~エピローグ~
マキシと礼真は寺へ来ていた。今日の依頼先だ。
山門をくぐって歩いていくと、本堂から出てきた住職が二人の姿に笑顔を作った。
「マキシ、礼真くん。久しぶり、上がって」
手招きする住職に、
「お久しぶりです」
礼真はきちんと頭を下げて挨拶をする。マキシはひらーと手を振って軽く首を傾ける。
この寺には今回のような仕事で何度も訪れている。マキシと礼真は勝手知ったる様子で、靴を脱いで本堂に上がる。
「今日来てくれてよかったよ。もう抑えがきれなくなっててね」
住職は二人の前を歩きながら、本堂のさらに奥へ入っていく。
「住職が抑えられないとかやばいじゃん」
マキシがいつもの軽い調子で言う。
住職はため息をつく。
「見たら確実に死をもたらす心霊写真。1年半前に封印してもらったけど、最近はそこから邪気が漏れ出して、封印の箱を持っただけで3人入院中。」
「そっちも対応した方がいいですか?」
礼真が聞くと、住職は少し笑って、
「そっちは私でどうにかなるし、呪物本体をなんとかしてくれれば、霊障も治まるだろし。しかし」
まじまじと礼真を見て、
「礼真くん、慣れてきたねー。もう何年かな?」
と聞いてきた。
「2年4カ月」
マキシが横から答える。
「まだ、まだです。マキシの足ひっぱってばかりです」
礼真は自嘲気味に言って少し俯く。
「そんなことないよーレイマすごいから!俺助けられてるから!てか、レイマいなかったら俺、仕事しないから!」
そんなことを話していると、呪物をおさめている部屋の前まで来た。
住職がじゃらっと鍵の束を取り出した。
いくつかの大きな錠前と、扉そのものに金庫のようなダイヤル式の鍵がつけられている。
「ここで、もう感じる」
「すごいな」
二人が言い合っていると、厳重な鍵が開いた。
二人は重い扉を少しだけ開けて、そこからするりと中に入った。
「マキシ、結界」
マキシはバックから取り出した透明な液体の入った瓶の中身を室内にまいて結界をはる。
「いいよー」
マキシが声をかけると、礼真が部屋の中央に置かれている心霊写真が納められている箱を開けた。
普通の人間ならそれだけで、命が削られるほど邪気が溢れてくる。
礼真は箱の中の写真を見た。
写真いっぱいに、顔だけが風船のようになっている女が睨んでいた。
1年半前に封印の手伝いに来たときは、写真の中心には恋人らしき二人が笑顔でピースしている姿があって、女は二人の後にいた。
その女が今は二人の姿を隠し、前面に出てきて、邪気を発しているのだ。
この女が笑顔でピースをしていた二人を死に追いやっていた。
「こんにちは、久しぶりだね。」
礼真の言葉に写真の中の女の顔が僅かに動いた。
「そこにいるの、飽きない?」
礼真は笑顔のまま続いた。
女の顔が理解できないもの見るような表情に変わっていた。
「今回もレイマの霊たらしのおかげであっさり片付いたね」
「たらしって…言い方…」
礼真は嫌そうに顔をしかめたが、すぐに表情を和らげて、
「でも…ガチガチに拘束されて動き封じられて、誰も自分を見てくれない、声も聞いてくれなかったら、イライラもするだろ。心霊写真から引っ越ししてくれてよかったよ」
ほっと息をついた。
「イライラで何人も呪殺してますけどー」
礼真が今日の霊を弁護するように言うのが、マキシにはちょっと面白くなくて、つい棘のある言い方になる。
「だから、ここから先はマキシ頼りだから、頼むな」
礼真はちらっと上目でマキシを見ると、こつんと肩をマキシの肩にぶつけた。
自分でもチョロいな思うが、礼真のそんな言葉とその顔には弱いのだ。
「わかってるよ、俺の管理してるサイトの心霊写真部門で、それなりに閲覧されて、ちょっとだけ閲覧者にちょかいかけて発散させるーでしょ?」
「マキシが管理してくれてるから、今日の子みたいに、かなりヤバい子もうまくやれてる」
礼真はマキシに、ありがとうっと小さく付け加えて、俯いた。
出会ったときは、金と暇がないからと伸び放題でぼさぼさだった髪は、今はすっきりと短くなっている。俯いてもその顔を隠すことなくなっていた。
自分で言った言葉に恥ずかしくなったらしい礼真の赤くなった耳も、頬もよく見える。
マキシはその横顔に思わず見とれる。
礼真、レイマ…霊魔、霊を惑わす魔だな。
礼真が仕事を手伝いはじめた頃に花子がぽつりと言った言葉をマキシはふいに思い出していた。
「霊を惑わず魔かぁ、たしかに地縛霊ごときが敵わんですわ」
マキシは無意識に呟いていた。
「なに?」
マキシの呟きを聞き取れなかった礼真が聞いてくる。
マキシはにこっと笑みをつくると、
「ん?次の仕事なにかなーってね」
と、誤魔化した。
礼真は少し首を傾げたが、突っこむことはせずにスマホを取り出して、
「えっと、事故物件の清掃後の清掃が2件だね」
スケジュールを確認する。
それを聞いたマキシはげーと、空を仰いだ。
「もー本当に所長はー人形使いが荒いよねー」
「暇よりいいじゃん」
ぶうぶう言うマキシに礼真が笑う。
「俺はレイマがいてくれたら、暇でも、暇感じる暇ないし」
「俺は、マキシと一緒ならどんな仕事でも楽しいよ」
二人でそんなことを言い合いながら、肩をぶつけあう。
そうしながら歩いていると、マキシの右手と礼真の左手で当たって、どちらからともなく、指が絡み、手が繋がれた。
「レイマ、本当にそういうとこだよー」
「どういうところだよ」
「だから、霊たらしー」
「たらしてねぇし」
「たらされたのー」
繋いだ手は離れないまま、二人は次の仕事へ向った。
To be continued.

