その謝罪、配信します。

視聴覚室の空気は、
完全に変わっていた。
 
さっきまで笑っていた男子たちは、
誰一人笑っていない。
 
スマホ通知だけが鳴り続ける。
 
ピコン。
ピコン。
ピコン。
 
保護者。
学校。
知らない番号。
SNS。
 
全部が一気に押し寄せる。
 
「配信切れよ……」
 
男子の一人が震え声で呟く。
 
レイは即答した。
 
「嫌」
 
「なんでだよ!!」
 
「被害者が、
“やめて”って言った時は止まらなかったじゃん」
 
言葉が刺さる。
 
男子たちは黙るしかない。
 
視聴者数。
 
【72,504人】
 
コメント欄。
 
『ガチ犯罪』
『これ未成年でもアウトだろ』
『女の子保護して』
『加害者全員顔出せ』
 
桐谷が顔を歪める。
 
「……お前さ」
 
低い声。
 
「人生壊して楽しい?」
 
レイは少し考えるように首を傾けた。
 
「うーん」
 
そして笑う。
 
「君たちほどじゃないかな」
 
「……っ!」
 
「私は少なくとも、
先に壊してないし」
 
桐谷が拳を握る。
 
でも殴れない。
 
七万人以上が見ている。
 
ここで暴力を振るえば、
本当に終わる。
 
レイはその“理性の限界”を、
全部見透かしていた。
 
「さて」
 
彼女は白石ゆあの前にしゃがみ込む。
 
「立てる?」
 
ゆあは怯えた目でレイを見た。
 
「……なんで」
 
掠れた声。
 
「なんで助けるの……」
 
レイは少し黙った。
 
その質問が、
嫌いみたいに。
 
「別に」
 
視線を逸らす。
 
「見ててムカついたから」
 
ゆあの目から涙が落ちる。
 
レイは立ち上がると、
今度は桐谷たちへ向き直った。
 
「で」
 
スマホカメラを向ける。
 
「謝罪タイムいく?」
 
男子たちの顔が引きつる。
 
「……は?」
 
「選ばせてあげる」
 
レイは指を一本立てた。
 
「今ここで謝る」
 
二本目。
 
「それとも、
動画と個人情報がネットに永遠に残る」
 
「脅迫だろそれ!!」
 
桐谷が叫ぶ。
 
レイは頷く。
 
「うん」
 
あっさり認めた。
 
「でも君たちもやったじゃん」
 
「……」
 
「白石ゆあに」
 
沈黙。
 
コメント欄が荒れる。
 
『正論』
『加害者が被害者面すんな』
『謝れ』
『土下座しろ』
 
視聴者数。
 
【89,201人】
 
桐谷の呼吸が浅くなる。
 
レイは静かに言った。
 
「ねえ」
 
「……」
 
「今までさ」
 
少しだけ首を傾ける。
 
「泣いてる側の気持ち、
考えたことある?」
 
桐谷は答えられない。
 
いや。
 
考えたことなんて、
一度もなかった。
 
人気者。
サッカー部エース。
中心グループ。
 
笑う側。
 
ずっとそっちだった。
 
だから今。
 
自分が晒され、
追い詰められ、
全員に見られている現実に。
 
耐えられない。
 
「……っ」
 
桐谷の目から、
初めて涙が落ちた。
 
コメント欄が爆速で流れる。
 
『泣いてて草』
『被害者ぶるな』
『自業自得』
 
その言葉を見た瞬間。
 
彼は理解した。
 
ああ。
 
これが。
 
“逃げ場がない側”か。
 
レイはその顔を見て、
静かに笑った。
 
「ようこそ」
 
暗い声。
 
「被害者側へ」