへ向かう人の波が絶え間なく流れている。

「手を離すなよ」
「え? なんじゃ聞こえんぞ!」


人混みの中ではぐれまいとシオリの手を取り、俺は横目でシオリを見た。
その浴衣姿に、胸の奥がどくんと脈打つ。普段よりも無防備な胸元に覗く鎖骨や、少し汗ばんだ細い首筋から何故だか目が離せない。
余所見していて躓きかける俺をシオリがぐっと引っ張り上げ、呆れた顔で言う。


「浮かれすぎじゃ、馬鹿者」
「お前にだけは言われたくない……」


色とりどりの提灯が吊された大通りを抜けて、城址公園へと続く坂道を上る。
梅雨にはあじさいの咲いていた坂には、わたあめやかき氷などのキッチンカーが並び、子供たちで賑わっていた。


「わたあめか! 良いのう、ワシも食いたいぞ!」
「しょうがないな。……わたあめ二つ」


どう見ても一人で来ている俺に屋台のおじさんは訝しげな顔をした。
「二つ」と押し切って買ってきた俺を見て、周囲の子供たちが無邪気に笑う。


「あのお兄ちゃん、一人なのに二個も買ってるよ!」
「変なのー」


勝手に言え。俺は本物の神様に貢ぐために買ってるだけなんだからな。……こう言うと俺がヤバいやつみたいだな。


「美味いのう、美味いのう! むっ、全部食べぬのか? ならワシが貰うぞ!」


一瞬で自分のぶんを平らげて俺のを物欲しそうに見ているシオリ。
いや、普通に食べ終わってないだけだから。お前が早すぎるんだよ。

「はむはむはむっ……!」
「おおっ、お主もやればできるではないか!」


食われてたまるかと一気に口に詰め込んでやる。
悔しがるかと思いきや意外にも賞賛してくるシオリなのだった。

「おーい! 勇次郎!」
「待ってましたよー」


坂道を上りきった先で待っていた大輝と律先輩が、こちらに気づいて手を振ってくる。


「って、ほっぺたリスみたいじゃんどったのww」
「もごもごもご」


駆け寄った俺のわたあめを頬張った顔を見て腹を抱える大輝。おい笑いすぎだろ。

「お主らもやるか? 早食い大会」
「いーじゃんやろやろ! まずはどーする? 焼きそばでも行っちゃう?」
「かき氷はどうじゃ? 地味に難易度高いと思うがの」
「それあり! ゆーじろ、律パイ、やる?」
「「やりません!」」


綺麗にハモる俺と律先輩。ってか律パイって誰だよ。新しいあだ名?


「お主ら、ノリが悪いぞ!」
「知ってるか、早食いは太りやすいんだぞ」
「ワシは神なので平気でーす。お主ら人間とは違ってw」
「ひっぱたくぞ」


お前の大食いに付き合って食べてるせいで微妙に体重増えたの、こっちは気にしてんだぞ。
出かかっている俺の拳を「まあまあ」と押さえつつ、律先輩が言ってくる。


「でも、誰かがシオリ様のぶんを買ってあげないといけませんから。食べなくても買ってあげたらいいんじゃないですか? 保護者ですし」


保護者じゃないし。一応対等に契約を結んだ間柄だし。
俺は内心でツッコみつつも、渋々了承した。止めたところでどうせ言うこと聞かないしな。
結局、早食い大会は三本勝負で行われた。
一戦目の焼きそばは大輝、二戦目のかき氷はシオリが勝利しての一対一。
勝負を決めるラスト一戦は、フランクフルトだった。


「いくぞ! せーの!」


大輝とシオリがそろってかじりつく。俺と律先輩は腕を組んで見物に回った。
しかし、フランクフルトか。シオリがしゃぶりついているのを見ると、なんか……。


「勇次郎くんはむっつりさんですね?」
「まだ何も言ってませんよ!」


図星を突かれ俺は耳まで真っ赤にした。そんなに顔に出てたか俺。

「むぐむぐむぐ……っ、あふっ!?」
「人間とは軟弱なものじゃ。この程度の熱さなど、神であるワシには造作もない!」
「っ、えふっ、むぐっ……!」
「やけどしたというなら治してやってもよいぞ。正々堂々、平等に勝負しようぞ」
「むぐむぐっ……!」