その謝罪、配信します。

屋上の扉が、
勢いよく開いた。
 
バンッ!!
 
冷たい風が吹き込む。
 
フェンスの向こう。
 
白石ゆあが立っていた。
 
制服のスカートが風に揺れる。
 
下を見れば、
校庭。
小さく見える人影。
悲鳴。
教師たち。
 
「白石さん!!」
 
女子生徒が泣き叫ぶ。
 
だがゆあは振り返らない。
 
「来ないで」
 
か細い声。
 
レイは立ち止まった。
 
東條も後ろで息を呑む。
 
ゆあの手にはスマホ。
 
画面には、
大量の通知。
 
『結局被害者ぶってるだけ』
『配信で有名になれてよかったね』
『次はこいつが炎上してる』
 
レイの目が細くなる。
 
最悪だった。
 
被害者が可視化された瞬間。
 
今度は“被害者”がコンテンツになる。
 
ネットはそういう場所だ。
 
ゆあが震える声で言う。
 
「もう嫌……」
 
風が強く吹く。
 
「結局みんな、
面白がってるだけじゃん……」
 
誰も返せない。
 
図星だった。
 
正義の顔をした視聴者たちも、
炎上を楽しんでいた。
 
ゆあの肩が震える。
 
「助けてくれたとか、
そんなのじゃなくて……」
 
涙が落ちる。
 
「また見世物にされただけ……」
 
レイが黙る。
 
東條が小さく言う。
 
「黒崎……」
 
だがレイは動かなかった。
 
ただ。
 
ゆあを見ていた。
 
かつての誰かを見るみたいに。
 
「……分かる」
 
小さな声。
 
ゆあが初めて振り返る。
 
レイはフェンスへ近づかない。
 
静かに言う。
 
「みんなさ」
 
風が髪を揺らす。
 
「助ける時ですら、
自分に酔ってる奴いるから」
 
東條が目を細める。
 
レイは続けた。
 
「可哀想な被害者を救う自分、
気持ちいいんだよ」
 
ゆあの涙が止まらない。
 
「……じゃあ、
なんで助けたの」
 
レイは少し黙った。
 
そして。
 
「ムカついたから」
 
「……え」
 
「壊される側見ると、
吐き気する」
 
淡々とした声。
 
「助けたいとか、
綺麗な理由じゃない」
 
ゆあがレイを見る。
 
レイは笑った。
 
でも。
 
その笑顔は、
少し痛そうだった。
 
「でもさ」
 
一歩だけ前へ出る。
 
「死ぬと、
加害者が楽になるよ」
 
空気が止まる。
 
「……」
 
「“可哀想だったね”で終われるから」
 
レイの声は冷たい。
でも。
 
どこか必死だった。
 
「生きてる被害者の方が、
加害者には都合悪い」
 
風が吹く。
 
「だから」
 
レイは真っ直ぐゆあを見る。
 
「死ぬな」
 
その言葉だけ。
 
妙に重かった。
 
ゆあの唇が震える。
 
「……でも」
 
「苦しい?」
 
ゆあが泣きながら頷く。
 
レイは少し考えてから言った。
 
「じゃあ一緒に苦しめば」
 
「……え」
 
「一人だからキツいんでしょ」
 
屋上が静まる。
 
レイはポケットに手を突っ込んだまま続けた。
 
「私は、
まだ加害者全員許してないし」
 
「……」
 
「君も許さなくていい」
 
東條が息を呑む。
 
普通なら、
“前向きになれ”と言う場面。
でもレイは違った。
 
綺麗事を言わない。
 
「無理に許すと、
もっと壊れるから」
 
ゆあの目から、
大粒の涙が落ちる。
 
レイは少しだけ視線を逸らした。
 
「だから」
 
小さく息を吐く。
 
「死ぬのは、
全部終わってからにしなよ」
 
数秒。
 
長い沈黙。
 
やがて。
 
ゆあの足が、
ゆっくりフェンスから離れた。
 
その瞬間。
 
後ろで誰かが泣き崩れる。
 
教師。
女子生徒。
 
でも。
 
レイだけは笑わなかった。
 
安心した顔もしない。
 
ただ静かに。
 
「……よかった」
 
誰にも聞こえないくらい小さく、
そう呟いた。