神様、その契約、命がけで守ります

絵を描いていると隣から足を伸ばしてきて、脇腹を突っついてきたり。
俺がいちいちドキッとしていることも知らずに、無邪気にじゃれついてくるのだ。




そんな日々に悶々としていた、ある日の放課後。
帰宅した俺は汗だくの胸元をぱたぱたと煽ぎながら、「ただいまー」と呼びかける。
テレビは付けっぱなしだが返事がない。どこか出かけてんのかな。
俺は深く考えずにぽいぽいっと制服を脱ぎ、さっそくシャワーを浴び始めた。
火照った身体にぬるめのお湯が気持ちいい。
シャンプーを手に取り、髪につけ、わしゃわしゃと洗う。そんなルーティンを機械的にこなしていく。
が、その時だった。


「ゆーうちゃん!」


ガラッと扉が思いっきり開き、シオリが入ってきた。

「しっ、シオリ!?」


俺は思わずシャワーヘッドを床に取り落としてしまう。
出しっぱなしのお湯が排水溝へと流れ続けるなか、俺は振り返ったまま、その姿を目に焼き付けてしまった。
華奢な肩。引き締まった細い腰。あれだけ食べているのに贅肉の一つもない、薄らと筋肉の浮かんだお腹。
さらにその下まで視線が向いてしまったところで、俺はハッと我に返って顔を背けた。


「なんじゃ、よそよそしいのう。今さら恥ずかしがることなかろう?」


不思議そうにシオリが言う。
確かにその通りだ。ワンルームだから不可抗力的に同じ部屋で着替えもしてるし、風呂上がりの裸もお互い見ている。シオリがふざけて乱入してきたことも一度や二度じゃなかった。
これまでだったらなんともなかった。それなのに今は、身体が痛いほど反応してしまっている。


「ワシも汗でベトベトなのじゃ。さっさと退かんか」
「まっ、まだ途中だから。狭いし外で待ってれば」


俺は若干前屈みになって、後ろ手にシャワーヘッドを拾い上げた。
少し視線を上げると、鏡越しにニヤニヤしているシオリの顔が見える。


「失礼、お楽しみ中じゃったか。健全な男子ならば当然のことじゃ。邪魔して悪かったの」


なっ、なんか変な勘違いされてないか……?
顔までも熱くなる俺にひらひらと手を振って、シオリは浴室から出て行った。
どんなに綺麗でも、シオリは男だ。なのに、どうして。
頭の中がぐちゃぐちゃで、自分が何に動揺しているのかすら分からなかった。




翌日、俺はめちゃめちゃ寝不足だった。
理由は言うまでもない。
シオリのせいだ。
浴室で見たシオリの裸身が脳裏に焼き付いたまま離れず、俺は夜通し悶々としていた。
隣でシオリがあどけない寝顔をさらして眠っているのも、それに拍車をかけた。
結局トイレで発散したのが朝の五時。
案の定遅刻した俺は、昼休みに屋上で集まったオカルト研究クラブの二人にさっそくいじられることとなった。


「すごいクマですね、勇次郎くん。何かに取り憑かれたんじゃ……!?」
「まさか」
「ですよねぇ」


ほっとしつつも心配そうに見つめてくる律先輩。
純粋に優しいその眼差しが胸にぐさりと突き刺さり、俺はばつが悪くて視線を逸らした。


「勇次郎の遅刻はしょっちゅうあるけどさ。寝不足ってのは珍しいよな」
「ま、まぁ」
「あ、もしかして遅くまでシコってたとか?」


ぶっ!! と俺は飲んでいたお茶を思いっきり噴き出してしまった。

「図星か」
「図星じゃない! シオリもそんな顔で見るな!」


俺は顔を真っ赤にしてニヤついている大輝とシオリを睨みつけた。
律先輩も生温かい目で見守ってきている。俺もう帰ろうかな。


「オカズ探しって意外と時間かかるもんなー。わかるぜー」
「……」


俺は無言でコンビニのおにぎりを口に詰め込んだ。
もごもごやっている俺にお茶を勧めてきつつ、律先輩が言う。


「原因はともかくですけど、寝不足だと霊的な感受性が低まるって言われてるんです。オカルト研究クラブとしては由々しき問題ですよ」
「それは……すみません」
「最近は怪異も活発化してきています。ほとんどが害の少ない、弱めの怪異のようですが……」


体育祭の時に見た男の子の霊を皮切りに、俺もその後たびたび同じような怪異を目にしていた。
鎧武者との戦い以降、確かにその数は増えている気がする。

「言われてみればそうかも。……でも、何でなんだろうな? 夏だから?」
「お盆が近づいてきているっていうのも一因かもしれませんね。ですが……」


律先輩がシオリをちらりと見やる。
これまで黙々とコロッケパンを頬張っていたシオリは、食べる手を止め、口元に食べかすを付けたまま話し始める。


「ワシのせいでもあるかもしれんな。ワシの霊力が復活した当初よりも増したことで、それに触発されて怪異も活性化しているのかもしれん」