その謝罪、配信します。

翌朝。
 
学校は地獄みたいに騒がしかった。
 
校門前には報道陣。
スマホを向ける野次馬。
保護者たちの怒鳴り声。
 
「学校は説明してください!」
「いじめを把握していたんですか!?」
「教師も関与していたって本当ですか!?」
 
教師たちは顔面蒼白で走り回っている。
 
そして。
 
二年C組。
 
教室に入った瞬間、
全員の視線が一人へ集まった。
 
桐谷蓮。
 
昨日まで“陽キャの中心”だった男子。
 
今は。
 
机に座ったまま、
誰とも目を合わせられない。
 
スマホ通知は止まらない。
 
『犯罪者』
『学校辞めろ』
『きも』
『女泣かせ』
 
桐谷はスマホを伏せた。
 
見られない。
 
でも。
 
教室の誰も、
もう彼を助けない。
 
あれだけ周囲にいた友達も、
今は距離を取っている。
 
その時。
 
ガラッ。
 
黒崎レイが入ってきた。
 
一瞬で空気が凍る。
 
彼女はいつも通り、
眠そうな顔で一番後ろへ向かった。
 
桐谷が立ち上がる。
 
「……お前のせいで」
 
掠れた声。
 
レイは止まらない。
 
「俺、終わったんだけど」
 
教室が静まり返る。
 
レイはようやく振り返った。
 
そして。
 
少しだけ笑う。
 
「うん」
 
「……」
 
「知ってる」
 
桐谷の拳が震える。
 
「ふざけんな……!」
 
「ふざけてないよ」
 
レイは席に座った。
 
「でも不思議だね」
 
机に頬杖をつく。
 
「白石ゆあが終わりそうだった時、
君たちそんな顔してなかった」
 
「……っ」
 
「なんなら笑ってた」
 
桐谷が黙る。
 
反論できない。
 
「なのに、
自分が終わる側になった瞬間だけ」
 
レイは冷たく言った。
 
「“可哀想な被害者”みたいな顔するんだ」
 
教室の空気が重くなる。
 
誰も口を挟めない。
 
桐谷の目が赤くなる。
 
「……俺だって」
 
震える声。
 
「もう無理なんだよ……」
 
「うん」
 
「ネットでも学校でも、
みんな俺のこと見て……」
 
「うん」
 
「死にたいくらい……」
 
その瞬間。
 
レイの目から、
完全に感情が消えた。
 
「じゃあ死ぬ?」
 
教室が凍る。
 
桐谷も息を止めた。
 
だがレイは、
冗談みたいな顔で続ける。
 
「でもその前にさ」
 
静かな声。
 
「白石ゆあにも、
同じこと言わせた責任くらい取ってよ」
 
「……」
 
「君が“死にたい”って思った時間、
被害者はもっと長く生きてた」
 
沈黙。
 
レイは立ち上がる。
 
そして桐谷の前まで歩いた。
 
逃げ場がない。
 
「勘違いしないで」
 
レイは小さく笑う。
 
「私は君を救わない」
 
「……」
 
「でも」
 
ほんの少しだけ。
 
声が低くなる。
 
「ここからどう生きるかは、
君が決めればいい」
 
桐谷は何も言えなかった。
 
その時。
 
教室のドアが開く。
 
学年主任だった。
顔色が悪い。
 
「黒崎レイ」
 
教室中が息を呑む。
 
主任は硬い声で言った。
 
「校長先生がお呼びです」
 
空気が変わる。
 
ついに来た。
 
学校側の反撃。
 
だが。
 
レイはまるで興味なさそうに立ち上がった。
 
「めんど」
 
「……至急です」
 
「はいはい」
 
ポケットに手を突っ込み、
教室を出ていく。
 
その背中を見ながら。
 
誰も気づいていなかった。
 
廊下の奥。
 
帽子を深く被った男が、
レイをじっと見ていたことに。