その謝罪、配信します。

【配信開始まで 00:32】
 
「っ……!」
 
姫野ミウは震える指でスマホを閉じた。
無理。
意味が分からない。
誰かの悪質ないたずらだ。
そう思いたかった。
 
だが通知は止まらない。
 
『学校に通報しました』
『被害者に謝れ』
『裏アカ消しても遅い』
『配信まだ?』
 
「なんで……」
 
喉が乾く。
 
裏アカは鍵だった。
ホテル写真も消した。
飲酒動画も残ってないはず。
 
なのに。
 
全部、出ている。
 
しかも時系列順に整理されて。
まるで警察資料みたいに。
 
「ありえない……」
 
ミウは急いで親友グループLINEを開く。
 
【ねえやばい!!】
【誰かなんとかして!!】
 
既読一。
二。
三。
 
しかし返事はない。
 
その代わり。
 
グループから一人、抜けた。
 
「……え」
 
次。
また一人。
 
また一人。
 
最後には、自分だけになっていた。
 
「は……?」
 
呼吸が浅くなる。
 
その時。
 
ピコン。
 
新しいメッセージ。
差出人不明。
 
【人って面白いよね】
 
「……っ」
 
【沈む船から逃げる速度だけは速い】
 
ミウは反射的に通話ボタンを押した。
 
数秒。
 
プツッ。
 
繋がる。
 
「な、何が目的なの!?」
 
叫ぶ。
 
雑音。
そして、あの落ち着いた声。
 
『目的?』
 
「こんなの犯罪でしょ!?」
 
『そうだね』
 
あっさり認めた。
 
『でも、君たちも犯罪みたいなことしてたじゃん』
 
「っ……!」
 
『違う?』
 
ミウは言葉に詰まる。
 
『自殺未遂まで追い込んだ』
 
静かな声。
でも妙に冷たい。
 
『なのに君たち、今も普通に笑ってる』
 
「だ、だって……あれは……!」
 
『あれは?』
 
「みんなやってたし……!」
 
沈黙。
 
そのあと。
 
小さな笑い声。
 
『最低』
 
ぞわり、と背筋が凍る。
 
『自分で言ってて恥ずかしくならない?』
 
「……っ」
 
『まあいいや』
 
カチ、と何かを打つ音。
 
次の瞬間。
 
ミウのスマホ画面に、
自分の顔写真が映った。
 
盗撮。
今この瞬間の。
 
「――ッ!?」
 
立ち上がる。
カーテンを閉める。
部屋を見回す。
 
『安心して』
 
声が笑っている。
 
『別に部屋にはいないから』
 
「ど、どこにいるの……」
 
『君の“外側全部”』
 
意味が分からない。
 
『SNS』
『学校』
『友達』
『世論』
 
『人間って、一回嫌われ始めると、
勝手に崩れるんだよ』
 
ミウの呼吸が乱れる。
 
『で、本題』
 
画面が切り替わる。
 
ライブ配信ページ。
タイトル。
 
『姫野ミウ謝罪配信』
 
待機人数。
 
【12,483人視聴中】
 
「……うそ……」
 
『すごいね』
 
あの女――黒崎レイは言った。
 
『君、人気者じゃん』
 
ミウの膝から力が抜ける。
 
「やだ……」
 
『選んで』
 
レイの声は、異様なほど穏やかだった。
 
『自分で話す?』
 
『それとも私が暴く?』
 
「……」
 
『あ、ちなみに』
 
カチ、とまた音。
 
画面に、新しい画像。
 
教師とのツーショット。
ラブホテル前。
 
ミウの血の気が引く。
 
『これ、まだ公開してない』
 
「やめて……」
 
『先生、妻子持ちなんだって?』
 
「やめて!!」
 
『じゃあ謝ろうか』
 
時計表示。
 
【配信開始まで 00:10】
 
『ほら』
 
九。
 
『被害者の名前、覚えてる?』
 
八。
 
ミウの目から涙が落ちる。
 
七。
 
『結城紗奈』
 
六。
 
『君が壊した子の名前』
 
五。
 
「……っ……」
 
四。
 
『ねえ』
 
三。
 
『人を壊すのって、楽しかった?』
 
二。
 
ミウが嗚咽を漏らす。
 
一。
 
そして。
 
画面が切り替わった。
 
真っ暗な背景。
 
中央に映る、泣き崩れた姫野ミウ。
 
コメント欄が、一気に流れ始める。
 
『きた』
『本人!?』
『うわ泣いてる』
『謝罪まだ?』
『逃げんな』
 
視聴者数。
 
【23,941人】 
 
その数字を見ながら。
 
画面の向こうで。
 
黒崎レイは静かに笑った。