その謝罪、配信します。

翌日。
 
黒崎レイの名前は、
学校中に広がっていた。
 
“謝罪配信の女”。
“暴露屋”。
“学校を壊した危険人物”。
 
SNSでは賛否が割れていた。
 
『よくやった』
『正義の味方』
『加害者ざまぁ』
 
その一方で――
 
『やってること犯罪』
『私刑じゃん』
『次はこいつが加害者』
 
炎上はさらに大きくなる。
 
だが。
 
レイ本人は、
まるで興味がなかった。
 
昼休み。
 
彼女はいつも通り、
屋上でコンビニパンを食べていた。
 
そこへ。
 
「黒崎さん」
 
篠原美月がやってくる。
 
「白石さん、
今日学校来てた」
 
「ふーん」
 
「ありがとうって言ってた」
 
レイは無反応。
 
美月は少し困ったように笑う。
 
「嬉しくないの?」
 
「別に」
 
「……」
 
「感謝されるためにやってないし」
 
その言葉の直後。
 
屋上の扉が勢いよく開いた。
 
バンッ!!
 
数人の男子。
 
そして。
 
先頭にいたのは、
桐谷蓮だった。
 
だが以前と違う。
 
目が死んでいる。
 
「……何」
 
レイがパンを食べながら言う。
 
桐谷はスマホを握りしめていた。
 
画面を見せる。
 
そこには匿名掲示板。
 
スレッドタイトル。
 
【黒崎レイの個人情報まとめ】
 
美月の顔が青ざめる。
 
住所。
学校。
家族。
過去。
 
全部、晒されていた。
 
「……へえ」
 
レイは驚きもしない。
 
桐谷が低い声で言う。
 
「今度はお前の番だって」
 
「誰が?」
 
「ネット」
 
風が吹く。
 
桐谷は続ける。
 
「お前さ、
俺たちの人生壊したんだよ」
 
「うん」
 
「なのに自分だけ無傷でいるつもり?」
 
レイは少し黙った。
 
そして。
 
笑った。
 
「無傷?」
 
その言葉が、
少しだけ可笑しそうだった。
 
「私、
最初から傷だらけだけど」
 
桐谷が詰まる。
 
レイは立ち上がった。
 
「で」
 
「……」
 
「それで満足した?」
 
桐谷の拳が震える。
 
「俺……」
 
声が掠れる。
 
「毎日DM来る」
 
「うん」
 
「死ねって」
 
「うん」
 
「外歩けない」
 
レイは静かに聞いていた。
 
桐谷の目が赤くなる。
 
「……苦しい」
 
沈黙。
 
レイは数秒、
彼を見つめた。
 
そして。
 
「で?」
 
「……え」
 
「だから何」
 
桐谷が息を止める。
 
レイの声は冷たい。
 
「君がやった側の時、
被害者にも同じこと起きてた」
 
「……っ」
 
「今さら“自分だけ可哀想”みたいな顔しないで」
 
桐谷が俯く。
 
だが。
 
次の瞬間。
 
彼は絞り出すように言った。
 
「……じゃあ、
どうすればよかったんだよ」
 
レイが少し黙る。
 
風の音。
遠くの運動部の声。
 
そして。
 
「最初から、
壊さなきゃよかったじゃん」
 
静かな声。
 
当たり前すぎる答え。
でも。
 
一番残酷な答えだった。
 
その時。
 
ピコン。
 
レイのスマホが鳴る。
 
彼女は画面を見る。
 
瞬間。
 
目の色が変わった。
 
東條からのメッセージ。
 
【妹さんの件、調べ直した】
 
【当時の担任が見つかった】
 
空気が変わる。
 
レイの指先が止まる。
 
東條からさらに送られてくる。
 
【しかも今、別の学校で教師を続けてる】 
 
数秒。
 
レイは画面を見つめたまま動かなかった。
 
そして。
 
ゆっくり笑う。
 
その笑顔を見た瞬間。
 
桐谷は本能的に理解した。
 
ああ。
 
誰か終わる。