完成した分の妖怪のイラスト集を渡すと、律先輩はぱあっと顔を輝かせた。
勧誘の時に見せてもらったポスターの絵は、あまりにも下手くそすぎたからな。直さずにはいられなかった。
「流石のクオリティだな。しかし、もうちょっとかわいい系でもよかったんじゃねーの?」
「デフォルメは苦手なんだよ」
「相変わらず尖ってんなー」
余計なお世話だ。俺は頬杖をつき、ぷいっと窓のほうを向いた。
「で、ではっ、さっそくですが第一回の調査内容について発表します!」
張り切って宣言する律先輩。
テーブルの上にドンと置いた本を開き、先輩は続けた。
「題して、『夜見城址公園』調査作戦、です!」
俺と大輝は身を乗り出し、シオリはごろんと寝そべる向きを変えて、その本を覗き込んだ。
夜見城址公園。俺たちの高校からほど近い、歩いて坂を上った先にある公園だ。かつては夜見城という城があり、そこで合戦が行われていた跡もあるという。
「夜見城は別名『飢餓城』とも呼ばれています。かつての合戦で兵糧攻めに遭い、城主を含め多くの人が亡くなった歴史がある。そんな場所ですから、きっと怪異もいると思うんです」
確かにいかにもって感じだ。俺が頷くと、隣の大輝もうんうんと同意する。
「夜見城かー! 何度も行ってるけど、展示されてる鎧兜が鬼みてーでマジで怖いんだよなー! お城は再建されたレプリカだけど、天守閣に上ってみる景色がこれまた最高なんだ!」
興奮した面持ちで語り出す大輝。
実は大輝は筋金入りの城マニアなのだ。俺も小学生の時は夜見城までよく連れて行かれていた。その時は怪異の気配なんて当然、何も感じなかったわけだが、いま行けば新しい発見もあるかもしれない。
「いい場所チョイスしたね、律先輩!」
「そ、そうですか? 喜んでもらえたのならよかったです」
「んじゃ、けってーい! いいよな勇次郎ー?」
テンション高く訊いてくる大輝に、俺はこっくりと頷いた。
怪異って何なんだろう。体育祭の日、男の子の霊と話したあの時から、ずっとそんなことを考えていた。
人の負の感情の残滓、とシオリは言っていた。それがなぜ現世に残るのか。
知りたい。確かめたい。上手く言葉にできないけれど、そんな衝動が胸の中で燻り続けていた。
「わ、ワシも行くのか?」
「とーぜんでしょ。何言ってんの」
渋るシオリに大輝がぐさりと一言刺す。
こいつたまに無遠慮な言い方するんだよな。そこが良いんだけど。
「シオリ様にも来ていただいたほうが、何かあったときも安心ですから」
「無理無理無理のカタツムリっ! 飢餓城などと呼ばれとる城なんぞ、落ち武者の霊がうようよ湧いとるに決まっとる! ワシは断じて行かんぞ!」
「いや、シオリいないと困るし! こないだの花子さんみたいなのがいたらどーすんだよ」
「お主らが勝手にやろうとしとることじゃろう! ワシは関係ない!」
それはそうかもしれないけど。
でも俺は、どうしても行きたかったから。
「俺も……シオリにも来てほしいって、思うんだけど」
駄々をこねるシオリにまっすぐ向き合って、俺は言った。
シオリは視線をあっちこっちに泳がせ、頭を抱えてうーんとしばらく唸った後、考えに考えて答える。
「……分かった! 行けばいいんじゃろう、行けば!」
「おう! 助かるー!」
「ありがとうございますっ」
「じゃが、労働には対価があるべきじゃ。お供えものは弾むんじゃぞ?」
大輝と律先輩の生暖かい視線が俺に注がれる。
あれ、何か保護者のお前が払えよみたいな流れになってません?
「じゃ、お先!」「僕もこのへんで失礼しますね」
「あ、ちょっと!」
クソが。
あとで絶対割り勘分のお菓子代を二割増しくらいで請求してやる。
*
週末。相変わらずの曇り空だったが雨は降っていないということで、俺たち「オカルト研究クラブ」は夜見城址公園への調査に出向くこととなった。
シオリや大輝、律先輩が駄弁りながら坂道を先に上っていく。
俺はその後ろを一人ついていきながら、道の脇に咲き誇るあじさいを写真に収めていた。
せっかくフィールドワークに出たんだ。デッサンのモデルになりそうなものは一通り撮っておきたい。
昨夜の雨粒に濡れる青や紫の花びら。葉っぱの上を跳ねるアマガエル。足元をかさっと通り過ぎるトカゲ。
季節を感じるあれこれを撮りながら、なんとなく前を歩く三人にカメラを向けてみる。
「あれ……」
俺の目には三人が見えているのに、スマホの画面には大輝と律先輩しか映っていない。
神様も怪異も、機械じゃ捉えてくれないらしい。
そうなると世の中の心霊写真ってのは大体嘘になるな。
勧誘の時に見せてもらったポスターの絵は、あまりにも下手くそすぎたからな。直さずにはいられなかった。
「流石のクオリティだな。しかし、もうちょっとかわいい系でもよかったんじゃねーの?」
「デフォルメは苦手なんだよ」
「相変わらず尖ってんなー」
余計なお世話だ。俺は頬杖をつき、ぷいっと窓のほうを向いた。
「で、ではっ、さっそくですが第一回の調査内容について発表します!」
張り切って宣言する律先輩。
テーブルの上にドンと置いた本を開き、先輩は続けた。
「題して、『夜見城址公園』調査作戦、です!」
俺と大輝は身を乗り出し、シオリはごろんと寝そべる向きを変えて、その本を覗き込んだ。
夜見城址公園。俺たちの高校からほど近い、歩いて坂を上った先にある公園だ。かつては夜見城という城があり、そこで合戦が行われていた跡もあるという。
「夜見城は別名『飢餓城』とも呼ばれています。かつての合戦で兵糧攻めに遭い、城主を含め多くの人が亡くなった歴史がある。そんな場所ですから、きっと怪異もいると思うんです」
確かにいかにもって感じだ。俺が頷くと、隣の大輝もうんうんと同意する。
「夜見城かー! 何度も行ってるけど、展示されてる鎧兜が鬼みてーでマジで怖いんだよなー! お城は再建されたレプリカだけど、天守閣に上ってみる景色がこれまた最高なんだ!」
興奮した面持ちで語り出す大輝。
実は大輝は筋金入りの城マニアなのだ。俺も小学生の時は夜見城までよく連れて行かれていた。その時は怪異の気配なんて当然、何も感じなかったわけだが、いま行けば新しい発見もあるかもしれない。
「いい場所チョイスしたね、律先輩!」
「そ、そうですか? 喜んでもらえたのならよかったです」
「んじゃ、けってーい! いいよな勇次郎ー?」
テンション高く訊いてくる大輝に、俺はこっくりと頷いた。
怪異って何なんだろう。体育祭の日、男の子の霊と話したあの時から、ずっとそんなことを考えていた。
人の負の感情の残滓、とシオリは言っていた。それがなぜ現世に残るのか。
知りたい。確かめたい。上手く言葉にできないけれど、そんな衝動が胸の中で燻り続けていた。
「わ、ワシも行くのか?」
「とーぜんでしょ。何言ってんの」
渋るシオリに大輝がぐさりと一言刺す。
こいつたまに無遠慮な言い方するんだよな。そこが良いんだけど。
「シオリ様にも来ていただいたほうが、何かあったときも安心ですから」
「無理無理無理のカタツムリっ! 飢餓城などと呼ばれとる城なんぞ、落ち武者の霊がうようよ湧いとるに決まっとる! ワシは断じて行かんぞ!」
「いや、シオリいないと困るし! こないだの花子さんみたいなのがいたらどーすんだよ」
「お主らが勝手にやろうとしとることじゃろう! ワシは関係ない!」
それはそうかもしれないけど。
でも俺は、どうしても行きたかったから。
「俺も……シオリにも来てほしいって、思うんだけど」
駄々をこねるシオリにまっすぐ向き合って、俺は言った。
シオリは視線をあっちこっちに泳がせ、頭を抱えてうーんとしばらく唸った後、考えに考えて答える。
「……分かった! 行けばいいんじゃろう、行けば!」
「おう! 助かるー!」
「ありがとうございますっ」
「じゃが、労働には対価があるべきじゃ。お供えものは弾むんじゃぞ?」
大輝と律先輩の生暖かい視線が俺に注がれる。
あれ、何か保護者のお前が払えよみたいな流れになってません?
「じゃ、お先!」「僕もこのへんで失礼しますね」
「あ、ちょっと!」
クソが。
あとで絶対割り勘分のお菓子代を二割増しくらいで請求してやる。
*
週末。相変わらずの曇り空だったが雨は降っていないということで、俺たち「オカルト研究クラブ」は夜見城址公園への調査に出向くこととなった。
シオリや大輝、律先輩が駄弁りながら坂道を先に上っていく。
俺はその後ろを一人ついていきながら、道の脇に咲き誇るあじさいを写真に収めていた。
せっかくフィールドワークに出たんだ。デッサンのモデルになりそうなものは一通り撮っておきたい。
昨夜の雨粒に濡れる青や紫の花びら。葉っぱの上を跳ねるアマガエル。足元をかさっと通り過ぎるトカゲ。
季節を感じるあれこれを撮りながら、なんとなく前を歩く三人にカメラを向けてみる。
「あれ……」
俺の目には三人が見えているのに、スマホの画面には大輝と律先輩しか映っていない。
神様も怪異も、機械じゃ捉えてくれないらしい。
そうなると世の中の心霊写真ってのは大体嘘になるな。
