神様、その契約、命がけで守ります

俺はそんなあいつの顔を見られないまま、熱を帯びる頬を片手で覆い隠した。






頬の紅潮はそのままに、立ち上がった俺は大輝と律先輩を探して周囲を見回した。
戦いの後は見るも無残な光景だった。
ガラスケースは跡形もなく砕け散り、中の展示物も散乱している。柱の一本はへし折れ、床板の所々に穴が空いていた。


「大輝! 律先輩!」


瓦礫を踏み越えて、俺は壁際に倒れ伏している二人へ駆け寄った。
息はしている。血も出ていない。見た感じ大きな怪我はしていないようだ。


「……ゆ、じろ……」
「大輝っ、しっかり……!」


瞼を微かに開ける大輝に呼びかける。
と、そこで――静かに歩み寄ってきたシオリが二人へと手のひらを向け、祝詞を唱えた。


「『癒やしの光、ここに満ちよ』」


温かい光が二人を包み込む。
ほどなくして身じろぎした大輝と律先輩は身体を起こし、ぱちくりと俺たちを見つめた。


「勇次郎、シオリ……!」
「あっ、あの鎧武者は!? お二人とも、無事なんですか!?」


がばっと身を乗り出す律先輩にタジタジとしながらも、シオリはふっと勝ち気に笑ってみせた。

「当然じゃ。このワシが片付けてやったわ」


シオリらしい物言いに俺も口元を少し緩めた。


「流石です、シオリ様!」
「ふん、もっと褒めろ! そしてお供え物も弾め!」
「すごいです素敵です素晴らしいです! ああ偉大なるシオリ様……!」


あんまり褒めないでください調子に乗るから。
と言いたいところだったが、今回もシオリがいなかったら死んでいたのは事実だ。
俺は肩を竦めて大輝の顔を見た。
その顔が妙に青ざめていることに気づき、俺は小首を傾げる。


「……なぁ、勇次郎」
「?」
「ここの修繕費って……もしかして俺たち持ち?」


……あ。
助かった安堵感でまったく意識してなかったけど、そういえばそうだ。
重要文化財にも指定されている天守閣を修復するには、億単位のお金がかかるだろう。
人生終わった。
俺は無言で膝から崩れ落ちた。


「何をがっくりしとるのじゃ。ほれ」


そんな俺たちを大層くだらなそうにジト目で見下ろして、シオリはぼりぼりと頭を掻きながら祝詞を詠む。

「『破れし形よ、再び結ばれよ』」


この空間中が白い光に満たされたかと思えば、壊れていたはずのもの全部が何事もなかったかのように元通りになっていた。
何度も瞬きしながら辺りを見回す俺たちに対し、シオリはドヤ顔だった。


「ふふん、この貸しは高いぞ?」


神様仏様シオリ様。
俺はあなたに一生ついていきます。
こうして俺たちの調査任務から端を発した鎧武者の怪異との戦いは、幕を閉じるのだった。





最近、俺に対するシオリの距離感が近くなっている気がする。
たとえば、この間の日曜日のことだ。
俺はシオリに付き合って某大乱闘格闘ゲームに熱中していた。


「あっ、このッ、やめっ……!」
「……」
「あっ、ああーッ! ダメダメっ、死ぬっ、死んじゃう!」


俺のコンボになすすべもなく敗北するシオリ。
もう何十戦もやっているがずっとこの調子だ。


「くそっ、なぜ勝てぬ!? お主イカサマしてるんじゃなかろうな!?」
「してないよ」
「嘘をつけ! ならばワシが一回くらい勝てても良いはずじゃ!」
「お前が猪突猛進すぎるんだろ」


馬鹿正直に突っ込んでくるから毎回カウンターを決めてるだけだ。
俺が溜め息を吐くとシオリは「ぐぬぬ」と漫画みたいな唸り声を出した。


「そ・も・そ・も! ワシは神じゃぞ! 神であるワシを打ち負かすなど、お主には信仰心がないのか!」
「ないね」
「っあ~~~~! もういいっ、お主なんぞ知らんわ!」


コントローラーを投げ出してぷいっとそっぽを向くシオリ。
流石に大人げなかったかなと俺が反省していると、シオリがこてん、と頭を俺の肩に預けてきた。


「シオリ……?」


絹みたいな白い髪に首元をくすぐられる。ふわりと漂ってくるシャンプーの香りは自分のと一緒のはずなのに、なぜか胸がざわついた。


「……慰めろ」


ぶっきらぼうにそう言われる。
思ってもみなかったその要求に、俺は返す言葉を迷った。


「……後でハーゲン○ッツ買ってくる……」
「それくらいで誤魔化されると思うな」


いつもだったら飛び跳ねて喜ぶところなのに、この日はどうしてか口を尖らせていた。
虫の居所が悪いのか。その時の俺はただ、そう片付けた。
けれど、次の日も、そのまた次の日もシオリの様子はいつもと違った。


「ユウちゃんっ!」


学校から帰ってきた俺を出迎えて、抱きついてきたり。