死にたがりの僕を、君の手だけが離さない―都市伝説探索レポートー

聞くと何でも答えてくれる怪異がいるという。

しかし、すでに答えを知っていることを聞いてしまうと、死をもたらす。

姿を見てもだめだという。

それはとても理不尽な怪異だ。

でもその理不尽さは、『特定の誰かに何か伝えたいことがある』という怪異の強い念が、

無念にも捻じ曲がったゆえのものなのかもしれない……。





『さとるくん』





「由真、そうやって一人で抱え込もうとするな」

瓦落くんは強い力で僕を引き戻して抱きしめてくれた。

「俺と一緒に生きよう、由真」
「……!」

顔を上げた。じっと僕を見下ろす瓦落くんの瞳。

「ほんと……?」
「ああ」
「ありがと……」

この人を好きになって良かった。

「さとるって兄貴は逃げれたんだろ?どうやったんだ?真似しようぜ」

「……人間をやめたんだ」

「!」

「さとる兄さんは、儀式をして自ら怪異になったんだ。そして失踪した。あの日のことは忘れられないよ……。流石の母さんも捕まえられないみたい」

……瓦落くんは唖然としながらも、何とか言葉を絞り出した。

「……人間やめるって、具体的にどうなるんだよ……?」

「きさらぎ駅とかで見たようなやつだよ。あの女の霊、覚えてるでしょ?

あんな感じで、それまでの記憶が欠落して、一方で何かに強く執着したりする。

その中で特殊な力を得たり、見た目がおぞましく変わることもある……。

とにかく、生きたまま怪異と化すと、確かに死にはしないけど人としてはもうマトモに生きられないんだ。

あとは彷徨うだけ」

「今まで切り裂いてきたような奴らに、今度は由真がなるってことか。俺には無理だ、そんなことさせられない!」

「うん。それに僕は、瓦落くんのこと忘れたくない。一番大切な思い出だから。

それを失うのは、僕にとっては死ぬのと一緒」

「由真……」

瓦落くんは僕の頬を指先でそっと撫でた。

「母親を説得するのは?」
僕は首を振った。

「なら母親を倒す」
「そんな次元の人じゃないんだ。

強力な霊能力者でありながら、あえて半分怪異と化してその能力をも使いこなしている。だからこそ異次元に強い。

ほんと、大きな蛇みたいなんだよ。見たらびっくりすると思う。その姿を見て無事に帰れた人はいないけど……」

瓦落くんは僕の首に顔を埋めた。

「……それでも俺はお前を諦めない。

でもどうしたら良いんだろうな、少し一緒に考えようか……」







僕らはそれから、少し歩いてコンビニに行った。

瓦落くんはあまり喋らなかった。

でも、最近よく買う二人のお気に入りのパンと飲み物を一緒に買った。パンは半分ずつ交換できるやつだ。

そうしてあてもなくたどり着いた、小さな公園。とりあえずベンチに座った。

「なんか俺らって大体外にいるよな」
「ふんわりホームレスだね」

「確かに。家ないよな」
「僕、渋谷が居場所だったんだよね」

「分かる。なんかガヤガヤうるさくてさ。家帰れないんじゃなくて帰らないだけです、みたいな顔できてありがたいよな」
「うん、本当そう」

ふふ、と少し苦笑した。

「あの渋谷の人混みに紛れて母親から逃げれねえかな」
「できたら良いんだけどね」
「……だよなあ……。ガムいる?」
「いる」

「……前に河川敷に一緒に行った時さ、由真が早くおつとめ終わらせて早く消えたいんだって話をしてたじゃん。

何を悲しいこと言ってるんだてめえは、ってあの時思ったんだけど。事情を改めて聞くと、まあそりゃそう思うよなって……」

「いやあ……あは……」

瓦落くんはそれから少しの間、無言だった。
だけど切り出した。

「でもさ。俺はお前と生きたいから。
もう少しだけ頑張ってくれないか」

瓦落くんは僕の手をぎゅ、と握った。指の合間から温もりが伝わる。

「うん」

「でな……色々考えたけど。俺はやっぱり母親を倒すしかないと思った。じゃなければ、由真は本当の意味で自由になれない。何度考えても答えは同じなんだ」
「……うん」

「母親を倒そう。どんな手を使っても一緒に。良いか?」

僕は頷いた。僕自身、それしかないと思っている。

瓦落くんは繋いだ手の親指で、僕の指の背を撫でた。

「でもそのまま突っ込んでも死ぬだけだ。だからヒントがいる」
「ヒント?」
「お前の兄貴。さとるに会う。なんか知ってるかもしれない」

「でも……」
「分かってる。怪異だろ?失踪してる。どんな姿かも分からない。

……だけど、今のところ唯一母親から逃げられている存在でもある。ヒントを持っている可能性があるんだ。だから俺はまずはここに賭けてみたい」

「う、うん。分かった。でも本当に良いの?下手すると死んじゃうよ?

……僕なんかに関わるの、やめなよ……」

「ばかやろう。すげえ大ばかやろう。今更だろうが。俺はやりたくてやってんだよ」

「……」

じっと見つめ合う。

「そうそう。その顔しとけ、な。一緒に生きるって約束したろ」

にこ、と瓦落くんが笑ってくれて心底どき、とした。

「……でもさ、さとる兄ちゃんをどうやって探したら良いのか……」

「そいつ、どんな兄貴だった?」

「仲良かったよ。あの離れで一緒に暮らしてて、僕のこと一番可愛がってくれてたんだ。あと一番、僕の行く末のことずっと気にしてた」

「一番?」

「うん」

「なら……そいつはまだ渋谷の近辺にいる気がする。失踪って言っても。

なぜって、弟のお前の気配がするから。兄貴のサガだよ。俺にとってのナホみたいに」





それから僕らは渋谷を訪れた。

今日も、様々に事情を抱えた若い人たちが何でもない顔をして行き交う場所。

その頭上をポップな女の子たちの広告が踊っている。たくさんの人を呼び寄せ、抱え、飲み込む街。渋谷。


僕らはそこで、独特な怪異の気配を纏っている人を探した。ほとんどいないけど、稀にいるんだ。

見つけたら瓦落くんが声を掛けた。

「なあ、あんた。最近困ってたりしないか。頭ん中で変な声がしたりして」

でも話を聞く限り、女の霊に困っている人はいても、兄の話っぽいものが出てこない。

それに皆、早々と逃げてしまう。

「チッ警戒しすぎなんだよ」

瓦落くんは苛立ちを露わにした。

「まあまあ……」
「由真が初めて俺に話しかけてきた時も、こんな感じだったよな」
「そうだね」
「由真も大変だったんだな……」
「ねえ。あ、あの人!なんかすごい気配が」
「あいつか」

瓦落くんが走って行った。

「おい、待てよ!」

次第に雨がぱらつき出したりしたけれど、瓦落くんはフードを目深にかぶってでも、諦めようとはしなかった。

「なあ。止まれよ、お前。おい!死相出てんだよてめえ!」

どんなに無碍にされても諦めなくて。

「てめえ、そのまま放っておいたらホントに死ぬからな!?お祓いには行けよな!」






「……なかなかうまくいかないもんだね……」
「ああ……」

全然情報が掴めないまま、夜もだいぶ遅い時間。

僕らはよく行くマックの窓際の席で、並んでポテトを齧っていた。

「こんなに人がいるのになあ……」

外は雨がまあまあパラつき出している。都会の夜は明るい。こんな時間でも人がたくさん行き交っている。

「ごめんね瓦落くん。巻き込んで」

瓦落くんは僕の額を軽く突いた。

「だからその『僕たち他人です』みたいな言い方をいい加減やめろよな。冷てえし。次言ったら殺すからな」
「うん……ふふ」
「あと良い加減、駿とか言えよ」

「それは無理だなあ」
「他人行儀だなお前はよ」

最後のポテトを、瓦落くんは僕の口に差し込んだ。

「む。でもさもうこんな時間だし。今日はもう諦めようよ」
「せめて最後に一人だけ聞いてみようぜ」

ウーロン茶を飲み切ると瓦落くんは立ち上がった。






今までとはちょっと張る場所を変えてみようと、渋谷の別の場所に移った時。

信号の向こうから、大人しそうな中学一年生くらいの男の子が、携帯を見つめぶるぶる震えながら歩いてくるのに気づいた。

「ねえ、あの子」

指さした。様子がおかしい。それに禍々しい怪異の匂いがする。今までで一番の。

路地に入って行こうとする男の子に僕らはついていって、今回は僕が声を掛けた。

「……ねえ君!」

途端にビクウ!!と体を跳ねさせた男の子。

「いやだ、ごめんなさい!謝るから!!殺さないで!!」

ちょうどそばにあった自販機の灯りが、その子の心底怯えた顔を照らした。

「やだあ!ごめんなさい!」

「だ、大丈夫だよ。落ち着いて、ね?何かあったのかな?
君、とっても具合が悪そうだから心配で声をかけただけなんだ」

「にんげん……?」
「うん、そうだよ。僕ね、お札を持ってる。悪いやつはこれで追い払えるんだ。だから安心してね」

男の子は僕のお札をさっと握りしめた。

「これ頂戴」
「良いよ。ねえ、君。ところでお名前は?」
「ゆま」
「!そうなんだ、奇遇だね。僕も同じ名前。

どうしてそんなに怯えてるの?」

「『さとるくん』に……追いかけられてるんだ……」



「さとるくんって、お友達?」
「ううん。なんか……おばけみたいなやつ……」

「おばけって?」
「……トイレの花子さんみたいなやつ。

なんかね、公衆電話使って儀式をするんだ。それで呼び出すことに成功すると、どんな質問にも何でも答えてくれるって言われてるの。

だけど知ってること聞いちゃいけないんだって。聞くと怒って殺されるって……。

そ、それでね!

どんどん近づいてきて、最後は真後ろに来るんだって。でも姿を見ると、やっぱり怒って異世界に連れていかれるんだって!

今、クラスで流行ってて!怖いけど面白いって皆言ってて。やってみろよって言われて。

皆失敗してたし、軽い肝試しのつもりだったのに!」

「君だけ成功しちゃったんだね」

『ゆまくん』は何度も頷いた。

「ねえ、どうしよう。『さとるくん』、本当にどんどん近づいてくるんだ。

最後は真後ろに来るんだって噂で聞いたことあるんだ!

『ユマ、今〇〇にいる』って。僕の携帯に連絡来るんだよ!

どんなに居場所を変えても、どんどん寄ってくる。

さっきなんか、『ユマ、ユマ、ユマ、ユマ、どこだ』って何度も電話で言ってきてさ!

ねえ、怒らせちゃったらどうしよう、こわいよ、死んじゃうよお!」

そしてちょうどそのタイミングで、男の子の携帯電話が鳴った。

「キャアアアア!!」

男の子は悲鳴をあげた。

『ゆま』くんに執着する『さとるくん』。

もしかして、僕の兄ちゃんかもしれない。

「ねえ。この電話、代わりに僕が出ていい?僕が説得してあげる」

「え、い、良いの?」
「もちろん」

ドキンドキンと心臓が波打ちながらも、僕は未だ鳴り止まない電話に出た。

「もしもし……さとるくん?由真だよ」
『……』

雑音のような、荒い息遣いのような、ノイズみたいな音が聞こえる。

まずは本当に兄なのか確かめなきゃ……!

「……ねえ、さとるって名前さ、もしかして『幸を取る』でさとるって読ませたりする?そうなら珍しい名前だよね」

『……なぜ……知ってる……』

!!!

「ねえ、僕だよ、由真。彼岸 由真」

『……ゆま……どこに……いる』

「兄ちゃん、久しぶり。
この先の小さな稲荷神社ってところで待ってるから。来てね、絶対」

今行くと言わんばかりに電話は切れた。






そして僕と瓦落くんは今、夜の神社にいる。他には誰もいない。

「厄介なルール確認しとくぜ。

聞けばなんでも答えてくれる。
でも知っていることを聞いてはいけない。
真後ろに来る。
でも姿を見てはいけない。

だったな」

「うん……瓦落くん、だから目を閉じて。念のためお札握っておいて」

「いや、それよりも……」

瓦落くんは僕の正面に立ち、僕の手を握った。

「この手をお互いじっと見下しておく。ここから絶対に目を逸らさない。安全だろ?」

「うん!」

「絶対に乗り越えよう、な」

その時。

『ゆま』

「!!!!!」

背後から声がした。

瓦落くんによって強く握られた手。僕も同じように握り返した。

お兄ちゃんなの?と聞いてはいけない。知っていることだから。

「……ひさしぶり」

『ひさしぶり』

!!!

頭を撫でる感触がした。よく昔兄ちゃんがやっていた動作だ。でも感触がひんやりとどこかおかしい気がする。

懐かしいのに怖い。それが哀しい。

『そいつ誰だ』
「僕の大切な人だよ。一緒に生きたいと思ってる」

『ゆま。俺と生きよう』
「……!」

兄ちゃんが僕を後ろからぬるりとぎゅっと抱きしめた。

触られた範囲で分かる全体的な体の感じからして、なんだか大きな蛇みたいだ……。

母さんに似てしまったの?

そうか、だから自分の姿を見られたくなかったんだね……。

『ゆま。お前も俺の真似をしろ。助かる。

怪異は他の怪異の気配が、ずっとよく分かる。

だから母さんから逃げられる。

お前にそれ、伝えなきゃってずっとずっとずっと思ってた。

お前を一人にして、心配だった。けど、記憶が消えてく』

だからこんな怪異となってしまったのか……。

「ごめん、それはできない。

僕は瓦落くんを選ぶって決めたんだ。

だから母さんと決別しようと思ってる」

『そんなの死ぬだけだ』

「何かヒント、教えてほしいんだ。なんでも質問に答えられるんでしょう!?」

『……知らない。それに母さんは裏切りが大嫌いだ。そこの男も道連れで死ぬ。ほら、ゆま、俺のとこに来い。

今なら儀式、まだできる』

ぐ、と引き離されそうになった。

瓦落くんの手にぎゅ、とすがる。でも道連れという言葉が一瞬頭によぎる。

瓦落くんがぐいっと自分の方へと僕の身体を引っ張った。

「由真はそれが嫌だって言ってんだよ!兄貴だろてめえ!」
『黙れ。彼岸の家にこんな男はいらない』
「……ぐっ!?」

僕の背後から、にゅっと伸びた兄ちゃんの手。

それは全力で拒む瓦落くんの顔を強引に兄ちゃんの方へ向けさせた。

「やめろ、くそ……力強え……!」
『邪魔だ。消えろ』
「うあああああーーーー!」

悲鳴と共に、瓦落くんは消えた。

消えたんだ。

しっかり握っていたはずの手も。あの温もりも全部。

「いやあーーーー!」
『ゆま。心配いらない』
「やだあ!やだあ……!」

兄ちゃんは僕を強引に連れて行こうとする。

一緒に生きよう、そう言った瓦落くんの言葉が脳裏に浮かんだ。

「瓦落くんどこやったの!?」
『食 べ た』

「……!」
『母さんと戦うならどのみちこうなる』

「やだ……やだ……!返してよ!」
『いやだ』

「返してよ!」
『できない』

僕はいつも持っている小刀を取り出した。

「……僕、初めてなんだよ、生きたいって思えたの。瓦落くんのおかげなんだ。僕に、僕に瓦落くん返してよ!

じゃなきゃ兄ちゃんを、これで切り裂くことになる……ごめんなさい……」

兄ちゃんを殺したいわけじゃない。でもこのままではいられない。

「お願い……分かって……」
『ゆま……』

最後にぎゅっと僕を一瞬抱きしめて、兄ちゃんは離れた。

『……分かった。男は返す。

蛇は腹ん中、よわい。さっきの男、ずっと暴れてる。さすがに苦しい。由真の名前ばかり呼ぶ。

弱点は母さんも同じだ』

「……え」

『がんばれ、ゆま。いつかまた会いに来て』

そう言って兄ちゃんの感触はふいに消えた。

「っうあああああ!!」

そして入れ替わるように後ろから瓦落くんの声が聞こえた。振り返った。

「瓦落くん!!!」

瓦落くんが呆然とした顔でそこに座り込んでいた。







「あれは間違いなく腹の中だった……」

「大丈夫?瓦落くん……」

「出せよ!ってめちゃくちゃ暴れてて、気づいたら外だったんだ」

僕は瓦落くんの両手にそっと触れた。じんわり熱い。霊的な力をすごく感じる。いや、これはかなりのものを放出したあとの手だ……。

「それにしても、大事な時にそばにいられなくてごめんな。由真の声はずっと聞こえてたんだ。由真まで飲まれたらどうしようって……」

「大丈夫だよ。結果として『蛇は腹ん中が弱い』っていうヒントが聞けたし」

ゴク、とお互いに喉を鳴らした。

「「中から切り裂く……」」

二人で同じことを考えていたらしい。

「……実は実家に代々伝わる宝刀があるんだ。本当に強い霊力が封じられていて、その分、取り扱いが難しい刀。

あれで母さんを正面から斬ろうとした別の兄ちゃんは、そのまま死んでしまったんだけど……。

もしもあれを持ったまま飲み込まれて、中から切り裂けば倒せるのかも……でも……」

理論はわかる。

「でも危険すぎる……僕にあの宝刀が扱えるかっていうと……」

だけどこの宿命から逃れられるのなら。

ぎゅ、と手のひらを握った。

「……やる……」

瓦落くんと一緒にこれからもいられるなら、僕はやる。

「俺も連れて行け」
「!一緒に飲み込まれる気?」

「当たり前だろ」
「正気!?」

「もちろん。ずっと一緒だろ」
「なんでそこまで」

「理由なんかひとつに決まってる」
「……!」

「一緒に由真の家に行こう。俺も戦うから」





まずは僕の家の離れに行くことになった。

渋谷駅のホームで電車を待つ。到着を知らせる案内のアナウンスが流れた。

「ありがとうね。本当は一人で帰るのは怖かったんだよね」
「おお、素直に言うようになったじゃん」
「瓦落くんがいてくれて、その……すごく心強いよ」
「その調子」

瓦落くんがそばにいてくれるならきっと大丈夫なはずだ……そう思って、ぎゅっと手のひらを握る。

「あ、それでね。宝刀のありかと母さんのいる場所についてなんだけど。

一人では辿り着けないから絶対一緒に」

重要なことを共有しようとした、その時。

「キャアアーーーーッ!!!」

ふいに女性の悲鳴が聞こえたんだ。

見れば、目の前で並んでいたはずの女性が、突然倒れた。

何者かに足を引きずられるようにして、線路に落ちたんだ!

「いやああああーーーーっ!」

線路を見下ろすと、下半身のない駅員姿の霊が女性にがっしりと絡みついているのが、僕には確かに見えた。

「誰よこれえ!怖いいーーーっ!」

「瓦落くん、あれ!」
「ああ!」

「助けてええーーーーーっ!」

真っ青な顔で助けを求める女性。電車はもうすぐそこに迫っている!

『女……お前も……お前も……死ね……!』

地を這うような死霊の声が頭の中に響く。

知り合いではない様子だし、巻き添えにしようとしているっぽい。

なら迷う暇はない……!

僕らは線路に飛び降りて、死霊の動きを素早くお札で封じ、小刀で切り裂いた!

『グゥアアアアアーーー……ッ!』

僕らは解放された女性を無理やり線路脇に引っ張った。

プァアアーーーーーーン!!!

電車は女性がいた場所の少し先で、ようやく止まった。

だけど。

『よくも……』恨み言たっぷりの死霊の憤怒の声が、耳に響いた。

その後、駅員室で事情を聞いたところによると……。

少し前に、不慮の事故で駅員さんが亡くなったらしい。

あのような現象は、実は最近ときどき起きていたらしい。

無作為に誰かを道連れにしようとする、哀しき現象が……。







「災難だったな」

人のいない駅の一角で。

「いやあ、想定外だったね」

瓦落くんは不安そうに僕の肩を掴んだ。

「なあ、祟り受けすぎるのも確かにまずいんだろ?餌的な意味で。

俺、そこが正直かなり心配でさ。
だってお前、もともとすごい量を抱えてるってのを、前に見せてもらったし」

瓦落くんはそっと僕の胸のあたりに手を添えた。

「心配ありがとうね。まだいけると信じたい……
……う……っ!?」

その時。胸のあたりが燃えるように痛んだ。祟りだ。僕は崩れ落ちた。

だけど、いつもの感じとは訳が違う。もっと壮絶な苦しさだった。

「由真?おい、大丈夫か?またあの時のやつか?おい!」

同時に、頭の中に別の声が響いた。

『良い餌に育ったわね、由真。こんなに祟りがいっぱい。これならもう十分よ』

この声は、母さんの念だ。
大音量で怨念を流し込まれてるみたいだ!

くそ、さっきの祟りがやっぱり仇になってしまったか……!

『母さん、そろそろお腹がすいたわ。そろそろ帰ってきなさい由真』

「う……ううう……」

いやだ!食い殺す気だ……!

『由真、返事!』

頭の中がひび割れそうな声だった。怒った母さんの顔が一瞬脳裏に浮かんだ。

「は、い……」

それはまるで自分が操り人形になったかのような強制力だった。

その瞬間、僕はぶわりと身体が浮かんだかと思うと、一瞬何か強い闇に包まれた。

「由真!!」

瓦落くんの悲鳴が最後に聞こえた。





「由真」

ハッと気づいたら僕は実家の間に引き戻されていた。

「由真」

「!!!!」

母さんの声が真後ろで聞こえた。

「おかえり由真」

嬉しそうな声に心底震えた。