『謝れ』
『被害者に土下座しろ』
『泣けば済むと思うな』
『配信切るなよ』
コメント欄が、滝みたいに流れていく。
姫野ミウは画面の中で震えていた。
涙でメイクは崩れ、
鼻をすすりながら何度も首を振る。
「ちが……私は……」
だが誰も聞かない。
視聴者数。
【31,842人】
増え続けている。
「やだ……やだ……」
ミウはスマホを閉じようとした。
その瞬間。
ピコン。
新しい通知。
【配信を終了した場合、追加データを公開します】
「……っ!」
すぐ下に添付画像。
担任教師とのキス写真。
「……なんで……」
声が掠れる。
その時。
イヤホン越しに、
黒崎レイの声がした。
『続けて』
「……」
『まだ終わってない』
「なんでこんなこと……!」
ミウが泣き叫ぶ。
『だって君、終わらせなかったじゃん』
静かな声。
『結城紗奈のこと』
ミウが息を止める。
『あの子、“助けて”って言ってたよね』
「……」
『でも君たち笑ってた』
コメント欄。
『最低』
『ほんとクズ』
『人殺しじゃん』
「ちがう……!」
ミウは頭を抱えた。
「私はそこまで……!」
『じゃあ、どこまでならセーフなの?』
レイの声が割り込む。
『盗撮?』
『悪口?』
『拡散?』
『孤立?』
一拍。
『自殺未遂は?』
ミウの呼吸が止まる。
『ねえ』
レイは淡々と言った。
『“みんなやってた”って、
免罪符にならないんだよ』
その瞬間。
配信画面に、新しい映像が流れた。
昼休みの教室。
結城紗奈が泣きながら、
「やめて……」
と言っている動画。
「――ッ!?」
ミウの顔色が変わる。
『え、なにこれ』
『ガチじゃん』
『可哀想すぎる』
『胸糞』
「ちが……これ……!」
『君が撮った動画』
レイが言う。
『君のスマホから回収した』
「……!」
『バックアップ消し忘れてたよ』
ミウの全身から血の気が引いた。
「返して……」
『嫌』
即答。
『被害者は、もっと嫌だったと思う』
コメント欄が加速する。
『人生終わったな』
『学校特定した』
『教師もやばくね?』
『ニュース行き』
ミウは崩れるように床へ座り込んだ。
「……ごめんなさい……」
か細い声。
だがレイは言う。
『誰に?』
「……え」
『視聴者にじゃない』
冷たい声。
『ちゃんと名前を言って』
ミウの唇が震える。
涙が落ちる。
「……結城……紗奈……さん……」
『うん』
「ごめんなさい……」
『聞こえない』
「ごめんなさい……!!」
配信のコメント欄が止まった。
一瞬だけ。
皆が見ていた。
誰かが壊れる瞬間を。
そして。
レイは小さく息を吐いた。
『はい、合格』
ミウが顔を上げる。
「……え……」
『君さ』
少し笑う気配。
『今の、人生で初めてちゃんと謝ったね』
ブツッ。
通話が切れた。
同時に配信も終了。
静寂。
残されたのは、
泣き崩れる姫野ミウだけだった。
◆
翌朝。
二年C組は異様な空気だった。
誰も騒がない。
誰も笑わない。
全員がスマホを見ている。
昨夜の配信。
総再生数――百七万回。
「……やば」
誰かが呟く。
その時。
教室のドアが開いた。
全員が反射的に振り向く。
黒パーカー。
ぼさぼさの黒髪。
黒崎レイ。
彼女は静かに教室へ入ると、
一番後ろの空席に座った。
誰も話しかけられない。
だが一人だけ。
震える声で言った。
「……あんた、誰なの」
レイは机に頬杖をつく。
そして、
教室中を見渡して笑った。
「次、誰が謝罪する?」



