神様、その契約、命がけで守ります

激しい火花と閃光が迸り、視界を白く染め上げた。


「聞くのじゃ西条氏正! ワシは断じて、お主らを見捨てたわけではない!」


顔を歪めて圧倒的な攻撃を耐え凌ぎながら、シオリは鎧武者に呼びかけていく。

「神同士の戦いに敗れ、ワシは封印を余儀なくされたのじゃ! 敗戦によって菅原も力を失い、お主らの望みも絶たれることとなってしまった! じゃが、これだけは信じてほしい――叶うことならワシは、お主らも助けてやりたかった……!」


混ざり合っていた光が途切れ、鎧武者の姿が露になる。
兜の奥で燃える双眸が、一瞬揺らいだように見えた。


『そのような言い訳……!!』


ぎり、と鎧武者が大太刀の柄を握り締める。
怒りに震えるその身から噴き出すのは、肌を刺すような凄まじい殺気だった。


「来る――!」


身構えたその時には既に、鎧武者の姿は掻き消えていた。
打ち据えられた刃が光の防壁を粉砕し、衝撃にシオリも俺も吹き飛ばされる。
背中から壁へ叩き付けられ、肺の中の空気が一気に押し出される。

「がっ……!?」


視界がぐらりと揺れた。
砕け散った光の粒子と木片が、雨のように降り注ぐ。

「シオ、リ……」


痛む身体を無理やり起こす。
すぐそばではシオリが崩れた柱に身体を打ち付け、苦しげに呼吸を乱していた。


「っ……く、ぅ……」


今の一撃で防壁は完全に破壊された。
まずい、このままでは――。
ずん、と。
俺の焦りを無慈悲に踏みにじるように、重い足音が響く。
顔を上げた先、土煙の向こうから近づいてくるのは、鎧武者の怪異だ。


『……終わりだ』


冷酷に言い渡す声。
大太刀の切っ先が、まっすぐこちらへと向けられる。
全身の肌が粟立った。
死ぬ。殺される。もう、助からない。
それでも――諦めたくはない。


「シオリっっ!!」


俺は最後の力を振り絞って、シオリへと手を伸ばした。
力なく下がった小さな手に指を絡め、そっと握る。
シオリ。どうか、もう一度、俺を助けてはくれないか。

「ユウ、ちゃ……」


か細い声をこぼし、シオリが俺の手を弱々しくも握り返した。
その時だった。
シオリの金色の瞳が輝きを帯び始め、その身体から白いオーラのようなものが湧き上がっていく。


『そのようなまやかし……!』

鎧武者が苛立ちを露にしたその一瞬。
顔を上げたシオリの伸ばす指先から、白い光の糸のようなものが何本も伸び出でて、空中を駆け巡るように鎧武者の周囲に広がっていく。
その糸は絡み合い、編み上げられるようにして幾重もの格子を形作った。

『小癪な……!』

降り注ぐ注ぐ光の糸が鳥籠のような結界となり、鎧武者を封じ込める。
振り払われた一刀を受けても一切揺らがない。
それどころか糸はさらに太く輝きを増していき、鎧武者の退路を完全に封殺していた。


「……西条氏正よ。お主のことは、四〇〇年の時が流れた今になっても、忘れたことはなかった。国のすべてを背負って最後まで戦い抜いたお主は、尊ぶべき魂を持つ戦士であった」


身動きの取れなくなった鎧武者をまっすぐ見上げて、シオリは凪のように穏やかな口調で言った。


『神よ……我は……』


深い後悔を滲ませた声で、鎧武者――いや、西条氏正は呟いていた。
そんな彼の前にシオリは一歩踏み出して、静かに頭を下げる。


「すまなかった。ワシが無力だったせいで、お主らを守ることができなかった」


俺は息を呑んだ。あのシオリが自らの過ちを認め、謝罪している。

『……神よ』


瞬間、鎧武者が刀を握った片腕を動かしたのを見て、俺は思わず飛び出していた。
だが、その切っ先が向けられたのはシオリではなく。
鎧武者自身の、胸の中であった。


『……本当は……わかっていた……国を守り抜けなかったのは、我が立ち回りを誤ったからだと……その事実から目を背け、潔く世を去ることすらできなかった……』
「もう良い、これ以上言うな!」


光の鳥籠が崩れて霧散する。
駆け寄ったシオリを手で制し、鎧武者は絞り出すような声で言った。


『武士としての、生き恥……』


その言葉を最後に。
鎧と兜がバラバラになって、床に崩れ落ちていった。
あとに残された俺たちは何も言えず、ただ鎧兜の残骸の前に膝をつくことしかできなかった。

「…………」


どのくらいの時間が経った頃だろうか。
ふとシオリが立ち上がり、無言で俺の頭をぽんぽんと撫でてきた。


「えっ……?」
「……よくぞ、戻ってきた」


ちょっと素っ気ない口調でシオリが言う。