その謝罪、配信します。

「君、“そっち側”なんだ」
 
その一言で。
 
桐谷蓮の表情が変わった。
 
笑っていた顔から、
一瞬だけ色が消える。
 
だがすぐに舌打ちして、
レイを睨みつけた。
 
「……意味わかんねぇ」
 
「分かりやすいよ」
 
レイは机に肘をついたまま言う。
 
「人って、
“関係ない話”にはそんな反応しないから」
 
後ろの男子が割って入る。
 
「お前マジでウザいな」
 
「うん、よく言われる」
 
「……」
 
「で?」
 
レイは首を傾けた。
 
「脅しに来たの?
それとも自白?」
 
桐谷が机を蹴る。
ガンッ!!
 
美月が肩を震わせた。
 
「調子乗んなよ」
 
低い声。
 
「お前みたいな奴、
その気になればすぐ消せるから」
 
普通の女子なら怖がる。
でも。
 
レイは笑った。
 
心底、楽しそうに。
 
「それ」
 
彼女はスマホを持ち上げる。
 
録音画面。
 
「最近の男子高校生、
脅迫まで配信してくれるんだ」
 
「……ッ」
 
桐谷の顔が引きつる。
 
「じゃあね」
 
レイは立ち上がった。
 
「次はもっと上手く脅して」
 
すれ違いざま。
 
彼女は小さな声で言った。
 
「白石ゆあ、
どこにいるか知ってるんでしょ?」
 
桐谷の呼吸が止まる。
 
その反応だけで、
答えは十分だった。
 
    ◆
 
夜十一時。
 
黒崎レイは、
古びたアパートへ戻っていた。
 
六畳一間。
散らかった部屋。
コンビニ弁当のゴミ。
モニター三台。
 
壁には、
大量の付箋と写真。
 
姫野ミウ。
長谷川教師。
学校関係者。
SNSアカウント。
人間関係図。
 
まるで捜査本部だった。
 
レイは無言で椅子に座る。
 
モニターに、
白石ゆあのSNSが映る。
 
最後の投稿。
 
『もう無理』
 
三日前。
 
レイは画面を見つめたまま、
小さく呟いた。
 
「生きてるよね」
 
返事はない。
 
その時。
 
スマホが鳴った。
 
非通知。
 
レイは出る。
 
「もしもし」
 
数秒、無言。
 
そして。
 
『……黒崎レイ?』
 
女の声。
震えている。
 
『あんた……何者なの……』
 
レイは椅子にもたれた。
 
「誰?」
 
『姫野ミウ』
 
少し意外そうに目を細める。
 
ミウは泣いていた。
 
『もう学校行けない……』
 
「そりゃそうでしょ」
 
即答。
 
『……っ』
 
『みんな私のこと……』
 
「嫌ってる?」
 
『……』
 
「当然じゃん」
 
冷たい声。
 
ミウが嗚咽を漏らす。
 
『死にたい……』
 
沈黙。
 
普通なら慰める場面。
でも。
 
レイは静かに言った。
 
「それ、逃げだから」
 
ミウが息を止める。
 
「自分だけ終われば楽だもんね」
 
『……っ』
 
「でも被害者は、
終わらないまま生きるんだよ」
 
部屋が静まる。
 
ミウは泣きながら言った。
 
『じゃあ……どうしたらいいの……』
 
レイは少し考えてから答えた。
 
「生きれば?」
 
『……え』
 
「苦しまれる方が、
見てる側としては面白いし」
 
最低な言葉。
 
でも。
 
ミウは電話を切らなかった。
 
レイはモニターを見ながら続ける。
 
「あと」
 
『……』
 
「本気で悪かったと思うなら、
一回ちゃんと被害者側に立ってみなよ」
 
「……」
 
「無視される側」
「笑われる側」
「居場所なくなる側」
 
レイの目が少しだけ暗くなる。
 
「そっちを知った人間は、
多分もう二度と同じことできないから」
 
ミウはしばらく黙っていた。
 
やがて。
 
小さな声。
 
『……白石ゆあ』
 
レイの指が止まる。
 
『あの子……桐谷に脅されてた』
 
空気が変わった。
 
レイの目から、
感情が消える。
 
『動画……撮られて……』
 
「どこ」
 
声が低い。
 
ミウが震えながら答える。
 
『旧校舎の地下……』
 
その瞬間。
 
レイは立ち上がっていた。
 
椅子が倒れる。
 
スマホ。
パーカー。
鍵。
 
最低限だけ掴む。
 
電話の向こうで、
ミウが怯えたように聞く。
 
『……何する気』
 
レイは玄関を開けながら答えた。
 
「別に」
 
静かな声。
 
でも。
 
今までで一番怖かった。
 
「ちょっと、
悪人を壊しに行くだけ」