神様、その契約、命がけで守ります

律先輩は肩を揺らし、くすくす笑った。


「ふふ、変なの。勇次郎さんって、優しいんですね」
「優しいかどうかは、分かりませんが」


今度は俺のほうがばつが悪くなって、視線を逸らしてしまう。

「おっ、律先輩も分かります? こいつのいいところ!」


そう言って遠慮なく肩を組んでくる大輝に、俺はむず痒くなって仕方なかった。
シオリも降りてきて「ワシも混ぜろ!」とおしくらまんじゅうみたいになる。
こういうのは何だか初めてだ。けれど、不思議と悪い気はしなかった。




それぞれ持ち寄った弁当を広げながら、俺たちは花子さんとの戦いの感想を言い合った。
といっても、俺はほぼ聞き役だったけど。
黙々と焼きそばパンを頬張りながらぼんやりとシオリたちを眺める。


「……訊きたかったんですけど、シオリさんって本当に神様なんですか?」
「無論じゃ。あの力が人間に扱えるものじゃと思うか?」
「わぁっ……! すごいです、すごいですっ! 崇めてもいいですか!?」
「構わぬ構わぬ! 見上げた信仰心じゃ! お主、良いやつじゃな!」


初めてまともに神扱いされ、シオリは大層上機嫌になっていた。
あの夜のダメージはもうすっかり回復し、ニコニコ笑っている。


「正の感情こそ神の力の源じゃからの! ユウちゃん、大輝、お主らもワシを崇め奉るのじゃ!」
「えー……」
「シオリはあんま神様って感じしないんよなー」
「不敬者! 罰が当たっても知らんぞ!」


俺たちの素直な感想に腕組みして拗ねるシオリ。
まあ命を助けてもらったし、今度近所の焼き肉屋にでも連れてってやるか。食べ放題ならシオリがいくら食おうが関係ないしな。




その次の日。
帰宅しようとした俺たちの前に、またも律先輩が姿を現した。

「あのっ……実は二人に、お願いしたいことがあるんです」
「お願い?」


これからサッカー部の練習がある大輝が、ちらっと教室の時計を振り返る。
その様子を見て律先輩は慌てて言った。


「すっ、すぐ終わりますから」


鞄をガサガサして一枚の紙を引っ張り出し、俺たちに広げて見せる。
それは「オカルト研究クラブ」というタイトルと、活動内容が簡単に書かれたチラシだった。余白には色鉛筆で描かれたお世辞にも上手いとは言えないイラストも添えられている。 このタコさんウインナーみたいなのは、宇宙人……なのか?


「あのっ、実は僕、オカルト研究クラブに入っていて……よければ二人にも入ってほしいな、なんて……」


俺は別にって感じだけど、大輝はどうなんだろう。
部活の掛け持ちってできるのか?


「調べたんですけど、兼部はルール的にはOKらしいです。いま部員が僕一人しかいなくて……ちょっと名前を貸すだけでもいいので、入部してもらえませんか?」
「そんなんでよければ、おれは全然大丈夫っすよ」


にこっと笑って大輝が快諾する。俺も特に断る理由もないので、頷いておいた。


「わぁっ、ありがとう二人とも! じゃあ簡単に我がオカルト研究クラブの活動を説明しますね!」


目を輝かせ、俺たちと固い握手を交わす律先輩。
これまでオドオドしていたのが嘘みたいなハイテンションで、先輩は早口に捲し立てる。


「オカルト研究クラブの目的はズバリ、この世で未確認の事象を観測しその謎を解明することです! 研究対象は幽霊、心霊スポット、UFO、予言、呪術――とにかく既存の科学では説明のつかないもの全部です! なかでも僕が特に力を入れているのが、幽霊の研究で――」


熱弁する律先輩。いったん息を吸い、彼は続けた。


「幽霊ってひとことで言っても、ほんとうに色々いるんですよ! 同じ場所に縛られたままずっと同じ行動を繰り返す子とか、生きてる人の近くに引き寄せられちゃう子とか、自分が死んでることに気づいていない子……あと、自分が見られてるとも気づいてないのに、それでも話しかけてくる子とか」


そこで少しだけ、律先輩の声のトーンが下がった気がした。


「そういう子って、たいてい何か言いたいことがあるんですよね。誰かに気づいてほしくて――」
「先輩」


俺は律先輩をじっと見つめ、言葉を遮った。


「ちょっと落ち着いてください」


ぴたっと止まる律先輩。やや遅れて、その顔が熟れたトマトみたいに真っ赤に染まった。

「す、すみません……つい……」
「まったく、急に早口になりおって。びっくりしたぞ。……ところでお主、神には興味はないのか?」


タジタジとしながらもちゃっかり自分を売り込むシオリ。
が、そのにやけ顔もすぐになりを潜めることになる。