その謝罪、配信します。

校長室を出たあと。
 
黒崎レイは、
誰もいない非常階段へ向かった。
 
夕焼けが差し込む。
赤い光。
 
鉄の手すりにもたれ、
ポケットから飴を取り出す。
 
いちごミルク味。
 
包装を雑に剥がし、
口へ放り込む。
 
甘い。
 
でも。
 
全然、美味しくなかった。
 
「……はぁ」
 
小さく息を吐く。
 
その時。
 
ギィ、と扉が開いた。
 
「いた」
 
東條だった。
 
スーツ姿のまま、
ゆっくり階段を上がってくる。
 
レイは露骨に嫌そうな顔をした。
 
「尾行ですか」
 
「心配してる」
 
「警察が?」
 
「個人的に」
 
レイは鼻で笑った。
 
「キモ」
 
東條は苦笑する。
 
「口悪いな」
 
「優しくされ慣れてないんで」
 
一瞬。
 
東條の表情が止まった。
 
でも彼は何も言わず、
少し離れた場所に立つ。
 
「妹がいた」
 
突然だった。
 
レイの目がわずかに動く。
 
「……」
 
「中学生だった」
 
東條は夕焼けを見ながら続ける。
 
「いじめ」
 
静かな声。
 
「教師は動かなかった」
「学校も隠した」
「加害者は笑ってた」
 
レイの指先が止まる。
 
東條はポケットに手を入れたまま言った。
 
「だから君みたいなのを見ると、
止めたい気持ちと」
 
一拍。
 
「少しだけ、
分かる気持ちがある」
 
沈黙。
 
風だけが吹く。
 
レイはしばらく黙っていた。
 
そして。
 
「……死んだんですか」
 
東條は答えない。
 
でも。
 
その沈黙だけで十分だった。
 
レイは飴を噛み砕く。
 
ガリッ。
 
「最悪」
 
「うん」
 
「結局、
誰も助けない」
 
東條がレイを見る。
 
すると。
 
彼女は初めて、
少しだけ子供みたいな顔をした。
 
「助けてって言ったのに」
 
東條の呼吸が止まる。
 
レイは手すりを見つめたまま言う。
 
「私の妹も」
 
空気が固まる。
 
「……」
 
「学校行きたくないって、
毎日泣いてた」
 
淡々とした声。
 
でも。
 
感情を押し殺しすぎて、
逆に痛かった。
 
「でも私は」
 
レイは笑った。
 
乾いた笑い。
 
「面倒だったから、
ちゃんと向き合わなかった」
 
東條は何も言えない。
 
「そのうち、
笑わなくなって」
 
「……」
 
「ある日、
飛び降りた」
 
夕焼けが、
やけに赤かった。
 
レイは続ける。
 
「でね」
 
少し首を傾ける。
 
「加害者側、
今も普通に生きてる」
 
静かな声。
 
「恋愛して、
友達と笑って、
幸せそうに」
 
その瞬間。
 
レイの目から、
感情が消えた。
 
「だから嫌いなんだ」
 
風が吹く。
 
「“何事もなかった顔”する奴」
 
東條はゆっくり息を吐いた。
 
「……それで、
裁いてるつもりか」
 
「違う」
 
即答。
 
レイは笑う。
 
でも。
 
その笑顔は、
どこか壊れていた。
 
「復讐ですよ」
 
「……」
 
「正義じゃない」
 
沈黙。
 
長い沈黙。
 
やがて東條は言った。
 
「それでも」
 
レイが視線を向ける。
 
東條は静かに続けた。
 
「救われた子もいる」
 
レイは少し黙った。
 
そして。
 
ふっと視線を逸らす。
 
「……知ってます」
 
小さい声だった。
 
その時。
 
ガタッ!!
 
突然、
下の階から大きな音がした。
 
怒鳴り声。
 
誰かの悲鳴。
 
東條とレイが同時に振り向く。
 
そして。
 
廊下の向こうから、
女子生徒が叫びながら走ってきた。
 
「た、大変!!」
 
顔面蒼白。
涙目。
 
「白石さんが……!」
 
レイの表情が変わる。
 
「屋上に……!」