高校2年生の佐藤礼真は重い足取りで学校に向かっていた。
学校自体は嫌いではない。勉強もわりと好きな方だ。友人もそれなりにいる。
が、ここ数日は気が重いのだ。
はぁ…と溜息をつきながら、歩く。角を曲がれば学校の校門だ。
もう一度溜息をついていると、
「おい!そこのヒョロモサ」
と、声が聞こえた。
礼真はその声がした方をちらっと見た。
長身で腰まである長い黒髪の女が立っていた。
黒いパンツスーツをすらっと着こなし、整った顔は恐ろしく綺麗だが、人を小馬鹿にしているような目つきが全部を台無しにしている。
そして、その女の後に女よりさらに背が高い礼真と同じくらいの年ごろの金髪の男がいた。目尻が少し垂れ気味ではあるがそれが整った顔を柔らかく甘い雰囲気にしていて、かなりのイケメンだ。
美男美女、二人並ぶとその場所だけ空気が違う。
はぁー世の中にはこんな人たちがいるんだな、と思いながら礼真は通りすぎようとした。
「おい!お前!そこのヒョロくて、モサ髪のガキ!」
女がまた声を上げる。
これやばい人だろと、礼真は女たちの方を見ないようにした。
「無視すんな、ガキ!マキシ」
「はーい」
女が言うと男が礼真に近づいていきて、行く手を阻むように前に立った。
「あなたに用があるの」
とにっこりと笑う。
「は?俺?」
「そう、あなた」
「さっきからそう言ってるだろう、他にどこにヒョロっモサがいるんだ」
女が眉間にしわを寄せて近づいてきた。
「ひょろっもさ…」
確かに痩せているし、散髪する金も暇もなくて髪はもさもさしているとは思う。が、それを他人から言われるとショックだ。
礼真がしょぼっと眉を下げて俯いていると、
「所長!言い方!」
男は女に言ってから、礼真に向き直って、
「ひょろいんじゃないの、すっきり細身のスレンダーボディなの。髪はもさもさじゃなくておしゃれ無造作ヘアなの!ね!」
と、目を細めて礼真の腰に腕を回して引き寄せた。
「ほらーこの細い腰、俺の腕にぴったりでしょー」
言いながら顔を寄せてきて、にっこり笑う。
近くで見ると深い緑の瞳が宝石のようで、整った顔もあわせて、本当にキラキラしてみえて、眩しいくらいだが、距離近!と、礼真は男の腕から逃れた。
礼真は、持っていた鞄を胸に抱くようにして、自分を囲むようにしている二人を精一杯睨んだ。
顔が良くてもとにかく不審者だ。
「あの、俺、これから学校なんで」
なるべく刺激しないように言うと、
「時間は取らせない。怪しいものではない、私は…あー、そう、田中花子だ」
女、田中花子は少し面倒くさそうに名乗った。
役場の書類の記入例にあるような名前。美女にまったく似合ってない。
「それ、絶対、偽名でしょ」
もっとなんか他にあっただろ…と思いながら、礼真が突っ込む。
「あ?今ならこの名前でいいんだろ?」
花子が少し首を傾げて、男を見た。
「うーん、悪くはないけど、ダサい」
男がへらっと笑う。
礼真はじりじりとこの二人から逃げようと動いたが、瞬きしているほどのあっという間に壁ドンされて塀と男の間に閉じ込められていた。
「あー逃げないでぇ。もう、所長が失礼なこと言うからー」
ごめんねぇと男は言いながら、手を上げると、礼真の頭を撫でた。
「ひっ」
礼真の身体がびくっと震えた。身体がこわばる。
優しい接触だったが、礼真は大きな男の腕が上から自分に近づいてくるのが怖いのだ。
「いや、マキシ、こいつが怯えてるのはお前のせいだろ。」
「えー俺?こんなに優しいのに?」
花子の言葉にマキシと呼ばれた男は心外だと言うように花子を見て、
「俺、怖い?」
と礼真を見た。
礼真の顔からは血の気が引いていて、恐怖に固まっていた。その顔を見て、マキシは顔を歪めた。
「ごめん、ごめんね、怖くないよ!俺、レイマに怖いことも痛いことも絶対しない!本当だよ!」
「うるさい、黙れ、しゃべるな」
さらに距離をつめて必死で言い募るマキシの首根っこを掴んだ花子は平坦な口調で言うと、マキシを礼真から引き離した。
「これを見ろ」
花子はまだ固まっている礼真にスマホを突き出して、その画面を見せた。
正直見たくないと思ったが、目の前に出されては見るしかない。仕方なく礼真は花子のスマホを見た。
画面はエンスタの動画で、制服姿の5人の女子が黒板の前に立っていた。
黒板には『JKがこっくりさんをやってみた』という文字がごちゃごちゃと描かれていた。
『はーい、今からうちらでこっくりさんします』
センターのポジションらしく前髪のひとすじもメイクも完璧に整えられている女子が言うと、ワーと残りの4人が拍手をして、歓声を上げる。
『用意するものはーおなじみのこれっ』
センター女子がこっくりさん定番の五十音や、鳥居が書かれた紙と五円玉を見せる。
そして、動画は彼女たちが机を囲んで、こっくりさんを始める様子が続いていく。
「あれ…これって…」
動画を強制的に見せられている恰好だった礼真だったが、途中から食い入るようにそれを見つめていた。
「そうだ、見覚えがあるだろう、こいつらお前と同じ学校の生徒だろう?」
「っていうか、同じクラスの子…います…うわっ!」
見覚えのある女子の名前を言おうとしていた礼真は突然画面に一瞬、映し出された女の顔に声を上げた。
「見えたか?」
「はい、見えました」
花子の問いにごくっと息を飲んで礼真は頷いた。
はっきりは見えなかったが、髪の長い女が一瞬画面に映った。なにより不気味なのは、はっきり見えないのに、言いようもない気持ち悪さを感じたことだった。
それがなにより怖い。
「見えるヤツと見えないヤツがいる。ちなみに私は見えた。」
「俺も見えたよ」
花子が淡々と言うと、へらっとマキシもかぶせてくるが、
「お前は黙っていろ」
と、ばっさり花子に言われて、マキシは頬を膨らませた。
イケメンが子供みたい顔をしている…その様子に、すねたときの妹の姿を思い出して、礼真の緊張が少し解けた。
「えっと、さっき見えたのは霊?とか…ですか?」
少し冷静さを取り戻して、礼真が聞く。
「お前らの言葉で言えばそうなるな」
「…はぁ…また見てしまった」
あっさりした花子の言葉に礼真ががっくりと肩を落とした。
礼真は見えるのだ。
子供の頃は生きてる人と霊の区別がまったくつかなかった。
母の反応からそれは見てはダメなものだと察して、なるべく声をかけないようにしていたが、生きている人を無視して、怒られることもあった。
だんだん見えないくなっていく人がいることを知って、期待していたが、成長するともっとはっきり見えるようになった。
それでも、霊次第でわからないときもあって、なにもない空間に話している礼真を周囲は天然不思議系男子と思っている。
今の礼真は周囲が持ってるイメージに自分を合わせていた。
礼真にしてみればそれは少し窮屈で、霊が見えるだけの能力はわずらわしいものだった。
礼真が溜息をついていると、
「お前がそういうヤツだから声をかけたんだ」
「俺はレイマがかわいーからー」
今まで不機嫌そうな表情しか見せなかった花子がニヤっと笑った。その横からマキシは楽しそうに手を上げる。
「殺すぞ」
「はーい、黙ってまぁす」
笑みを浮かべたまま花子が短く言うと、マキシはしょぼっと手を下げて肩を竦めた。
「この画像を見てさっきの霊が見えたヤツらの中に怪異が起きていてな。そっちから私のところに解決してほしいと依頼がきた」
「依頼…ってことは霊媒師…さん?」
礼真は恐る恐るという感じで聞いた。
「まぁそんなところだ。で、調べてみたらこの学校の学生がこの動画を上げていたことがわかったんで調査をしたい。だが、昨今、学校には部外者はなかなか立ち入れない。」
礼真の問いに頷いて、花子は自分たちの事情を説明して、
「お前、私の調査を手伝え」
と、事もなげに言った。
「は?」
言われたことの理解が追いつかず、礼真は間抜けな声を上げた。
「バイト代ははずむぞ」
花子はニイっと笑う。
「…バイト代…」
「それと一応、ボディガードもつけてやろう。こいつ、マキシだ」
「えっ…ボディガード…」
花子の言葉にオウム返ししかできない礼真に、
「はーい。俺だよ、絶対レイマを守るよぉ」
と、マキシは嬉しそうに声を上げる。
また近づいてきたマキシからちょっと距離をとって礼真は、花子に向き直った。
「…その…その前に聞いて欲しいことがあります…」
「なんだ?」
「実は…」
一週間前。
掃除当番で音楽室の掃除を終えた礼真は、音楽室の鍵を返しにきていた職員室で、担任につかまった。
「佐藤くん、ごめんちょっと手伝ってー」
と、担任に拝むようにされた。
明日、授業で使うプリントを綴じる作業を手伝ってほしいというのだ。
頼まれるとどうしても断れない礼真は、仕方なく手伝うことにした。
三十分ほどでその作業は終わり、担任に礼を言われた礼真は、へらっと笑って、
「どういたしまして…です」
と、足早に教室に向かった。
家で待っているだろう妹のことを考えて、礼真は焦っていた。
掃除当番のことを伝えていたが、ここまで遅くなると思ってなかったのだ。
「真美、大丈夫かな…」
体が弱い真美は学校を休みがちで、今日も朝から熱を出して学校を休んでいた。家には父がいるが、父は基本、真美の世話はしてくれない。
礼真はほとんど走るような速度で教室に入った。
「あっ…」
「あっ」
もう誰も残っていないと思っていた教室には、同じクラスの一ノ瀬乃愛と白石ひまり、相沢琴羽が机を囲み、少し離れたところにスマホを構えた黒田澪がいた。
動画撮影をしようとしていたらしい彼女たちに一斉に見られて、礼真は一瞬固まったが、
「ごめん、もう誰も残ってないと思ったから…鞄、取ったらすぐ帰るから…」
と、へらっと笑って自分の席に向かう。
その礼真をじっと見ていた乃愛がひまりに目くばせした。
「ねぇ、佐藤」
乃愛が礼真に近づく。ひまりもその横についた。
「うちらー今からこっくりさんやろうと思ってんだけどぉ」
乃愛がちょっと首を傾げるようにして言う。
礼真はちょっと眉をひそめた。
霊が見える礼真は、こっくりさんが危険な交霊術になり得ることを知っていた。
小学校のときこっくりさんで集まってきた浮遊霊に追いかけられたことがあった。
が、無数に伸ばされる手、温度のない手に掴まれ、どこかに引きずり込まれそうになったあの恐怖は忘れられない。
「こっくりさんはやめた方がいいよ、危ないから」
礼真は少し厳しめに言って、鞄を手にした。
その鞄をひまりがさっと取り上げる。
「ちょっ白石さんっ」
礼真が声を上げる。
「うん、危ないのはわかってる。かよわいうちらと一緒にこっくりさんやってよー佐藤ぉお願い」
乃愛が手を合わせて拝むようにしてくる。
「いいじゃん、乃愛がこうやって頼んでるんだよ」
横からひまりも乃愛と同じポーズを取る。
「えっでも…」
女子二人から、上目で見上げられて、礼真は思わず後ろに下がった。
「お願い」
「ねぇ私たちだけじゃ怖いの」
「困ってる女子を助けてくれないんだ」
乃愛、ひまりに琴羽までも加わってお願い攻勢をしかけてくる。
「う…いや…その…なにか…あったら…」
礼真がじりじりと後ろに下がると、女子たちもその分距離をつめてくる。
「だからやるんじゃん」
「なんか起きるかもだからやるんだよ」
「そうそう」
ガツと礼真の背中に教壇があたって、もうそれ以上は下がれなくなった。
「「「お願い」」」
三人に声を合わせて言われて、礼真はがっくりと首を前に倒した。負けた。
「わかった、わかりました」
頼まれたら断れない。どうしても女子は妹と重なってしまう。
礼真が了承すると彼女たちは歓声を上げて、こっくりさんの紙を机に広げた。
「入口」と「出口」、「あ」から「ん」までの五十音など、こっくりさん定番のものが書かれた紙。
その上に五円玉。
最初に乃愛がそれに指を置いた。次にひまり、琴羽が置く。澪はスマホをかまえて、その様子を撮影している。
「ほら、佐藤も」
乃愛に腕を引っ張られて、礼真も5円玉に指を置いた。
乃愛は澪が向けたスマホのレンズに視線を合わせると、にっこり笑って、
「はーい、JKがやってみたチャンネルでーす。今日はこっくりさんです。この前もやったけどぉ、今日はうちらの恋愛のことなんか聞いてみようかなーって思ってます」
「恋愛でーす」」
「えっ私、彼氏しないし…」
「あっそれから今日はゲストに、たまたま帰るのが遅くなったせいで、うちらに捕獲された男子も参加してます」
「そう、万一に備えます」
乃愛、ひまりが主に話をして、その隙間に琴羽はぽつりという感じで進んでいく。
カメラマンの澪はほんど声を出さないが、指さしでちょくちょく指示を出してくるが、その指示が正確に伝わっているのかは、礼真には不明だった。
「こっくりさん、こっくりさん、彼氏いないKちゃんに彼氏はできますか?」
乃愛がいたずらっぽく聞くと、みんなが指をおいた五円玉はゆっくりと動く。
「おいでください」という呼び出しから、五円玉は順調に動いていた。
最初に動き出したときは、驚いたがすぐにそれが乃愛が動かしているということがわかって、礼真は内心でほっとしていた。
このこっくりさんは失敗だ…というより、最初から乃愛が動かす予定になっていたのだろう。
礼真以外の乃愛も含めて、なかなかの熱演で、驚いたり怖がったりしている。
琴羽の彼氏の質問に対しては、こっくりさんは「はい」と動き、いつごろ彼氏ができますか?の質問には、数字のところを行ったり、来たりするだけだった。
この辺の動きは本物のようで、礼真は内心で感心していたが、だんだんとこっくりさんに対する質問のネタがなくなってきた。
みんなの彼氏事情の質問が終わると、グダグタになってきた。
(早く終わらないかなぁ)
礼真はただそれだけを考えていた。
「えっーとそろそろ最後の質問にしよっか」
「そうだね、最後最後」
グダグタになっているのは自分たちでも感じていたのだろう乃愛が言うと、すかさずひまりが両手をパンと合わせて頷いた。
「あっ…」
「あ…」
全員が一瞬、固まった。こっくりさんが帰るまでは参加者は絶対に五円玉から手を離していけない…それがルールだ。
ひまりもすぐに、しまった!という顔をして慌てて指を戻した。
「ひまり、なにやってんの」
さっきまできゃっきゃっとした口調とは違う棘のある言い方で、乃愛がひまりを睨んだ。
ひまりは乃愛には目を合わせずに、
「ごっごめんなさい…乃愛ちゃん…」
と俯いた。
ビリっとした空気が流れて、礼真はいたたまれない気持ちになって俯いた。
「編集でどうにでもなるから、続けて」
そこにスマホを構えたままの澪が言った。この場をどうにかしようというより、事実を言っただけという口調だったが、乃愛は澪の言葉に機嫌を治した。
「そう?ならいいけどぉ、もう、ひまり気をつけてよね。佐藤はこのこと内緒ね」
「うん、気をつけるよ、乃愛」
また口調が戻った乃愛にひまりが明らかにほっとして、顔を上げてにっこり笑った。礼真はあいまいに頷くだけにした。
「さて、最後の質問でぇす」
もう一度そこからやり直すようで、乃愛が言った。ひまりは今度はなにも言わない。
「じゃあ最後の質問はー」
乃愛が五円玉に触れてない方の手の人差し指を口元に当てて、うーんと少し首を傾げながら迷う仕草をしていると、
「いつもは5人なのにどうして今日は4人なんですか?」
ひまりが機械のように平坦な口調で言った。
ぎょっとしたように全員がひまりを見た。
ひまりは目を見開いて、ただ空中を見つめている。
ざわっと空気が変わったことを、礼真は感じていた。
「やば…」
礼真は小さく呟いていた。説明はつかないがこういう空気になったとき、必ず霊が現れる。
「きゃあ!」
乃愛か琴羽かの悲鳴が上がった。
五円玉が今までにない動きをしていた。
乃愛が動かしているときは、ゆっくりとふらふらした感じだったのだが、今はすごい早さで動く。
みんなの指が乗せられたままで五円玉はすごい早やさで、紙の上を動き「の」と「あ」の文字を行ったり来たりし続ける。
「いやっ!なにこれ」
自分の名前の文字のところばかりに動く五円玉に乃愛が声を上げた。
「怖い、怖いよ。乃愛ちゃんやめて」
「うちやってないから、なにもしてないから!」
「なに?なんなの?」
琴羽が泣きそうになり、乃愛はさらな声を高くして、正気に戻ったらしいひまりも叫んでいる。
そして、三人はほぼ同時に、五円玉から指を離していた。
「指を離したらダメだ!お帰りいただくまでは」
礼真が咄嗟に叫んだが、
「こんなのっこんなの、変だよ。わっ私は信じないから。帰る!」
乃愛はヒステリックに叫ぶと、こっくりさんの紙を五円ごとぐしゃっと掴んで、そのまま丸めてしまった。
「ひまりが責任もって片付けてね」
乃愛はひまりの制服のポケットに丸めた紙を突っ込んで、自分の席から鞄をとるとそのまま走るように、教室を出て行った。
「乃愛ちゃん、待って、待ってよ」
ひまりがそれに続いて教室を出て行き、琴羽も澪も真っ青のまま帰ってしまった。
突然の出来事に礼真はただ呆然とその場に立ち尽くすことしかでかなかった。
そして、その日から4人の様子が変わった。
いつもはクラスの中心でうるさいくらい、おしゃべりをしているが、まったく話すことがなくなった。
その代わりに、乃愛が授業中に急に叫んだり、ひまりや琴羽は泣き出したりと別の意味で目立つようになっていた。
礼真もまた自分の視界の端に、さっと動く影のようなものを見るようになっていた。そして、その影は日を追うごとにしっかりと礼真の目に映るようになっていて…。
「その影が気持ち悪くて、学校に行くのが気が重くて。あと…その場にいたのになにもできなかったの…責任感じるっていうか」
一週間前の出来事を、花子とマキシに語った礼真は俯いた。
「なるほどな、それで辛気臭い顔で歩いていたというわけか」
花子がふんっと鼻を鳴らした。
「所長っ言い方!辛気臭いじゃないの、悩んでたの。レイマは優しいから気にしちゃうんだよ。けど、レイマのせいじゃないからね。レイマは最初にちゃんと注意したんだからあとはその女たちの自己責任ってヤツ」
マキシがまた近づいてきて、礼真の肩に腕を回してくる。
距離近っと思ったが、肩に置かれたマキシの手の存在感が、礼真には心強かった。
悩んでいたし、もしかして霊感のある自分がいたせいかとも考えたし、なにより怖かったのだ。
胡散臭いながらも、怪異を解決しに来たという花子とマキシは、頼もしく見えた。それに、マキシが礼真を見る目が、どこまでも優しい。
「あの、手伝います。手伝わせてください」
礼真は花子にしっかり目を合わせて言った。
「ふん、断らせる気はなかったから、お前の意思はどーでもいいんだが、モチベがあがるのはいいことだ。」
花子は怠そうに言って、マキシをちらっと見た。
「はーい、ちょっとスマホ貸してねぇ」
マキシが礼真の制服のポケットから勝手にスマホを取り出して、画面に触り始めた。
「ちょっと、勝手に触んな」
礼真が取り返そうとすると、すぐにマキシスマホを返してきた。
「ごめんね、アプリ入れさせてもらっただけだから」
と、マキシはスマホの画面を見せた。
初期設定のままの壁紙に必要最低限の四角いアプリアイコンが表示されている礼真のスマホ。見慣れた四角いアイコンの並びの端っこに、黒い丸のアイコンがあった。
よく見ると黒丸の中に緑色の小さい丸が二つ、目のように並んでいる。四角のアイコンが並ぶ中でかなりの異彩を放っている。
「これは、マキシホットラインです。ワタシが作りました」
「は?作った?」
「そうだよ、簡単だよ。使い方はここをタップするだけ。俺にすぐ連絡とれるよ。あいつらからの邪魔も入らないようにしてから。電波があるとさ、あいつらも乗ってくるんだよね」
軽い調子で、マキシは言った。
「あいつら?」
「霊だよ。当たり前じゃん」
礼真の問いにこともなげにマキシが答えた。
「れっ…霊と電波って関係あるの?」
「あるよ、電波つながったら結界とか張ってても関係ないし、離れていてもゼロ距離になるからね」
「こわ」
霊などというものは、文明の利器…ITからかけ離れたものだとなんとなく思っていた礼真は急にスマホが怖くなる。
「怖いよね。けど、このマキシホットラインは霊からの干渉ゼロ。圏外でも繋がるよ」
「……圏外で…どうやって?」
礼真の頭を撫でてくるのマキシの手を払いながら、霊より怪しいだろうと聞くと、
「んー?気合?」
嘘とも本気ともつかない答えが返ってき礼真はもう質問を諦めた。この二人は自分の常識と違うところにいる人たちなんだと思うことにした。
「とにかく優れものなアプリだから、なんかあったらすぐにタップしてね。」
マキシがアイコンを指さしていると、学校からチャイムの音が聞こえてきた。始業のチャイムだ。
「やばっ遅刻だ」
礼真が駆け出した。
このときもうマキシも花子も礼真の行く手を阻むことはなかった。その代わりその後ろ姿に声がかけられた。
「学校終わったら会おうねー待ってるから」
「わかった!」
マキシの声に、返事をして礼真は校門をくぐった。
「レイマ、おーい」
学校が終わって校門を出たところで、礼真は声をかけられた。
校門から出る生徒たちの群れから少し離れた道路のガードレールにマキシが軽く腰かけて、手を振っている。
こうやって離れて見てみると、マキシのスタイルの良さがよくわかる。特に足が長い。礼真は自分の足を見下ろしてちょっと溜息をついた。
朝に会った見かけだけならモデルか女優かというくらいの美女、花子のことも思い出して、まぁ住む世界違う人たちだもんな…ともう一度溜息をついて、礼真はマキシに駆け寄った。
「…マキシさん」
自分と同じくらいの年齢には見えるが、実際よくわからないので、とりあえず「さん」をつけて呼ぶ。
「マキシでいーよー。」
「あっ…うん…マキシ…」
マキシに言われてそのまま思わず呼び捨てで名前を口にしていた。
「うんっなぁに?」
礼真の呼びかけにマキシが横から顔を覗き込むようにしてくる。
礼真ははっとした。
礼真には名前を呼び捨てで呼び合える友達がいなかった。家の事情でクラスメイトからの誘いを断っていたら、だれからも誘われなくなり、クラスで薄い存在になっていた。
人の名前を呼び捨てにするは久しぶりすぎてつい口にしてしまっていた。
要するに「ちょっと呼んでみただけ」というヤツなのだが、それを口にするは恥ずかしすぎるので、
「あっ今のは、練習っていうか、ごめん」
と、謝った。
「えっなんでぇ?俺、名前呼んでもらうの好きだよ。いいよねー名前ってさ」
マキシは本当に嬉しそうに言って、目を細めた。
「えっ?あっうん、そうだね、名前呼んでもらうのはいいよね…あっえと…」
ちょっと変わったことを言う人だなぁと思った。
が、確かに名前を呼んでもらうのは、自分の存在を認めてもらうようで嬉しいことだが、あまりにマキシがキラキラした目で見てくるので、話を変えることにした。
「待っててくれたんだ」
「そうだよーずっと待ってた」
礼真が言うと、マキシは楽しそうに頷く。
「まっ?ずっとって…いつから?」
「いつって朝からだよ。レイマとばいばーいしてから。待ってるっ言ったじゃん」
事もなげにというより、どうしてそんなことを聞くのかというようにマキシが笑う。
「いやそうだけど、朝からずっとって…雨、降ったよね」
礼真は昼前に降った雨を思い出す。
「あー降ってたけど、すぐ止んだよ」
マキシはちょっと空を見上げて、青空になっている空を指さした。
「傘、もってないよね」
「ないよー」
「濡れただろ?」
「乾いたよ」
「風邪ひくよ」
「引かないよ」
マキシの自分自身に対する無頓着さに、妹がいる礼真はつい兄気質が出てきてしまう。
ついつい、心配を口してしまったが、どこかズレた答えしか返ってこなくて、礼真は眉間を指で押さえた。
「…うぅぅ、あのさ、俺が学校に行ってる間は、家に帰るとか、他の仕事するとか、カフェでお茶するとかしてよ。学校終わったら、このアプリで呼ぶからさ」
礼真が眉をへにゃっと下げて、懇願に近い形でお願いする。
「……?」
マキシは首を傾げて、じっと礼真の顔をしばらく見つめてから、
「レイマがそう言うならそうする」
と、にこっと笑う。
溜息をついて、また眉間を押している礼真に、ニコニコしたままでマキシが聞いてきた。
「それより、なんかわかった?」
礼真はぱっと顔を上げた。
「そうだった。最初のこっくりさん動画のときにはいたけど、俺がこっくりさんをやったときにはいなかった子がわかったよ」
「おーすごいっ。一日にしてすごい収穫っ」
マキシがパチパチと手を叩いて、声を上げた。
「えっと、5組の神崎詩音って子だった。俺と一ノ瀬さんたちは3組なんだけど1年のときは一緒のクラスで、そのとき白石さん、相沢さん、撮影担当の黒田さんの5人で『JKがやってみたチャンネル』をやり始めたんだって」
礼真は言うと、スマホを検索して、その動画のチャンネルを表示させて、マキシに見せた。
「どれどれ、『JKが某ハンバーガーチェーンのメニュー全部食べつくしてみた』これは食べてるだけか…つまんねぇー。『奇跡のメイクで奇跡の一枚撮ってみた…かったけど奇跡って起きない』あっこれ面白そう。あとは…ん?」
一人で動画に突っ込みを入れながら、乃愛たちの動画をちょこちょこ見ていたマキシの動きが止まった。
「…『JKが花子さんになってみた』…これだけ、再生回数の桁が違うね」
他の動画の再生回数が二桁から三桁前半なのに対してそれは千を軽く越えている。
マキシが再生をタップした。動画が始まる。
乃愛とひまりが女子トイレの一番奥の個室に入っていきながら、鍵を閉める。小さな笑い声と、
「ちょっと笑っちゃダメだって」
「だってぇ」
というようなやりとり。
撮影担当しているらしい澪の姿はないが、隠し撮りされたような動画から見て、どこかでこっそり撮っているのだろう。
そこへ詩音と琴羽がターゲットらしい女子と一緒にトイレに入ってくる。
「最近さーなんか女子トイレで変なこと起きるらしいね」
詩音が、わざとらしくなく言い出した。
「えっ知らない」
「けっこう有名だよーなんか変な声聞こえたとかー」
ターゲットに嘘の怪異話をする琴羽。
「やだやだっ私そういうのダメなんだって」
ターゲットは本当に怖いらしく耳を塞ぐ。
「知ってるぅーだから言ってるのーあのね、遊ぼうって言われるらしいよ」
「もうっ本当にやめてっ怖いんだって」
(Cちゃんの追加攻撃めちゃくちゃ効いてる。本気で怖がる〇ちゃん)というテロップが入る。
『ダレカ…イル…ノ?〇チャン?』
(そのとき!!!花子さんの声がっ!!)と派手な赤色の文字のテロップ。
「えっ…なに」
「どうしたの?」
「えっえっ今なんか声が」
「声?聞こえないよ」
「けど」
『アソボ、アソボ』
ドンドンと扉を叩く音。
「きぃイヤーーーーっ」
と、悲鳴を上げてターゲットの女子はそのまま腰がぬけたのか、その場にへたり込んだ。、スカートがめくれていることも気付かず、足をバタバタさせている。
(〇ちゃん、予想以上の怖がりっぷり、逆に怖いww)とテロップ。
そして、トイレから乃愛とひまりが飛び出してきて、
「JKがやってみたチャンネルでしたー!」
と、ネタ晴らしがされ、まだ床に座ったままで泣きそうな顔のターゲットに、乃愛とひまりがケラケラ笑いながら声をかける。
「えっ…え?」
「もうー驚きすぎ。そんなに驚かないでよー引いちゃうよー」
「えっ…あ…乃愛…ちゃん…」
「はいっカメラあっちー『JKがトイレの花子さんになってみた』大成功ー。ほらっ〇ちゃんも笑って笑って」
やっと立ち上がったターゲットの肩を抱く乃愛。そして、曖昧な笑みを作るターゲット。
動画は笑い声で終わった。
動画の途中からずっと、顔をしかめていた礼真は、コメント欄を見て、小さく、
「最低…」
と呟いた。
面白かったや、ターゲットにされた子を揶揄する言葉ばかりが並んでいて、中には『スカート中丸見え』というコメントまであった。
どうしてもあれが妹だったらと、女子を妹に置き換えてしまう礼真から見たら、吐き気が込み上げてくるような内容だった。
「これさ、なんでこの驚かされた子たちは怒らないの?」
マキシは首を傾げた。マキシから見たら、ターゲットの女子は本気で怖がっていて、ネタばらしされた後も本当に笑ってはいない。
マキシの問いに礼真は溜息をつくと、
「一ノ瀬乃愛がカースト上位だからだろ」
怒りが残ったままの声で答えた。
「カースト?インドで生まれた昔の身分制度?上位ってことはバラモンなのかな?」
マキシがさらに首を傾げて、礼真もマキシの言葉に首を傾げた。
「は?インド?いや、普通に学校内でリーダー格ってこと。スクールカースト」
「へぇーインドの身分制度がシルクロードを渡って、日本にこんな形で伝わっているのか」
礼真の説明にマキシは冗談とも本気ともつかないことを言う。
「いや、それ、全然意味わかんないから。要するに一ノ瀬さんはクラスの女子のリーダー格だから逆らうといろいろあるんだよ。俺はよくわかんないけどさ」
スクールカーストのことがよくわかってないらしいマキシに付け加えてやると、
「……、なるほど、そういうのはよくわかるよ俺。集団のリーダーには逆らえないよねー」
なにを思い出したのか、一瞬、沈黙してマキシは腕を組んでうんうんと頷いている。
その一瞬の間が気にはなったが、礼真はスルーすることにした。
そういう「間」の間に頭をよぎることは、あんまりいいことではないことはわかって、聞けないと思ったからだ。
礼真はさらに仕入れてきた情報を話すことにした。
「けど、逆らった人がいるんだよ」
「おっ勇者じゃん」
マキシがすぐに食いついてくる。
「これ、神崎詩音。動画の中ではCちゃん」
礼真はもう一度動画を再生させて、『最近さーなんか女子トイレで変なこと起きるらしいね』と言ってる詩音を指さした。
「バラモンに逆らうってことはこの子もバラモン?」
「いや、バラモンってなんだよ。新種のポケモンかよ」
「そういうとこ拾ってくれるレイマ大好き」
「はっ…ずっ…」
今朝、会ったばかりではあるが、礼真はこのマキシという男は冗談ばかりで、他人との距離が近く、コミュニケーション能力が高い自分とはまったく違うタイプらしいと分類した。
だいたい、もう成人間近の男が、同性に対して「大好き」はないだろう…と、礼真は顔をしかめた。
「あっレイマ、ちょっと赤くなってるー」
ニヤニヤしながら顔を覗き込んでくるマキシは、礼真の反応を見て楽しんでいるらしい。 違うタイプどころか、絶対に合わない…と思いながら、
「はぁ?なってないよっそれよりっ神崎さんの話っ」
と、完全に脱線した話を戻す。
「あーそうだった。で、勇者はどうなったわけ?」
「うちのクラスの女子が見たらしんだけど、神崎さんが一ノ瀬さんと白石さんに怒ってたって」
「何に対して?」
「動画のネタを考えるのは自分だーとか、どうしていつも一ノ瀬さんがセンターて仕切ってるだーとか。多分だけど、神崎さんが動画のネタを作っていて、一ノ瀬さんがいいとこ取りしてた感じだったのかも」
礼真は考えながら指先で唇に触れる。
「それで、新しいネタは思いつかないからってこっくりさんの第二弾をしようとしたかの」
「あ…そういうことか…」
礼真の言葉をうけたマキシの推論に礼真は頷いた。
たしかに、最初にバズったこっくりさん動画の質問は、女子高生らしいものから、学生に関係するような社会問題だったりと、多岐にわたっていてそれだけでも面白かった。
が、礼真が参加した二回目のこっくりさんへの質問は、ありがちな恋愛相談からすぐにグダグタになっていった。
アイデアを出す詩音がいなかったからだろう。
「…Cちゃんと話がしてみたいな…」
ほんの少しマキシの声の温度が下がる。思わず礼真がマキシの顔を見つめていると、
「もう帰っちゃったかな?」
と、にこっと礼真の顔を覗き込むようにしてくる。
話しかけてくるときに必要以上に近づいてくるが癖なんだろうなと、結論づけることにした。
なにより、友達になろうとしていわけではない。バイトの先輩後輩くらいの関係だし、こういう癖のある人だと思えば、なんとなく諦めもつく。
「大丈夫、まだ学校にいるよ。理系の五組は今日は課外があるから。」
スマホの時計を確認して、礼真が答えた。6時間目の課外が終わるまで、まだ時間がある。
「礼真はないの?課外とかいうの」
「文系のクラスは今日は課外なし」
「へぇ…礼真は文系なんだ、なんかわかるぅ」
文字通り、頭のてっぺんから足先まで値踏みされるように言われてなんとなく、カチンときてしまう。
文系、理系の優劣はないが、どちらかというとかっこいいよりは、かわいい寄りの顔立ちの礼真は、文系だというとほぼ100%「なんかわかる」と言われるのだ。
「なんだよ、マキシこそどっちだよ」
むっとして言い返すと、腕を組んで、上を向いて少し唸ったマキシは、
「文系、理系かー考えたこともなかったなぁ。今度会うときにまでに決めておくよ」
楽しそうに笑う。
「は?いや、決めておくって…そういうもんじゃ…あっ!」
「なに?」
「出てきた、今日は早く終わったんだ。」
礼真は校門から一人出てきた神崎詩音を指さした。
「話聞いてみようか。俺はCちゃんの動画のファンで、レイマの友達ってことで、適当にあわせてね」
そういうとマキシはとっとっと小走りで、詩音の後を追う。
「えっちょっと待って、いきなり話しかけたら不審者…」
礼真は慌ててマキシを止めようとしたが、追いついたときにはもうマキシが詩音に声をかけていた。
「ねぇ、あなたCちゃんだよね?動画見たよー。すごい面白いよね」
マキシが軽くチャラい感じで声をかけるが、詩音は一切無視で歩く。
「あの、こっくりさんのヤツとかさーすごいイカレてるよね。こっくりさんに高校の授業料はタダになりますか?とか聞くの。聞く相手違うでしょっ。ウケるー」
マキシがペラペラ話続けていると、詩音は足を止めた。
「あんたなんなの?ウザいんだけど、不審者?」
「あーごめん、神崎さんっこいつ俺の友達で、神崎さんたちの動画のファンでさ。制服から俺と同じ学校の子だろって押しかけて来て、どうしても動画の子と話したいって。本当、まぢ不審者だよね。ほらっマキシも謝れよ」
スマホを取り出して通報するような素振りを見せる詩音に、礼真は慌てて割り込んだ。
「佐藤くん…の友達なの?」
礼真を見て、詩音の表情が少し柔らかくなった。
「ごめーん、いや本物Cちゃんじゃんって思ったら、興奮しちゃってー」
へらっと笑うマキシの顔を間近で見た詩音は、驚いたように目を丸くしてからぱっと顔を赤らめた。
「あっその、佐藤くんの友達ならいいよ…話しても」
マキシのイケメンを目の当たりにして、態度がさらに軟化した。
「けど…あれじゃない?本当は私じゃなくって…乃愛…じゃなくってAちゃんに会いたかったんじゃないの?」
マキシの反応を伺うようにしながら、自虐的に詩音が言った。
「んーそういうの関係ない、動画なんて面白いかどうかだけでしょ?」
「俺もそう思う。」
マキシに後ろでつつかれて、礼真も同意して見せた。
マキシはもっと話せと言うように、さらにつついてくる。
「えーそうっ一ノ瀬さんたちが、2回目のこっくりさん動画取ってるときに、強引にゲストにされてさー最初のこっくりさんのときと違って、なんか途中からグダグタで…」
「レイマに聞いたけど、どうしてCちゃんはそのときいなかったの?」
礼真とマキシが言うと、詩音は薄く笑った。
「あれか、本当にグダグタでクソだったよね。私がいなくてもできると思ったのかな。っていうか、こっくりさんでバズったからってまた同じことやるとか、本当にバカ…。私がいないとなにもできないくせに…本当に…バカばっかり…」
途中からどこにも焦点が合っていない目を見開いて、詩音は話し続ける。
「乃愛がいるからバズったんじゃない。私のネタがよかったからよ、そうよ、乃愛がいなくても、乃愛がいない方が…」
「神崎さん?」
礼真が恐る恐る声をかけると、詩音は目が覚めたようにはっとして、まばたきをすると、スマホを操作して、その画面をマキシに見せた。
「私のチャンネル作ったの、『C音ちゃんねる』っていうの。近々ライブ配信するからチンャネル登録よろしくね」
かわいくデフォルメされた詩音っぽいキャラが、『C音ちゃんねる』と言いながら、手で「C」の形を作っている画像が、映っている。
「じゃ、私、忙しいから」
三人で歩きながら話していると、いつの間にかバス停に到着していた。
詩音は丁度やってきたバスに、他の生徒たちと乗り込んだ。
ぎゅうぎゅうになった車内“の”窓から、その姿が見える。
その中に、最初のこっくりさんに一瞬映り込んだ女の霊の姿が見えて、礼真は息をのんだ。
「マキシ…」
「礼真も見えた?」
「見えた…あれって…」
礼真が言うとマキシは走り去ったバスを見つめたまま呟いた。
「どっちが利用されてるのか…」
「え?」
マキシの言葉に礼真は思わず声を上げてマキシを見つめた。
礼真からの視線に気付いたマキシは、にこっと笑って見せて、
「今日一日がかなりの収穫だった。帰ろうか、送って行くよー」
と、礼真の髪をくしゃっとかき混ぜた。
完全に子供扱いしてくるマキシの手から逃げた礼真は、
「いいよ、一人で帰れるよ」
ツンとして言うと、
「そっか、そっか。じゃあ、また明日ねーばいばーい」
ひらひらーと手を振って去って行った。
あまりにあっさりしたマキシのバイバイに自分が振られたような気分になって、
「…そこは、もう一回くらい、『送るよ』『いらない』のやりとりあっていいんじゃね?」
礼真は面白くなさそうに呟いた。

