その謝罪、配信します。

放課後。
 
教室には、
篠原美月と黒崎レイだけが残っていた。
 
夕焼けが窓から差し込む。
赤い。
まるで血みたいだった。
 
美月は机を握りしめたまま、
俯いている。
 
レイは椅子を後ろ向きにして座り、
コンビニのカフェオレを飲んでいた。
 
「……で?」
 
興味なさそうな声。
 
「助けてほしい子って?」
 
美月の肩が震える。
 
「一年生の……白石ゆあって子」
 
「なにされたの」
 
「……」
 
「言えないなら帰るけど」
 
レイが立ち上がりかける。
 
「ま、待って……!」
 
美月が慌てて顔を上げた。
目が赤い。
 
「その子……援助交際してるって噂流されて……」
 
「事実は?」
 
「違う!」
 
即答だった。
 
「ただ男の人と歩いてる写真撮られて……勝手に……」
 
レイはスマホを触りながら聞いている。
 
「それで?」
 
「クラスで孤立して……最近、学校来てない」
 
「ふーん」
 
薄い反応。
 
美月は焦ったように続けた。
 
「お願い……!」
 
「なんで私に頼むの」
 
「……え?」
 
レイは真っ直ぐ美月を見る。
 
その目には、
一切の優しさがなかった。
 
「先生に言えば?」
 
「無理だよ……!」
 
「親は?」
 
「信じてもらえなくて……」
 
「友達は?」
 
美月が黙る。
 
レイはそこで笑った。
 
「なるほど」
 
嫌な笑いだった。
 
「“見てただけ”の人か」
 
美月の顔が強張る。
 
「……違」
 
「違わないでしょ」
 
レイは淡々と言う。
 
「助けなかった」
 
「……」
 
「止めなかった」
 
「……っ」
 
「でも、自分は加害者じゃないって思ってる」
 
美月の目に涙が浮かぶ。
 
「私は……怖くて……」
 
「うん」
 
レイは頷く。
 
「みんなそう言う」
 
静かな声。
でも鋭い。
 
「“怖かったから仕方ない”って」
 
教室に沈黙が落ちる。
 
遠くで運動部の声が聞こえた。
青春みたいな音。
でもここだけ空気が違う。
 
レイはカフェオレを机に置いた。
 
「ねえ篠原さん」
 
「……」
 
「白石ゆあを壊したの、
本当に“主犯だけ”だと思う?」
 
美月の呼吸が止まる。
 
「笑ってた人」
「見てた人」
「話合わせてた人」
「無視した人」
 
レイは指を折る。
 
「全部共犯」
 
「……っ」
 
「で、君はどれ?」
 
美月の目から涙が落ちた。
 
「……最低、だよね」
 
「うん」
 
即答。
 
だがレイは続けた。
 
「でも」
 
少しだけ、
声の温度が変わる。
 
「“最低だ”って自覚できる人間は、
まだ終わってない」
 
美月が顔を上げる。
 
レイは窓の外を見たまま言った。
 
「本当に終わってる奴は、
自分を被害者だと思い込むから」
 
その時。
 
ガラッ。
 
教室のドアが開いた。
 
男子生徒三人。
 
中心にいたのは、
サッカー部エースの桐谷蓮。
 
学校で人気者の男子。
 
だが、
レイを見る目は明らかに敵意を含んでいた。
 
「お前さ」
 
桐谷が笑う。
 
「調子乗りすぎじゃね?」
 
美月の顔が青ざめる。
 
「き、桐谷くん……」
 
「姫野の件、お前だろ?」
 
レイは座ったまま答える。
 
「証拠は?」
 
「知らねえけど」
 
桐谷が近づく。
 
「学校めちゃくちゃにして楽しい?」
 
「別に」
 
「は?」
 
レイはようやく顔を上げた。
 
「最初から腐ってた場所が、
崩れ始めただけでしょ」
 
空気が張り詰める。
 
桐谷の後ろにいた男子が笑う。
 
「うわ、厨二病」
 
「漫画の悪役気取り?」
 
だがレイは全く動じない。
 
「で?」
 
「……」
 
「用事それだけ?」
 
桐谷のこめかみに青筋が浮く。
 
「……白石ゆあのこと、
あんま探んな」
 
美月が息を呑む。
 
レイだけが無表情だった。
 
「探られたら困るんだ」
 
「……っ」
 
桐谷の目が揺れる。
ほんの一瞬だけ。
 
その瞬間。
 
レイは笑った。
 
見逃さない。
獲物を見つけた目だった。
 
「へえ」
 
静かな声。
 
「君、“そっち側”なんだ」